「外に、張り紙あったから。店番のバイト募集って」
「……ああ、」
俺は合点し、頭を掻いた。
「違うよ。俺が、中に入ることになったから」
「中?」
「うん。厨房にね。副店長の補佐って言うか。だから、店番がもう一人、必要になったんだよね」
「……ふうん」
さゆちゃんは拗ねたような表情で目を伏せ、
「じゃあ、お店に来てももう新太くんに会えないんだ」
「……」
――あれ。
あれれれ。
胸の奥がウズウズとくすぐったくなって、俺は思わず胃のあたりを押さえた。
さゆちゃんて、……こんな可愛かったっけ。
三村さんが全身を耳にしてこちらをうかがっている気配がする。
照れくささと戸惑いで軽くパニックになり、俺は「まあ、今後とも変わらずごひいきに」と若干寒い返しをしてしまった。
クフッと笑いを漏らしたのは三村さんだ。やはりしっかり聞き耳を立てているらしい。
「今日は、いっぱいあるね」
「え、はい?」
「フルーツタルト。この前から気になってたんだ。今日は買ってもいい?」
「も、もちろん」
俺は使い捨てのビニール手袋が入った箱に手を伸ばした。
勢い余って指先が触れ、弾かれた箱が床の上にぽとりと落ちる。
慌てて拾ったが、手が滑ってもう一度落とす。
「……大丈夫?」
「大丈夫、ぜんぜん大丈夫」
挙動不審な俺を見て、さゆちゃんは怪訝そうな顔をしている。
なんだこの子は、あんな可愛いことを言っておいて、無自覚か。
ケースの下に入り込んだ箱を捕まえ、やっと拾い上げた時、――もう一度、ドアベルが鳴った。