QUEST

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アメリカの筋ジストロフィー協会が発刊しているQUESTの記事を紹介します。

アメリカの筋ジストロフィー協会による掲載許可をいただいています。
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平成26年11月5日付のアメリカ筋ジストロフィー協会(MDA)のホームページにて、現時点でのDMDに対する創薬の状況がまとめた記事が掲載されました。

▼PCT社のatalurenはEUで条件付認可取得
先の記事でもご紹介したとおり、ataluren(商品名 Translarna)は2014年8月にEUにて5歳以上の歩行可能な、ナンセンス変異を有するDMD患児に対する治療薬として条件付で承認されました。
9月には、atalurenの第3相臨床試験への患者登録が終了したことが報告されています。第3相臨床試験の最初の結果の公表は2015年下半期に予定されています。
この第3相臨床試験は48週間で行われ、EUでの完全承認、そしてアメリカでの承認のため必要な試験となります。

▼Summit社はutrophin modulatorを開発中
2014年10月にイギリスのSummit社は、SMT C1100(経口投与可能なutrophin modulator)が第1b相臨床試験において、安全性が確認され、筋肉にダメージを与える物質の血中濃度の減少が確認されたことを報告しました
SMT C1100は、筋肉蛋白質であるutrophinを増加させることを目的としています。utrophinはジストロフィン蛋白質類似物質で、筋組織において、ジストロフィンの代替として機能することが期待されています。
動物実験では、utrophinを筋組織内で増加させることで、ジストロフィン喪失の部分的な代償が可能であることがわかっています。
Utrophin modulatorの利点は、どのような遺伝子変異の型のDMDに対しても有効性が期待できる点です。

▼ReveraGen社のVBP15は、筋肉再生過程を正常化させる
2014年7月にReveraGen社はDMDに対する実験的治療薬のVBP15を用いた健常者に対する臨床試験を開始予定であることを公表しました。
VBP15はDMD罹患筋組織を、プレドニゾロンに類似したメカニズムにより、体重増加や成長遅延、情動変化などの副作用なく、修復する効果をもたらすことが期待されています
2014年10月13日にJournal of Cell Biologyに公表された研究結果では、マウスの隣接する筋組織を10日間ずらして損傷すると、2つの損傷組織間において組織修復シグナルの混乱が生じ、結果として筋組織の再生は起こらず組織の瘢痕化が生じることをみいだしました。
プレドニゾロンもしくはVBP15を投与することで、この修復シグナルの時間的なずれによる混乱が修正され、筋組織再生過程が正常化するようにみえるとのことです。
DMDでは慢性的な筋組織の損傷が、さまざまな時間経過で起こっており、プレドニゾロンにより修復過程が調整されることで、より正常に近い修復が可能になるのではないかと考えられています。VBP15ではプレドニゾロンによる有害作用が軽減されることが期待されます。

▼Sarepta社のeteplirsenの第3相臨床試験開始
2014年秋に、Sarepta社のeteplirsenの第3相臨床試験が開始となりました。
eteplirsenはエクソン51スキッピング誘導治療薬であり、ジストロフィン遺伝子のエクソン51近傍に変異のあるDMD患児が治療対象となるものです
この薬剤により、本来より短いけれども機能するジストロフィン蛋白質の産生が可能となり、機能的予後が改善することが期待されています
Sarepta社はアメリカ食品医薬品局(FDA)に対してeteplirsenの新薬申請を2014年末までに行う予定でしたが、FDAより2014年10月27日に追加情報提示の指示を受け、新薬申請時期を2015年中ごろに延期しています
Sarepta社はさらに、エクソン53、エクソン45、エクソン50、エクソン44、エクソン52などのエクソンスキッピング誘導治療薬を開発中です。

▼Prosensa社はdrisapersenの承認に向け前進中
2014年10月にProsensa社はFDAに対してdrisapersenの新薬承認を申請開始したことを公表しました。
drisapersenは2013年に第3相臨床試験において、望ましい結果が得られず、開発が一時中止されていました。
しかし、第2相臨床試験の追跡調査において、2014年3月に良好な結果が得られたとの報告があり、さらに臨床試験を継続することとなりました。
Prosensa社も、エクソン51以外のエクソン44、エクソン45、エクソン53、エクソン52、エクソン55のスキッピング誘導治療薬を開発中であり、ヨーロッパではエクソン44スキッピング誘導治療薬のPRO044が第1-2相臨床試験が終了しています。
またヨーロッパではエクソン45スキッピング誘導治療薬のPRO045が第2相臨床試験参加者募集中であり、エクソン53スキッピング誘導治療薬のPRO053 の第1-2相臨床試験が実施中です

翻訳:安田 英彰(医師)

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アメリカ筋ジストロフィー協会の許可をいただいて翻訳・記事を掲載しています。

Used with permission of the Muscular Dystrophy Association of the United States.

Excerpted from an article in MDA's Quest magazine.
少し古い8月のニュースですが、
Duchenne型筋ジストロフィー(DMD)に対して遺伝子レベルでの治療効果を発揮する薬剤が、世界に先駆けてEUで条件付承認のニュースです。

▽今回承認されたのはDMD患者の約13%を占めると考えられている、nonsense変異に起因するDMDに対する治療薬のPTC Therapeutics社のataluren(商品名:Translarna)です。
Translarnaはread through型薬剤であり、ジストロフィン遺伝子が点変異を起こし、その点変異が終止コドン(DNAの翻訳が誤ってそこで停止してしまうタイプの変異)になってしまうために、機能しない変異ジストロフィン蛋白が生成されるタイプのDMDに有効性が期待される薬剤です。

▽Translarnaは歩行可能な、5歳以上のnonsense変異を有するDMD患者に対しての使用が承認されました。EUの28カ国とアイスランドで販売認可されましたが、条件付承認であり、その条件とは、第3相臨床試験を完遂し、さらなる有効性と安全性に関するデータを提出することとなっています。

▽今回の承認は、174名のnonsense変異DMD患者を対象とした、48週間の無作為割付二重盲検多施設比較試験の解析結果を受けてのことです。
▽6分間歩行テストによる評価で、Translarna投与群は、48週間で平均12.9mの歩行距離減少を示したのに対して、プラセボ投与群では、平均44.1mの歩行距離減少であり、この差は統計的有意差には至りませんでしたが(p=0.056)、良好な傾向と考えられました。
▽さらにエントリー時点での歩行可能距離が350m以下の重症群に限って比較すると、48週後の6分間歩行テストでの歩行可能距離の差は68mであり、より大きな差となりました。また6分間歩行テストの歩行距離が10%低下するまでの時間についても、Translarna投与群では、プラセボ群より延長する効果がみられました。
▽この結果により、ヨーロッパ医薬品局は、Tranlarnaがnonsense変異DMD患者において、歩行可能距離の減少を緩やかにする効果があるものと認めました。
▽重大な副作用もみられなかったとのことです
▽以上より、TranslarnaはDMDの発症原因である遺伝子変異を直接的な治療対象とした薬剤として、初の承認を得ることとなりました。

翻訳:安田 英彰(医師)

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アメリカ筋ジストロフィー協会の許可をいただいて翻訳・記事を掲載しています。

Used with permission of the Muscular Dystrophy Association of the United States.

Excerpted from an article in MDA's Quest magazine.

最新の研究では、LGMDが多くの木からなる森であると明らかになってきています。


多くの人は「肢帯型筋ジストロフィー」と聞いても不思議な表情をするでしょう。どんな「帯」についてはなされているのか、「肢」とはどんなイメージのものか、と疑問に思うはずです。


この名前は解剖学の用語で、肩と腰を支える構造(骨と筋肉を含む部分)を示しています。肢帯型筋ジストロフィー(LGMD)は腰や肩の周りの筋力が悪化する遺伝子の異常による病気です。


長年、LGMDはこれらの筋肉(時にはほかのものも)が影響される筋ジストロフィーを示す形の定まっていない言葉でした。男女両方で発症し、程度や発症年齢がさまざまで、遺伝も優性遺伝、劣性遺伝の両方です。


1990年代に、MDA(アメリカ筋ジストロフィー協会)の協力も受けて、研究者がLGMDの分子構造について言及し始めました。


今日では、「肢帯型筋ジストロフィー」は、筋ジストロフィーのひとつのタイプを意味しますが、この中で多くのサブタイプにわかれます。多くの木が生えた森であり、そのうち解明されていないものもあります。


26程度のLGMDのサブタイプがわかっており、いずれも筋肉の機能にかかわる遺伝子の変異によります。なかには心臓の筋肉に影響するものもあります。


LGMDとCMD


LGMDのサブタイプには、細胞外基質(筋繊維が埋め込まれている物質)のたんぱく質の構造が十分でないものがあります。このたんぱく質は、αジストログリカンとして知られていて、筋繊維とその周りのものをつなぐ役割を果たすために、構造的な丈夫なだけでなく糖衣の特殊タイプや糖鎖形成に対応できなければいけないです。

遺伝子のいくつかが壊れると、αジストログリカンの糖鎖形成が不十分となり、先天性筋ジストロフィー(CMD)を引きおこされます。


同じ遺伝子の変異によってなぜCMDになる人と、LGMDになる人がいるのかは、完全に明らかにはなっていません。違いは、変異の位置によるかもしれませんが、別の原因があるかもしれません。


サブタイプは問題になるのでしょうか?


LGMDの種類が何かということは問題なのでしょうか?過去20年の間に、どんな知識が得られたのでしょう?

ひとつには、具体的にどの遺伝子やたんぱく質が影響を受けているかを知ることで、研究者たちは失われた機能を置き換えたり、悪い部分を中和したりするための方法を考えていくことができます。


また、より的確な診断を受けることで、その病気の標準的な予後(どんな問題が生じるか、問題ないと考えられる点、予防した方が良い点など)をよりよく理解することができます。LGMDの人が特定のタイプの支援グループや登録、研究に参加することができる機会を与えられることにもなります。