蒼い追憶 :2 | 〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

〈 追 憶 の 向 こ う 側 〉

筆者のリアル体験物語。「社内恋愛」を題材にした私小説をメインに、創作小説、詩を綴っています。忘れられない恋、片思い、裏切り、絶望、裏の顔―― 全てが入った、小説ブログです。


 久住は、伸びをして煙草を咥えていた。

 出社後の一服は、この場所と決めている。そう決めたのは、何日前になるだろうか。まだ1週間も満たないはずだが、通い慣れたような自分に気付く。

 

 相変わらず、感じの悪いこの少女に構ってしまうのは何故だろう。自分には縁のない、得体の知れない生き物に興味を持ったというところか。壁に凭れ、頭上の遥か上に座っている茉莉に声を掛けた。


 「その制服、学校どこ?」
 「…いいじゃん、ドコだって」
 「共学? 女子高?」
 「一応、共学だけど」
 
 いつもの、素っ気ない返し。毎日かは判らないが、久住が来る日には少女が必ず壁の上にいた。周りを気にしない感じで、海を、遠くを眺めている。

 肩上まで伸ばした黒髪が、海風に靡いていた。


 イマドキの表情の乏しい、何を考えているのか解らない若者だった。会社にも新入社員は入るし、若い社員はいるが、久住の方からコミュニケーションを取っていない。以前は積極的に話しかけていたが、もはや諦めていた。会話の糸口や接点が無いのもあるが、会話を成立させるのが難しいと感じる。――つまりは、若者が苦手なのだ。

 頭上の少女も、ただの“クソガキ”のイメージは変わらないまま。それでも、茉莉を見つけると声を掛けていた。
 腹が立つだけなのに、いつも壁の上にいる少女が気になった。

 (コイツ、笑うのかな?)

 心配になるくらい、茉莉は表情を変えない。久住は、声が届くようにやや大きく口を開いた。

 「学校、頭いいの?」
 「なんで?」
 「ちょっとした興味」
 「ふーん。変わってるね。……バカだよ」
 「馬鹿?」
 「そ。底辺の学校」
 「…ああ」

 言い切られてしまうと、言葉がない。“馬鹿”と言っているのに、謙遜と取るのもおかしいし、それ以上は触れない方が良いだろう。
 ――いや。そんな事よりも、、、

 「学校行かないのか?」

 腕時計の針は、午前10時を過ぎたところ。学生が登校している姿は、出勤時に見ているから、休みということはなさそうだが…。さすがに、下校のはずもないだろうし。

 「サボリか?」

 問いかけに、茉莉は久住を見おろす。海風に靡く髪を、手で押さえた。

 「オジサンこそ、仕事しないの?」
 「俺はこれから外回り」
 「そとまわり?」
 「営業しにいくんだよ。シゴト」

 車のキーを上げて見せる。彼女は、興味なさそうに頷くだけ。

 「ところでさ、君のことなんて呼べばいい?」
 「なんで?」

 ちょっと首を傾げて、怪訝そうにする。この表情、茉莉に初めて会った時にもされた――と、久住は思い返す。

 「よく会うからさ。いつまでも“君”っていうのもね」
 「――別に、無視すればいいじゃん…」

 呟いた言葉が聞こえない。口の動きも、遠くて判らなかった。しかし、茉莉はちょっと思い直したように、久住に視線を向けた。

 「なんでもいいよ。好きに呼んで」
 「なんでもって事はないだろ? それじゃあ、〈花子〉とかにするぞ?」
 「ヤダ! そんな名前。……それじゃあ、“ナナコ”でいいよ」
 「ななこ? どんな字?」
 「名無しの子で、ナナコ。本名のわけないじゃん。おじさんは、オジサンでいいよね?」

 (少し…微笑んだ? いや、気のせいか?)

 フイと背中を向け、また海を眺めてしまう“ナナコ”を見上げた。

 


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