首相官邸屋上に小型無人飛行機が落下していたということがニュースになっています。しかも、単に落下していただけではなく、同機に括りつけられていた容器から放射性物質が検出されたとのことで、大きな話題になっています。
この事件では被疑者が自ら出頭し、警察はこれを「威力業務妨害」を理由に逮捕したとまで報道されています(なお、この逮捕が逮捕状を後で請求する緊急逮捕なのか先に逮捕状を請求する通常逮捕なのかはわかりません)。

さて、本件の被疑事実は「威力業務妨害」です。近時「威力業務妨害」で捜査・検挙される例として多かったのが、インターネット上の掲示板における殺害予告、スーパーやコンビニなどでの針などの混入、その他、企業等への危険物の送付などです。
一般に刑法上の「業務妨害」には2種類あり、それは刑法233条後段の偽計業務妨害(なお、前段は信用毀損罪)と同234条の威力業務妨害です。偽計業務妨害の構成要件は「虚偽の風説を流布し、又は偽計を用いて、その業務を妨害した」ことで、威力業務妨害は「威力を用いて人の業務を妨害した」ことです(法定刑はいずれも3年以下の懲役又は50万円以下の罰金です)。
両罪には、いわゆる「論点」が少なからずありますが、ここでは「偽計」と「威力」について簡単にお書きしましょう。偽計とは「人を欺罔[ギモウ]し、又は人の不知、錯誤を利用すること」とされ、威力とは「人の自由意思を制圧するに足る勢力の使用」をいうとされています。今回は威力業務妨害ですので、上記のような放射性物質を積んだ小型無人飛行機を落下させたことが、「人(本件では首相を含む官邸職員か、あるいは国という法人か)の自由意思を制圧するように足る勢力の使用」に当たると考えられたということになります(ちなみに、猫の死骸を事務机の引き出し内に入れておき被害者に発見させたことが威力業務妨害とされたものとして、平成4年11月27日最高裁決定)。
業務妨害罪は、その文言にもかかわらず、侵害犯ではなく、いわゆる危険犯だと考えらえています(昭和11年5月7日大審院判決・昭和28年1月30日最高裁判決)ので、実際に業務が妨害されたことは必要ではありません(業務が妨害される危険が発生した段階で既遂です)。さらには、公務執行妨害罪とは異なり、この「業務」とは事実上平穏に行われていれば足り、必ずしも適法なものである必要もありません。もっとも、当該行為が犯罪を構成するような重大な違法性がある場合には、当該の業務には要保護性はないので、本罪の保護対象から外れます。

以上のような前提を抱えれば、今回被疑事実が威力業務妨害であったということに不相当さはないと考えられます。

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