これもまた一年以上前の話になりますが、私は西岡利晃選手について、その濃密なボクシング人生と、最強のライバル、ノニト・ドネア選手との対戦決定までについて記事にしました。
今回は、ドネア選手との試合結果やその後日談、西岡選手の近況などを、付け加えたいと思います。
ちなみに、過去の記事については、こちらにリンクされています。
五度目の挑戦で世界チャンピオンになった西岡選手は、その後の防衛戦で世界のスター選手を次々と撃破し、当時のスーパーバンタム級では最も実績のある選手となり、WBCからもスーパーバンタム級名誉王者の称号を得ました。
一方、軽量級最強と目され、4階級を制覇し、ボクシング界では世界的なスーパースターとなったドネア選手。
この2人のアジア人が、ボクシングのメッカアメリカで激突するわけです。
試合会場であるロサンゼルスのホーム・デポ・センターは満員。チケットの売れ 行きも良く、会場の座席数を増席して対応したようです。
試合はアメリカの大手テレビ局HBOでメインイベントとして中継され、世界40ヶ国以上に流されます。
これは当然ながら、日本ボクシング界では最大のビックマッチ。
西岡選手は、日本人ボクサーとしては未踏の世界に足を踏み入れたのです。
そんな試合は、それぞれが持つWBO、WBCスーパーバンタム級のベルトを賭けて、また日本のボクシングファンの思いを背負って、2012年10月14日に実施されました。
試合のほうは、序盤からガードを固めた西岡選手がドネアの強打を丁寧にさばき、クリーンヒットは許しませんでしたが、攻めきれない展開が続きます。
そして6回、遂にドネアの強打が炸裂し、左アッパーを もらった西岡はダウンを喫してしまいます。
立ち上がり、そこから反撃に出た西岡選手は果敢に前に出ますが、9回、逆に強烈な右ストレートをカウンターで浴びてしまい、再びダウン。
立ち上がるも膝は揺れている中、ドネアが追撃したところで、セコンドからタオル投入。9R1分54秒でレフェリーが試合を止めました。
正直、結果は完敗といってもよい内容でした。。。
ドネアも動きもよく、ここ最近の中では最高のコンディションで臨んできたこともあると思いますが、世界のトップ中のトップとは、ここまで差があったのかと思う内容だったかもかもしれません。
しかし私は、最強を極めた者同士が到達することができる、究極の戦いがこの試合にはあったのだと思っています。
それは何故か?
その理由の一つは、二人のモチベーションの高さです。
前回のラファエル・マルケスとの試合で引退も考えた西岡選手。
しかし同じ階級に軽量級最強と言われるドネアがおり、彼と戦わずは終われないし、彼以外ではもう燃えることができないと感じていました。
西岡選手は他の選手との試合は一切はさまず、ドネアとの戦いだけに備えてきており、「引退」の言葉こそ口には出していませんでしたが、これが最後の相手になるかもしれないと言う思いがありました。
一方ドネアも、西岡選手をこの階級で最強の相手と認めており、早くから対戦を望んでいました。
「この階級に上げてから、ずっと彼との戦いを望んできた。彼との戦いがこの階級での僕のゴールさ。」とも語っていました。
プロモータなどの事情により対戦はすぐには叶いませんでしたが、この対戦が実現した時、単に強い相手との対戦というだけでなく、西岡選手の思いをくみ取った以下のような発言もしていました。
「彼は私との戦いに人生を懸けている。敗れたら引退することも分かっている。その相手に選ばれて光栄だ。」と。
お互いを最強の相手と認めて、対戦を望んでいた二人。
実現まで1年の時間を要しましたが、この試合にそれぞれが特別な思いをもって臨んでいたのでした。
そしてもう一つの理由、それは試合後のドネアのコメントにあります。
西岡選手との試合後も防衛を続けてきたドネアでしたが、ある取材で「今まだ戦った選手の中で最強と 相手は?」という問いに「ニシオカ」と答えていました。
「(他人からは)イージーな戦いに見えたかもしれないけど、もし僕が我慢強く戦わなかったら西岡に捕らえられていた。彼の左ストレートのプレッシャーの中で戦い続けることは、非常に困難だった。」
「西岡がNo.1だ。だから彼との試合を望んでいた。」
これは海外での取材コメントであり、日本人向けのリップサービスではありません。
やはり、外から見ている我々が思っている以上に、紙一重の中で行われた、両者にとって厳しい戦いだったのかもしれません。
ドネアに敗北した1ヶ月後、西岡は「すべてやり切った」と言い、現役を引退します。
現在は、関西に自分のジムをオープンし、ボクシング解説者などでも活躍しています。
ドネアは現在も現役バリバリで、先日5月31日には遂に5階級制 覇を達成し、まさに歴史に名を連ねるスーパーボクサーへと前進し、そして更なる高みを目指そうとしています。
そんな二人は対戦後も交流は続いており、西岡が自分のジムを開いた時には、ドネアから花が贈られたり、ドネアが来日した際には西岡と一緒に食事をするなどしているようです。
つい先月もWOWOWのボクシング中継で、ゲスト解説として、西岡と共にドネアが出演していました。
いまではお互いを友人と語っており、公私共に良い関係が続いているようです。
ちなみに余談ですが、ボクシング界では世界的なスター選手であるドネアのようなボクサーが、日本のボクシング番組のゲスト解説をするなんて、通常は考えれらないことです。
ドネアは日本にも沢山の友人がおり、日本には度々 遊びに来ていますし、本当に親日家なんですよね。うれしい限りです。
それにしても、かつて拳を交えたライバル同士が、対戦前も対戦後もお互いを認め尊重している様子は、見ていて本当に気持ちが良いものです。
またまた某兄弟の話をぶり返すつもりはありませんが、ボクシングでは試合前に相手への威嚇や罵り合いをする選手が時々います。
メディアでも、そんな姿を面白おかしく取り上げる傾向にあります。
しかし、そんな風に騒ぎを起こしたり、上っ面のパフォーマンスをすることをファンは本当に望んでいるのでしょうか?
西岡とドネアのように、互いに敬意を示し戦いあい、その後にはノーサイドとなり、再び抱き合う姿こそが、ファンに見せるべき姿ではないでしょうか。
実際、日本で行われる最近の世界戦などでも、このようなシーンはたくさん生まれています。
少し紹介してみましょう。
この写真は2014年4月23日に行われたIBF世界スーパーバンタム級タイトルマッチで、王者キコ・マルチネスと挑戦者長谷川穂積が前日計量の後、翌日の健闘を誓いお互いに握手をしているシーンです。
現王者であるキコ・マルチネスが、挑戦者とはいえバンタム級で10度の防衛記録を持つ元チャンピオンに、いかに敬意を払って接しているのかが分かる一幕です。
2012年6月20日、日本で初めて世界チャンピオン同士が戦う、WBA/WBC世界ミニマム級王者統一戦が行われました。
両チャンピオンのプライドが激しくぶつかりあう素晴らしい試合となり、結果は、井岡一翔選手が僅差の判定勝ちで日本初のWBA/WBC統一王者になりました。
しかし、試合以上に感動したのが、試合後に撮影されたこの一枚。
勝者の井岡選手の両側で笑っているのは、負けた八重樫東選手とそのジムの会長である大橋会長。周りは両セコンド陣です。
通常、試合後の選手達がこのように笑顔で一緒に撮影することは、めったにありません。
まさしくノーサイド、試合に携わった全ての人達が主役となった瞬間ではないでしょうか。
2014年5月7日、チャンピオン高山勝成と挑戦者小野心のあいだで行われたIBF世界ミニマム級タイトルマッチは、両者激しい打ち合いのすえ、高山選手が勝利しました。
こちらは試合後のインタビュールームで、再び顔を合わせた両選手が健闘を称え抱き合うシーンです。
彼らがどのような思いで試合に臨み、このとき何を感じていたのか、想像しただけで胸が熱くなります。
意味のないビッグマウス発言、余計な煽り映像などではなく、こういった姿こそメディアはもっと伝えてほしいものです。
もちろん、ボクシングはこれら世界戦だけではなく、。国内チャンピオンやランカー、四回戦ボクサーなどの選手がいます。
彼らの多くもまた、(相手に)礼を持って(ファンに)忠義を尽くすサムライ魂でリングに上がり、ファンに多くの感動を与えています。
そこには無駄なパフォーマンスやチャンピオンの肩書きさえもいらないのです。
まさに死力を尽くし命がけで戦い、試合が終われば、お互いを認め称え合い、両者が心を通わせる姿にファンは胸を打たれるのです。
そしてその試合を終えたあと、勝っても負けてもボクサーには何物にも代えられない心の勲章が残り、我々ボクシングファンには忘れられない感動が残るのだとおもいます。
そしてこれこそが、ボクシングの本当の姿、「This is Boxing」なのではないでしょうか。
(終わり)
次回からは、バーナード・ホプキンス編。
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