あの日の声を探して 感想ミシェル・アザナヴィシウス監督が描く戦争のリアル。渾身の力作!必見です! | 映画時光 eigajikou

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浜松シネマイーラの会報にイラスト&コラム連載中。
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『あの日の声を探して』

THE SEARCH
フランス・グルジア合作映画
2014年製作
TOHOシネマズ川崎で鑑賞

浜松シネマイーラでは、
7月11日(土)~7月24日(金)上映予定









↓予告動画


↓トレーラー


監督・脚本:ミシェル・アザナヴィシウス
原案:フレッド・ジンネマン監督『山河遥かなり』
編集:ミシェル・アザナヴィシウス
アン=ソフィー・ビオン
製作:ミシェル・アザナヴィシウス
トマ・ラングマン
撮影:ギョーム・シフマン
美術:エミール・ジゴ
音楽:ジャン・ミノンド
出演:
ベレニス・ベジョ
アネット・ベニング
マキシム・エメリヤノフ
アブドゥル・カリム・ママツイエフ
ズクラ・ドゥイシュビリ
レラ・バカガシュヴィリ
ユーリー・ツリロ
アントン・ドルゴフ
マムカ・マッチティゼ
ルスダン・パレウリゼ


あらすじは...
チェチェン人の少年ハジ(アブドゥル・カリム・ママツイエフ)
は家の中から、
家の前の道でロシア兵に両親が
無惨に射殺されるのを目撃し、
赤ん坊の弟を抱えて逃げますが、
恐怖とショックで口がきけなくなります。
逃げる途中、自分では弟の面倒が見きれないと諦め、
ある村のチェチェン人の家に捨て子します。
ロシア連邦イングーシ共和国にたどりつき
赤十字に保護されますが、
責任者の(アネット・ベニング)に名前を聞かれても
答えることができません。
警備の兵士の姿を見て怖くなり施設から逃げ出します。

チェチェンから逃げてきた人々のために設けられた
国境から35㎞離れたイングーシ共和国の
難民キャンプでは、
EU人権委員会の職員フランス人のキャロル
(ベレニス・ベジョ)が、
難民の人たちからロシア兵の収奪や残虐行為などの
聞き取り調査をしていました。
そしてある日ハジと出会います。

チェチェンから2300㎞離れたロシアのベルミ市で、
ギターケースを背負って友人と歩きながらマリファナを吸い、
女の子の噂話をしていた
19歳のコーリャ(マキシム・エメリヤノフ)は、
警官に職務質問を受け連行され、
ロシア軍に強制入隊。
チェチェンから35㎞の北オセチア共和国の基地に送られます。
そこで、自殺した兵士の死体処理を命じられ、
その後、チェチェンから輸送されてくる
戦死した兵士の死体処理係にされます。
厳しい訓練や先輩たちからのいじめ、
来る日も来る日も続く死体処理に耐えられなくなった
コーリャは転属願いを出すと、
今度は大佐から酷い暴行を受けます。
そしてある日前線に送られます。

ハジの姉ライッサ(ズクラ・ドゥイシュビリ)は、
両親を目の前で射殺され、
家に戻ってみると弟2人がいないので、
彼らを探すため家を出ます。

彼女、彼らに何が起こるのか...

この主な登場人物たちの生き様、
人間性の変化が融合的に結びつき
描かれるます。


今年観た映画のマイベスト1!


22日(金)の公開だったので、
初日に観ました。
23日(土)公開のグザヴィエ・ドラン監督『Mommy マミー』
も初日に観てきました。
『Mommy マミー』も勿論良かったのですが、
前日観たこの『あの日の声を探して』が、
あまりに素晴らしい作品だったため
今年、私が今までに劇場鑑賞した作品のベスト1になりました。
と言っても、闘病中なため今年はまだ43本しか観ていません。
ガン患者のくせに結構観てるかなという気も
しないではないですが、
これから見逃した作品も観ていく予定ですし、
今までよりペースも上げて行きたいと考えていますので、
ベスト1は変わって行くかもしれませんが、
『あの日の声を探して』は、
間違いなく今年のマイベスト作品の上位になると思います。


この作品はフレッド・ジンネマン監督の
『山河遥かなり』原題:The Search(1948年)
モンゴメリー・クリフト主演
を原案にしています。
ナチスによって引き離されたユダヤ人の男の子と母、
恐怖から失語症になってしまったこの男の子を助ける
アメリカ兵の青年の姿を描いた作品。
(恥ずかしながら未見です)
山河遥かなり [DVD] FRT-070/
モンゴメリー・クリフト,ウェンデル・コーリイ,アリーン・マクマホン


これを、ロシアの第二次チェチェン紛争(1999年 - 2009年)
が始まった、1999年に置き換えています。

フレッド・ジンネマン監督はユダヤ系ドイツ人の家系で、
1907年オーストリア・ウィーン生まれ、
1929年にハリウッドに渡りました。
両親はナチスのホロコーストで亡くなりました。
ジンネマン監督は
『地上より永遠に』『ジャッカルの日』などの名作を残しました。

ミシェル・アザナヴィシウス監督は、
1967年パリ生まれのヨーロッパ系ユダヤ人。
『アーティスト』(2011年)で、
第84回アカデミー賞では作品賞、監督賞、
ジャン・デュジャルダンが主演男優賞
その他衣装デザイン賞、作曲賞受賞。
妻のベレニス・ベジョは助演女優賞ノミネート。

『あの日の声を探して』はアザナヴィシウス監督が、
長年温めてきた企画。
『アーティスト』はこの作品を撮るために
あったのではないかと思えます。
『アーティスト』での成功と名声がなければ、
この企画にお金は集まらなかったでしょう。
戦場や難民キャンプの描写も
本物にこだわった
メッセージ性の強い大作映画です。
昨年のカンヌ映画祭のコンペ部門出品映画です。

『あの日の声を探して』は、
戦争の残虐さと悲劇、
戦時下での人間性の変化が
リアリズムを追求し、重厚に描かれています。

先ず、冒頭、チェチェンの前線の村で
兵士が撮るビデオ映像から始まりますが、
これはアザナヴィシウス監督自身が撮影したそう。
ただならぬ雰囲気にグッと引き込まれました。

撮影監督は『アーティスト』でも
アザナヴィシウス監督と組んだギョーム・シフマン。
デジタルでなくフィルムで、
ほぼ全編手持ちカメラで撮影。
ブリーチバイパス技法(銀残し)で現像された
コントラストが強く、渋い色調で荒い質感のルック、
そしてセットも合成も使っていないこだわりは、
映画全体のリアリティーを高めています。

アザナヴィシウス監督の妻である
キャロル役のベレニス・ベジョは監督の
脚本執筆段階から関わってきました。
キャロルはチェチェン難民の苦難を
なんとか国際社会に知らせたいと奔走しています。
偶然出会ったハジと暮らすうちに、
彼女も変わって行きます。
赤十字職員のアネット・ベニングも、
チェチェン難民の子どもたちのために働いています。
キャリアウーマン2人の描かれ方もフェミ的に評価したいし、
2人のリアリティーのある抑えた演技は素晴らしいです。

さらに素晴らしいのがハジ、ラリッサ、コーリャ役の3人です。
ハジ役のアブドゥル・カリム・ママツイエフ(2004年生まれ)
ラリッサ役のズクラ・ドゥイシュビリ(1995年生まれ)
は、演技初体験とはとても思えない演技力です。
佇まいや所作、表情に圧倒的な存在感があります。
コーリャ役のマキシム・エメリヤノフ(1990年生まれ)は、
ごく普通の青年が軍隊の中で、戦場で、
どんんどん人間性を失い、人間兵器化していく
狂気とその変容を恐ろしいほどに演じ切りました。

ハジは音楽で苦しみを癒しながら人間性を取り戻し、
コーリャは劇中で1度もギターを奏でることなく、
音楽を失い人間性も失って行きます。



赤十字職員ヘレン役の
アネット・べ二ングは流石の迫力






EU職員キャロルを繊細に演じる
ベレニス・ベジョ

















ハジ役のアブドゥル・カリム・ママツイエフが、
いちばん苦労したのは演技よりも、
終盤見せるある技だった。
これには息を呑みます。




ラリッサ役のズクラ・ドゥイシュビリは、
グルジア人。
亡くなった父はロシア人と戦った経験があった。
「誰かがこの映画を作らなければならない、
それなら自分がやろうと思った。」と
オーディションで監督に語った。


















コーリャ役マキシム・エメリヤノフは、
『アメリカン・スナイパー』の
ブラッドリー・クーパーに勝ってますよ。


この映画には冒頭から引き込まれ、
胸が締め付けられて涙が止まりませんでした。
戦場の残酷な描写はリアルだし、
所謂泣ける映画とは違いますが、
滅多に出会えない
魂に響く作品だったのです。
『アメリカン・スナイパー』観て、
感動したという人、
色々考えさせられる重厚な作品だと思った人には、
ぜひ、『あの日の声を探して』も観てもらいたいです。
アメスパ観ていない人にもお奨めします!
今、まさに戦争する国に踏み出そうとしている日本。
ドキュメンタリーよりも
ジャーナリスティックに戦争と人間を描いたと言える
この作品をこそ観て考えてもらいたいです。

今週観た『グッド・ライ いちばん優しい嘘』も
良い作品だったのですが、
スーダン内戦孤児と彼らと関わる女性の物語で、
『あの日の声を探して』と少し似たテーマ性があり、
同じ時期の公開はもったいない気がします。
配給会社が違うから仕方ないのでしょうけど。
これから公開になるミニシアターでは、
公開時期が違うと思うので、
ぜひ両方ご覧ください。
浜松シネマイーラでは、
『グッド・ライ いちばん優しい嘘』は、
6/13(土)~26(金)の上映予定。







撮影の様子








昨年のカンヌ映画祭で。



私がおススメしたいチェチェン紛争を描いた作品。
『コーカサスの虜』(1996年)
セルゲイ・ボドロフ監督

コーカサスの虜(とりこ) [DVD]/
オレグ・メンシコフ,セルゲイ・ボドロフJr,
トジュマール・シハルリジェ


『チェチェンへ アレクサンドラの旅』(2007年)
アレクサンドル・ソクーロフ監督
チェチェンへ アレクサンドラの旅 [DVD]/ガリーナ・ヴィシネフスカヤ,ワシーリー・シェフツォフ,ライーサ・ギチャエワ



『あの日の声を探して』に、
チェチェンへのロシア軍の空爆や侵攻を決めた2人、
当時のロシア大統領エリツィンの写真は出てきますが、
首相だったこの人の写真は出て来ませんでした。






『かしこい狗は、吠えずに笑う』


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