Quacks | First Chance to See...

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エコ生活、まずは最初の一歩から。

 19世紀のイギリス医学界を舞台としたBBCのコメディ。1話30分で全6話。タイトルの「Quacks」とはヤブ医者のことで、恥ずかしながら私は初めてこの英単語を知った。

 

 高慢ちきな外科医のロバートをロリー・キニア、その友人で先進的な治療を志す(が失敗ばかりしている)精神科医のウィリアムをマシュー・ベイントン、二人の上司にあたる病院長のドクター・ヘンドリックをルパート・エヴェレットが演じている。第2話では、チャールズ・ディケンズ役でアンドリュー・スコットもゲスト出演している。内容的にグロそうで、おまけに英語の難易度も高そうだったが、キャスティングに目が眩んで観てみることにした。

 

 

 この時代、外科医は閉ざされた手術室ではなく、見物しやすいよう階段教室を使って同業者はおろか怖いもの見たさのご婦人までも招き入れ、まるでショーか何かのような塩梅で外科手術を行っていた。勿論、衛生観念などありゃしない。ロニー・キニア演じるロバートは、敢えて洗濯しないままの血まみれ手術用エプロンを着け、洗浄しないままの血まみれ手術用ナイフを手に取る——血まみれだからこそ、自分がこれまでにいかにたくさんの手術をこなしてきたかが観客に伝わる、という理屈らしいが、そんな格好で「これから患者の足を切断します」とか言い出された日には、その血なまぐささたるや、『三文オペラ』のマック・ザ・ナイフ以上だよ……。

 

 というわけで第1話で早くも脱落しそうになったが、第2話目に出てくるアンドリュー・スコットにつられてもうちょっと頑張ってみたところ、ありがたいことに血なまぐささはかなり軽減されたのと、主要キャラクターの性格とか立ち位置が把握できたのとで、第1話を観た時と比べて笑いのツボがはるかに掴みやすくなった。よっしゃ、これならいける!

 

 かくして無事に全6話を見届けてから改めて振り返ってみると、「本当は医者になりたいのに、女には無理とけんもほろろに言われ続けるロバートの妻」にかなり焦点が当たっていて、しかも単なるコミックリリーフに終わっていなかったのが印象的だった。そう言えば、シェイクスピアを主人公にしたコメディ「Upstart Crow」でも、「本当は役者になりたいのに、女には無理とけんもほろろに言われ続ける女中のケイト」というキャラクターが出てきて、当時の男たちの偏見を逆照射していたっけ。

 

 こういう形で笑いを取れるのは、「女性だって医者にも役者にもなれる」が当たり前とされている社会だからだ。それにひきかえ、日本では未だに「男社会の中で一途に頑張って女医/女優になった立派な女性」しか描けないんだよなあ。