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咄嗟にジュニョンが声をかけました。
「着いたら電話しろよ。」
留学前に自分の大学を案内する約束をしてたんだ・・・なんて、苦し紛れの言い訳。
でもね、ボクジュはもう嘘をつき続ける事は出来ませんでした。
この大学の学生で、重量挙げ部です。チェロ専攻も、留学も全部ウソでした・・・と。
「すみません、先生。」
それだけをやっとの事で言ったボクジュは、背を向けて歩きだしました。涙がこぼれました。ジェイの前で、よく我慢できたね、ボクジュやぁ。
ジェイは、決して怒ってはいませんでした。戸惑うばかりでした。
ジュニョンは、説明しました。
理由は?・・・と聞かれ、好きな人が出来たらしい・・・とだけ答えました。
ボクジュは今さらながら、恥ずかしい思いをしていました。
自分がついた嘘のせいで、こんな事になってしまって・・・。ジェイは自分を嘘つきだと思っただろうな・・・とね。
そうです。シホがあんな行動に出たのも、ボクジュの嘘があったからで。嘘さえなければ、シホもしなかったわけで・・・。
でも、シホはこれじゃ無くても、何かボクジュを痛い目に合わせようとしたでしょうけどね。
ボクジュは、この何ともやりきれない思いを忘れる為に、必死に練習しました。
でも、なかなかふっ切る事は出来ません。
ジュニョンに電話しました。自分が告白した後のジェイの気持ちが気になっていたのです。
ジュニョンは、無理やりテグォンに合コンに連れ出されていましたが、この電話を口実に、とっとと抜けだして来ました。
ジェイに説明したとジュニョン。ただ、好きな人が誰かまでは言って無い・・・と聞いて、ボクジュはほっとしました。
ジュニョンは、気分転換に、ボクジュをゲームセンターに誘い、その後お酒を飲みました。
ボクジュ、やっぱり気分が乱れてる所為か、まー悪酔いしまくり。
ジュニョンがねぇ、面倒見が良いんですよ、これが。なんだかんだと言いながらも、飲んだくれるボクジュを最後まで面倒みて、家まで送り届けてあげました。
シホに妹から連絡が入りました。
とうとう父親が家を出て地方に仕事で行ってしまったとか。
妹は、原因がシホなのに、何も手を打たないと怒っていました。そしてその後、、家を出てしまったのです。
妹が家を出たと母から連絡が入り、シホは夜の街を探しました。
見つけて連れ帰ろうとしたんですが、タクシーで逃げられてしまいました。・・・どうなったのかしらね。
シホは、もう何もかも嫌になっていました。
そんな時、声をかけて来たのが、水泳部でジュニョンと仲が悪いギソク。実はギソク、大学でシホを最初に見かけた時から、好きだったようですね。
近づきたいけど、シホに相手にされていない感じです。
だけど、この時は、ギソクでも良いから一緒にいてほしいと思ったのかもしれません。シホは一緒に遊ぶと言いました。
ジェイがアヨンを訪ねて大学に行きました。その時、偶然ボクジュと会いましてね。
アヨンは、ボクジュを食事に誘ったのです。
行きたくはないけど、断りきれなくて、渋々ついて行ったボクジュ。
そこにジュニョンも呼ばれてやって来ました。
ジュニョンは、そのメンバーを見て、すぐさまボクジュの心境を察しました。
アヨンはボクジュのことを、ジェイから聞いていました。
で、好きな人というのがジュニョンだと誤解してるんです。だから、二人をくっつけようとお膳立てしたつもりでいるんです。
遠慮なく、そして悪気なくボクジュにあれこれと質問するアヨン。
それをにこにこして見ているジェイ。
ボクジュはいたたまれない思いになりました。そして、それを見ているジュニョンも、心が痛みました。
どーにかその場をやり過ごし、ジェイとアヨンと別れた時、ボクジュはどんよりと落ち込んでしまっていました。
ジュニョンはそれを見て、何とかボクジュを励まそうと、ドライブに誘ったのです。
海に出かけた二人。
子供のように騒ぎ、ボクジュは気分が軽くなって行きました。
「あなたに何もかも知られた。」
と、ボクジュ。恥ずかしい事も、辛い事も、全てジュニョンは見ていましたからね。
ジュニョンは、初めてボクジュに自分の事を話しました。
小学生の頃、時々ボクジュの机にお菓子が置かれていたのは、自分がした事だった・・・とか。
そして、ジェイが従兄で、両親だと言っているのは、伯母と伯父だ・・・と。実母は再婚してカナダに行った・・・とね。
あまりにも思いがけない話に、ボクジュはジュニョンを憐れむような目で見ました。それをジュニョンは咎めました。
自分は幸せだったから・・・と。
「誰でも心の底には傷を抱えているもんだろ。その傷に向きあいながら生きて行けば、そのうち強くなれる。お前も大丈夫だ。」
うんうん・・・とボクジュは頷きました。
その日以来、ボクジュは練習にいっそう励み始めました。
そして、試合の日。
不安がるボクジュを、ジュニョンが励ましました。
そして、ボクジュの最後の試技になりました。
ボクジュは、自分にできる・・・と言い聞かせ、バーベルの前に立ちました。
その時、目に入って来たのは、なんと、ジェイの姿。花束を抱えたジェイが会場に入って来たのです。
一瞬躊躇したボクジュ。
でも、チェコーチの声に我に返り、バーベルを握ったのです。
そして、必死の力でそれを掲げました。
“重い鉄の塊を持ちあげるから、その瞬間血管が浮き上がって顔が真っ赤になるし、二重あごになってベルトから肉もはみ出す。好きな人には見せられない”
そう言っていたボクジュ。
だから、重量挙げの先輩も、恋人を試合会場に呼ぶ事はしないんだ・・・とボクジュはドライブに行った時、ジュニョンに説明しました。
それが頭を過ぎった事は確かです。
思わず自分の姿を隠すようなそぶりをしましたから。
でもね、次の瞬間、自分が積み上げて来た努力を、皆の期待を無にするようなことはしなかったのです。それは、ボクジュが初恋に別れを告げる意志表示でもあったでしょう。
その時会場に駆けこんで来たジュニョン。
一瞬、結果は?・・・とボクジュを見つめました。
壇上のボクジュはジェイを見ていました。その視線を追ったジュニョンは、ジェイを見つけたのです。
ボクジュが言っていた言葉を思い出しました。
きっと、ボクジュはジェイだけには見られたく無かっただろう・・・と。
壇上から下がる時、ボクジュは泣いていました。