先週末、広島市中区にある保健所で「1歳6ヶ月児健康診査」があり健診医として出務した。


この健診、年一回程度の割合で担当しているが、時々、お見えになったお母さんより下記のような質問を受けることがある。
「歯医者(歯科診療室)を見るだけで大泣きするんですが・・・」

こんな時には決まって次のように答えることにしている。
「いたって正常、健常。元気な応答ができて何よりです」

私が行く広島市中区中保健所で行われる歯科健診では、一回30~40名程度お越しになるが、ほぼ全てのお子さんが泣く。それも、号泣。いわゆるギャン泣きである。

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この”泣き”には一定のパターンがあり、
号泣するのは、診療ユニットに身を寄せている時のみ。席を後にすると、何事もなかったように普段の笑顔に戻る。
全員というわけではないが、顔を真っ赤にし大粒の涙を流しながらも、こちらの手の動きを観察するよう目で追う。
そして、歯科用ミラーを口ではなく手に握らせると一瞬ではあるが不意打ちをくらったように泣くのが止む等が挙げられる。

健診という場、シチュエーションにより、親そして歯科医も錯覚しがちになるが、この歳の子供の”泣き”は、一般的に想像される”歯科と泣き”との関係とは意味合いが異なるので注意が必要。

生後1歳6ヶ月といえば言葉を覚え自我が芽生え始める時期。
健診でみせる上に列挙したようなこの歳の子供の挙動は、シーンを変えると、おそらく日常生活でも見られることと思われる。
「歯科」、「診察」、「健診」なんて言葉や事象は、この歳の子供が知る由もなく、その多くは歯科治療で痛い経験などをしたことがないだろう。
見慣れない格好の人物、普段とは異なる空気、そしていつもの行動リズムが乱されることに対し、不安、恐怖、拒否の思いを”泣く”という言葉で表現しているにすぎない。

したがって、大粒の涙を流す顔の脇で、
「大丈夫。診るだけ」、「痛くないから口開けて」なんて言葉はまったくもって通じない。

このことを理解し、”泣き”を受け止め児の脇であせらずフォローしてやると健診はスムーズに進みやすい。