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『1984年のUWF』
柳澤 健
文藝春秋
1800円+税
2017年1月刊

うーん、なつかしいなあ、と何度も胸奥で呟きながら読みました。

女性読者のみなさん、今回はすみません。

プロレスの本です。

私が小学生の頃(1966年から1972年)、プロレス中継は大人気で、「格闘の神様」の子の私は、当然、大ファンというより、にっくき父を(その頃はにくたらしくてたまらんかったので)将来ぶっ飛ばすために、真剣に技を覚えるべく見ていました。

ジャイアント馬場、アントニオ猪木、大木金太郎(この人は頭突きが十八番)、鉄の爪のエリック、ザ・デストロイヤー、頭突きのボボ・ブラジル、フレッド・ブラッシー、ジン・キニスキー、ブルーノ・サンマルチノ、ルー・テーズなどなど、彼らの技を学校で試してみる日々でした。

両足揃えたドロップキックなんか、同級生の頭の上に私の両足が飛んでいました。これ、今考えると凄い子どもだったと思います。そして、そのまま床に落ちると、ものすごく痛いけれど、ぐっと痩せガマンで平気な顔をしていました。プロレス技は、レスラーはなにげなくやっていますが、一般人がやると、相当に痛く、体にもダメージがあることを発見したものです。

鉄の爪・アイアンクローというのは、片手で相手の左右のこめかみを鷲づかみして、万力みたいに締めますが、怪力少年の私の鉄の爪は、必殺技でした。レスラーを真似して、一生懸命に分厚い電話帳を破ろうとしますが、破れなくて、「少年マガジン」や「ぼくら」(これです、タイガーマスクが載っていたのは)などをメリメリと破き、同級生たちや大人をびっくりさせていたものです。

私が成長するにつれて、プロレスはショーだとわかり、興味も薄れていきましたが、その時、「おおっ、こいつは凄い」と感じさせてくれたのが、佐山聡ことタイガーマスクの空中戦でした。覆面レスラーというとミル・マスカラス(素晴らしい筋肉の)ですが、タイガーも格好よかったです。この人の動きは、そのへんのレスラーとはレベルが違いました。それがUWF(ユニバーサル レスリング フェデレーション)という団体の登場になったのです。UWFは、限りなく真剣勝負に近いと言われましたが、やはり、ショーでした。それで佐山がシューティングという団体を作ったりします。

本書では、他に関節技の藤原喜明、前田日明、高田延彦、船木誠勝、鈴木みのるらが出てきますが、彼らの目指したもの、それぞれの人物の考えが叙述されていました。格闘技というのは、単純にどれが最も強いのかと知りたくなります。

しかし、結局は、どれがではなく、「誰が」強いのかなんでしょうね。400戦無敗のヒクソン・グレイシーという化け物もいて、彼のグレーシー柔術が最強かというと、そうとも言えません。同じグレーシー柔術をやっているヒクソンの身内の何人かは、日本人の桜庭に負けていますしね。

読者の中にもMMA(総合格闘技)をやってて、秋にデビューする人がいますが、やはり、喧嘩に近い「これ」が最強でしょうかね。私の父は、武道やボクシング・レスリングを習って強くなるのは、喧嘩屋としては邪道という人で、私が何かを習いに行きたいと言っても、ダメの一点張りで、私もそれじゃ、自分で修行してやらぁと決意していました。

カール・ゴッチという伝説のレスラーがいたのですが、この人など70歳をすぎても筋肉マンで、ポールに鯉の吹き流しみたく横に水平を保って、腕力だけで静止しています。学生の頃、すでに40代後半のこの人がこれをやっているのをみて、すぐに真似しました。人間の肉体とは、鍛えぬけば、必ず、それなりに応えてくれます。今の環境では、へばるまで鍛えられませんが、心はヤル気まんまんです。

UWFが、真剣勝負に近いものを目指す中で、いかに揺れたのか、プロレスファンには必須の書と言えます。純粋に格闘に興味のある人は、

『佐山聡のシューティング上級編』(講談社)
『藤原喜明のスーパーテクニック』(講談社)
『修斗読本』(日本スポーツ出版社)
『スーパー・タイガーシューティング』(山手書房)

などが面白くタメになるでしょう。

この年になっても、考えると燃えてきます。プロレス・格闘技ファンの人、ご一読を!

『人間にとって人間以上に美しいものがある筈がない』
(坂口安吾『欲望について』)

このレビューで美達が紹介した本