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人工知能はどのようにして「名人」を超えたのか?

2018-03-02 15:22:34 | 一口メモ

著:山本一成

 著者は東京大学将棋部に在籍し、アマチュア五段の棋力を持つアマ強豪であり、現在最強の将棋プログラム『ポナンザ』の生みの親でもある。そしてその最強将棋ソフト『ポナンザ』は、とうとうプロ棋士の最高峰に立つ佐藤天彦名人と対局を行い、圧倒的な強さで佐藤名人に二連勝してしまったのである。

 もはやこのポナンザに限らず、人工知能に勝てる人間は誰一人として存在しなくなってしまったのである。10年前には全くプロ棋士には歯が立たなかったAIが急速に強くなったのは、CPU、メモリ等ハードの機能向上と、自己強化学習による自動修復プログラム機能が確立されたためだと言う。
 これによってプロ棋士が過去に指した膨大な対局データーなどを、人間が手入力しないで自動的にコンピューターに取り込めるようになったのだ。さらに最近では、人間を超えたコンピューター同士が対局したデーターさえも、無限に取り込んでいるため、既に人間の領域を遥かに超えてしまったのである。
 
 さてコンピューターが強くなったのは、着手から終局までの全局面を総なめしているからだと想像する人が多いかもしれないが、それは錯覚あるいは全くの見当違いなのだと言う。つまり将棋におけるあり得る局面数は10の226乗も存在し、その全てを解析しようとすると100億年以上かかってしまうのである。まさに神の領域であり、今のところAIもそこまでは到達していない。
 ではAIはどのようにして最善手を探索するのであろうか。簡単に言えば、過去のデーターなどから無駄と思われる手を切り捨てて、有用と思われる手だけを集めて比較し高得点の手を選択しているのである。

 将棋の場合はこんな理論だけで人類最強棋士を簡単に打ち破ってしまったのだが、囲碁の場合は盤面が広く(将棋9×9、囲碁19×19)局面数も10の360乗に達してしまう。従って少なくともあと10年囲碁プログラムでは、プロ棋士には勝てないと言われていた。
 ところがである、なんとグーグルが開発した『アルファ碁』と言う囲碁プログラムが、2016年に世界トップクラス棋士に圧勝してしまったのである。さらに翌年人類最強と呼ばれる中国の柯潔九段も打ち破り、非公開で行われたプロ棋士達とのオンライン対局でも60連勝を記録し、もはや人間には手に負えない対戦相手になってしまったのである。

 このアルファ碁の強さに貢献したのが、ディープラーニング(深層学習)という手法で、人間の神経細胞の仕組みを模したシステムであるニューラルネットワークがベースになっているらしい。このニューラルネットワークを多層にして用いることで、データに含まれている特徴を段階的により深く学習することが可能になると言う。
 従って多層構造のニューラルネットワークに大量の画像、テキスト、音声データなどを入力することで、コンピュータのモデルはデータに含まれる特徴を各層で自動的に学習していく。さらにこれに加えて、将棋プログラムと同様にプログラム同士で戦わせて、自己強化学習による自動修復プログラム機能でプログラムをどんどん優秀なものに書き換えている。そしてとうとう将棋同様、既に人間の領域を遥かに超えてしまったのである。

 この本では前述したコンピューター将棋とコンピューター囲碁の歴史やその構造と進化の流れなどを分かり易く説明している。それを大きく分類して次のように括っているのである。
第1章 将棋の機械学習 将棋プログラムの変遷など
第2章 黒魔術とディープラーニング ディープラーニングでAIが急速に進化するなど
第3章 囲碁と強化学習 囲碁プログラムが強力になった理由など
第4章 倫理観と人工知能 AIはさらに進化して人間の知性、倫理観、価値観を学習するなど
巻末対談 グーグルの人工知能と人間との世紀の一戦にはどんな意味があったのか? アルファ碁VS韓国イ・セドル九段

 繰り返すが、著者は将棋実力者のプログラマーである。従って本書の大半は将棋や囲碁のプログラムにおけるAIの構造や進化等の解説に費やされている。だが最終章ではAIの更なる進化と、人間に与える恐怖についてもそれとなく触れている。
 AIが際限なく進化し、場合によっては人間の仕事の大半を奪い、不要になった人類を滅ぼすかもしれない。それも全ては人間たちの今後の行動にかかっている。
 つまりインターネットを含むあらゆる世界で、人間は出来る限り「いい人」に徹しなければならない。だから他人を非難したり戦争等を続けていると、AIもそれを学んで「不要になる人間達を滅ぼす」自己学習プログラムを創生してしまうかもしれないのだ。
 たぶんその時期は、一番難解と言われている完璧な翻訳プログラムが完成した時あたりかもしれない。そんなことを考えながら本書を読んでいると、単なる将棋や囲碁のプログラム解説本とは侮れないのだ。きっと誰もが、ひしひしと迫りくるAIの恐ろしさを、実感せずにはいられないはずである。

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