今日は手短に。しかし、思いのほか「重い」かもしれません。

 

財産犯の保護法益は、それぞれの犯罪で異なり、例えば窃盗罪(刑法235条)や詐欺罪(刑法246条)などでは、個々の財物・財産上の利益の「占有」だと考えられ、強盗(刑法236条)ではそれに身体の安全などが加わります。委託物横領罪(刑法252条)では、委託信任関係も保護法益に数え上げられ、背任罪(刑法247条)では個別の財産ではなく、全体財産の保護(つまり、財産が減らないということの利益)などがあります。また、器物損壊罪(刑法261条)では、物の効用や所有権だとされます。

対して、財産罪では、領得罪(窃盗罪・詐欺罪・恐喝罪・強盗罪・横領罪など)と毀棄・隠匿罪(器物損壊罪)に分けることができるとされており、この領得罪の共通の要素として「不法領得の意思」が要求されるとされています。この不法領得の意思は、(犯罪の類型により変わり得るが)①権利者を排除して、他人の物について自己の所有物として振る舞う意思である、権利者排除意思と②その物によって何らかの効用を得ようとする意思である、利用意思の2つからなるとされています。①権利者排除意思は、不可罰である(はずの)使用窃盗(無断借用のこと)との差異を作るために必要であり、②利用意思は器物損壊罪などの毀棄・隠匿罪との区別のために必要だとされています。

 

ここまでは教科書に書いてあること。

しかし、よく考えましょう。財産犯にはそもそも「毀棄的要素」、つまり、その財物の効用を正当な権原を持った者が獲得できない、つまり、言い換えれば保管・使い続けられないということにあるという疑いが持ち上がってきます。領得意思における権利者排除意思はあくまで「使用窃盗(無断借用)」に対応しているだけであり、当該の物が返ってくることが念頭に置かれています。それでも、例えば自動車などでは使用窃盗も違法視され、窃盗罪が肯定されていることを考えると、権利者排除意思というのは不要で、そもそもは可罰的違法性の問題にすぎないのではないかという面があります(実際、権利者排除意思を主観的違法要素として、意思により違法性を「加算」する学説があります。この説の場合、加算が不要なレベルの権利侵害があれば、わざわざ権利者排除意思を要求する必要はありません)。

そうなると、利用意思こそが領得罪の特性に変わります。利用意思はあくまで物の利用を狙っているというだけであり、被害者の物の利用状況は、行為者(犯人)の利用意思の有無に左右されません。

そうであれば、やはり、原型は「物の効用を喪失させること」なのではないか。これが犯罪の本体なのであれば、保護法益は、少なくとも「物の効用の維持・獲得の可能性」だとみる余地が十分にあるのです。

 


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