1928年(昭和3年)6月4日に制定された「むし歯予防デー」は、
1939年(昭和14年)「護歯日」へと改名された。

国民の体位向上施策における衛生思想普及の1つとして行われていた健康週間(昭和5年~毎年1月)のさらなる強化と実施時期変更(5月2日から1週間)に伴い施行され、5月4日に設けられた。

下記画像は「健康週間広報ビラ(1939年八戸市役所発行)」である(下記、参考文献2)より引用)。
この衛生週間実施の背景に国防強化、すなわち壮丁体力の増強があったことは言うまでもない。

健康週間ビラ


当初の「むし歯予防デー」の”デー”が”日”に修正されたが、
これは大戦前夜、対日経済封鎖が広がる中、横文字が軽佻浮薄、敵性語として排斥されたためである。

ポスターは時代を映す鏡とはよく言ったもので、むし歯予防を啓発するためのポスターや標語には次第に軍靴の音が響くようになる。

第一回および第三回むし歯予防デーの啓発ポスター

第一回ポスター広島ポスター


その後のポスター。後援にも注目。

護歯日2護歯日1

同時期の標語

歯の標語


*上記の画像は、参考文献2)より引用
**標語は、参考文献3)より引用


護歯、すなわち歯を護(まも)るという意味だが、
上述の標語に直言されているとおり、
求められたそのインセンティブは、個人の健康のためではなく、国防のためだった。

その後太平洋戦争に突入し、この健康週間は1943年~1948年の間中止され、「むし歯予防の日」は姿を消すことになる———

1949年(昭和24l年)日本歯科医師会は6月1日から7日までを「口腔衛生週間」と改称し、戦前の「むし歯予防デー」を週間行事として執り行うことにした(翌年からは6月4日から10日まで)。
「むし歯予防の日」の復活である。
1952年に「口腔衛生強調運動」、1956年に再度「口腔衛生週間」に名称を改められ、
その後1958年から2013年まで「歯の衛生週間」に改称、国民の健康保持および増進への寄与を目的に歯の衛生に関する正しい知識の普及啓発するための活動がすすめられてきた。

そして2013年より新たに「歯と口の健康週間」へと変更され現在に至っている。

厚労省ページ

*画像は、厚労省 報道・広報資料
http://www.mhlw.go.jp/stf/houdou/2r98520000032898.htmlより引用


下記画像は今年実施された「歯と口の健康週間」のためのポスター(愛知万博のキャラクターを手掛けた「アランジアロンゾ」製作)である。

ポスター2015

今年の標語は、「おくりたい 未来の自分に きれいな歯」
(平成26年度日本歯科医師会主催「歯・口の健康啓発標語コンクール」(小1~中3対象)の最優秀賞作品)

たいへんすばらしい標語であることは勿論のこと、
”むし歯予防の日”の辿った過去の歴史を鑑みると、その重さと意味深さを感じざるを得ない。


■参考文献
1)日本歯科医師会HP 歯と口の健康週間(6月4~10日)(http://www.jda.or.jp/enlightenment/poster/)
2)大野 粛英、羽坂 勇司:目で見る日本と西洋の歯に関する歴史 江戸と明治期,16~20世紀の資料を中心に、わかば出版、東京、2009.
3)芦田 千恵美:戦前学校衛生の展開と児童養護 : 「特殊児童」の教育措置をめぐって、教育學雑誌 (22), 16-33, 1988.