小笠原諸島旅行記①〜立志編〜

いつの頃からだろうか、小笠原に行ってみたいと思うようになったのは。
思い返すと数年前に遡る。
単純に辺鄙なところに行ってみたいという軽い動機だったと思うが
船便なうえに、往復で5万円以上かかる交通費やまとまった休みが取れないことなどから一度断念した経緯がある。
小笠原行きはお蔵入りになった…はずであった。

転機が訪れたのは、昨年の夏が過ぎ去ろうとしていた頃。
一時期、東京湾がよく見渡せる場所で仕事をしていた。
その時によく目についたのが、小笠原まで行く船「おがさわら丸」
以前小笠原について調べていたので、船の特徴は何となく覚えていた。
最初は「あれが小笠原まで行く船なんだな」という程度の意識でしかなく
小笠原行きの熱意が再燃するまでには至らなかった。
ただ、日々目にするうちにその気持ちが次第に変わっていく。

おがさわ丸が停泊するのは、東京・竹芝桟橋
レインボーブリッジを超えた先にある、東京湾でも最も奥まった桟橋である。
タンカーなどの大型船はせいぜいレインボーブリッジ手前の大井ふ頭あたりまでしか来ないので
それゆえ大型船のおがさわら丸はレインボーブリッジから先の東京湾では特に目立つ存在となる。
また、運航スケジュールにも特徴があり、基本的に東京と小笠原諸島・父島を週一往復で結んでいる。
そのため、週の前半に竹芝桟橋着、1日〜2日停泊したのち、週半ばに父島に向け出発するスケジュールが基本となる。
竹芝桟橋着は15時半、発は11時とほぼ固定されているが、発着の日にちは微妙にズレたりする。
つまり、いつ着くのかまた、いつ出発するのは船会社の時刻表を確認しない限りはよく分からない。
ただ、おがさわら丸は竹芝桟橋に着く直前、汽笛を2回鳴らし、到着したことを知らせてくれる。
出発する時も同じだ。
たまに「今日はまだ出発しないだろう」と油断していると、汽笛が聞こえたりすることがある。
そんな時は「馬鹿な、早すぎるっ!!」となり、東京湾を見にいくと
おがさわら丸がゆっくりとレインボーブリッジをくぐっていたりする。
そんな過ぎ去っていくおがさわら丸を何度か見ているうちに、ある想いを抱くようになる。

「あの船に乗ってあの先の景色を見てみたい!小笠原に行ってみたい!!」

幸い長期で休みが取れる機会が巡ってきた。
また、昨年(2016年)おがさわら丸が代替わりになり、運賃も少しだけお安くなっていた。
これは行くしかないと思い、チケットを買おうとしたのだが…。
休みとはいえ、出発すると6日間東京には戻れない。
また、船なんてせいぜい観光船かスワンボートしかないし、船酔いも未知数。
マリンスポーツも特にやらないし、小笠原でよく見ることが出来るクジラには特に興味がない。
行くのかどうか三日三晩悩んだ。
最終的には滅多に行ける機会はないし、他の人のブログを色々見る限り
行ってみてガッカリしたとかいう評判は全くなかった事が大きかった。
少なくとも後々後悔することは無いだろう。
そう結論付け、チケット購入のボタンを押したのだった。

宿泊先は質素なところでも構わないと思い、色々検討した結果「民宿がじゅまる」という宿にした。
※がじゅまるとは沖縄などの南国によく生えている木の名前
予約の為電話をしてみると、おそらく電話に出たのはおかみさんだが
声と喋り方が伝説のピアニスト、フジコ・ヘミングみたいで少し好感が持てた。
現地での行動は天候が読めない事もあり、到着後に決めることにした。
その他、酔い止め等の準備を整え、当日の朝を迎えたのだった。

続く