「詰め物がとれて歯に大きな穴が開いてしまいました」
「こんな大きな義歯使えるんでしょうか?」

これらは日常臨床で良く聞く患者さんからの訴えである。
しかしながら、口の中の実際の様子を専門家、第三者の立場から診て少々過大な表現とも感じる場面が少なくないことを経験してきた。
おそらく口腔内の不具合を認める状況が強調された結果とこれまで勝手に解釈していた。

しかし、
先日、送られてきた日本歯科医師会雑誌のレポート(文献1)を読んで、このことが氷解する。

上記のような訴えは決して大袈裟でも間違いでもなく、
”舌で感じる感覚は実際よりもやや大きく感じる”
という現象が存在する。

以下、上記レポートより引用して紹介する。

舌尖が口の中の物や穴を大きく感じる現象は「oral size illusion」として知られる。
1964年のNature誌に掲載されたAnstisによる実験では、
「小孔を舌で探ると指で探った時よりも大きく感じ」、「直径約3.2㎜の孔では50%以上、直径約6.4㎜の孔では15%、指で触るのと比較して大きく感じ、直径約10㎜前後では有意差が見られなかった(文献2))


舌錯覚

*上画像は文献1)より引用、転載


詰め物がはずれた、あるいは治療のため削った穴等は、患者さんにとって、それだけでも一大事である。

我々は現状を診て単に「たいした大きさではありませんよ」と説明するのではなく、
「oral size illusion」という現象があることを含めて状態を説明し、安心していただくことも必要であると感じた。

■文献
1)磯谷 一宏:患者は窩洞の大きさをどう感じているか?~患者を理解するために 誤解されないために~、日本歯科医師会雑誌、68(12):29ー36、2016.
2)S. M. ANSTIS : Apparent Size of Holes felt with the Tongue. , Nature15 ; 203:792-3, 1964.