【閉店】新宿「若月」 なんど、ここでサボったものか。千円で楽しむ昼飲みの贅沢

【閉店】新宿「若月」 なんど、ここでサボったものか。千円で楽しむ昼飲みの贅沢

会社員時代に新宿駅前に通うことがあり、とうにノンベエだった私は仕事終わりの一杯に繰り出すことばかり考えながら働いていたものです。今日はまず駅前のあの店でビールから始めて、歌舞伎町の地下で焼鳥と酎ハイ、シメは三丁目のどん底かな…なんて計画を立てるのが好きでした。

そうこうしていると、気がつけばお昼から飲み屋街へ行きたくなり、昼食は思い出横丁に足が向く日々でした。

そのときに頻繁にくぐった暖簾がらーめんの「若月」。当時は300円台から麺類が食べられ、餃子をつけても千円でお釣りが来る二十代のお財布事情に優しいお店でした。

 

きまって新宿駅西口側から高低差のある横丁の中道を下るように大ガードへ進みます。何を食べるかは決めていないものの、そろそろ決めなくちゃという場所に「若月」がありました。

480円のラーメンとビール580円、時代とともに値段は多少かわりましたが、今もお財布に優しいのは変わらりません。

 

インバウンド向けの情報サイトでも大きく取り上げられている思い出横丁は、すっかり外国人が目立つ飲み屋街になりました。若月もだいぶ観光の方が増えましたが、その間には古い顔ぶれが今も変わらずあります。

 

引くと「ザー」ってなる金属脚の丸いす。回すと「ぎー」って言うのも変わらない。化粧板がかすれた合板のカウンターも昔のまま。厨房を目の前にして、麺を茹でる鍋、餃子鍋、表に向いた焼きそばの鉄板も何一つ変わっていません。

ご夫婦で切り盛りする若月は1948年(昭和23年)からやっている闇市起源の横丁でも最古参の存在です。

 

餃子もラーメンも美味しい。でも、私にとっての思い出の味はこの焼きそば。小サイズ(400円)でもノンベエの軽い昼食にはちょうどいい。〆に食べるのにもちょうどいい。

会社員時代にビールをお昼から飲んでいたかはご想像におまかせして、今の私は欲望のままに瓶ビール。ビールはキリンクラシックラガーとサッポロラガーが長く2銘柄体制で並んでいます。どちらも好きなので悩むところ。では乾杯!

 

ラガービールのラベルのトーンと焼きそばの色合いがぴったし一致することから、いつもこのアングルを楽しんでいます。

 

太麺をある程度作り置きし、注文が入るとキャベツと2種類のソース、軽い水でちゃちゃっと炒めて提供されます。麺がところどころ焦げていて食感に変化があり、肉が入っていなくとも肉みたい。薄味でソースや醤油、酢を自分好みでかけて完成です。私はそのままちびちびとつまんでビヤタンと交互に口へ運ぶのが好き。

 

昼は女将さんが焼きそば番をしていることが多く、あまりしゃべらない方ですがなぜかほっとする雰囲気です。気がつけば休憩時間もぎりぎり、あぁ、仕事に戻らなきゃ。

あれ、そうか、いまはゆっくり飲んでいていいのでした。

新宿思い出横丁の時間が止まった場所。あの頃の自分を思い出せるお店、それが「若月」です。

そして、ご閉店され、若月でした。

ごちそうさま、でした。

 

(取材・文・撮影/塩見 なゆ)

 

若月
03-3342-7060
東京都新宿区西新宿1-2-7 思い出横丁
11:00~25:00(日定休)
予算1,000円