月の晩にひらく「アンデルの手帖」

writer みつながかずみ が綴る、今日をもう一度愉しむショートショート!「きょうという奇蹟で一年はできている」

絶世の遠景は、ぞっとするほど綺麗だった (9)

2018-01-01 13:07:56 | 海外の旅 パリ編


モンサンミッシェル修道院の中からでると、過去の時間から
タイムマシンにのって現在に戻ってきたような、
夢をみているような
ぼーとした気分で再び参道の大通りに出た。

先ほど、出口付近の売店でモンサンミッシェルの絵はがきと記念切符、
そしてゲランドの塩を購入した時には、千年前の気分のまま購入していたというのに、
大通りのおみやげもの屋さんに戻ると、
現在の時間軸の中で、おみやげものを見ているのだった。

最初はどちらが現実でどちらが夢なのか、わからない
うつつな調子だったが、
だんだんと「今」のほうに体がなじんでいってしまうのが惜しい、そんな宙ぶらりんの気持ちのまま、
私は観光客の中で買い物をしているのだった。

Nはスノードームと、赤とブルーのマグカップを購入し
私はまた絵はがきや写真集ばかりみていて、
ようやく目にとまったゲランドの塩(海藻が入ったタイプの商品)を
1つだけ購入した。

途中、お腹がすいたので島内の小さなホテルが運営するレストランへ入る。
どのレストランも満席だったが、ここならスタッフが忙しさのあまりにギスギスしている頻度が低い気がしたからだ。

オーダーしたのは、地元の名産シードルと山盛りのルーム貝、
山盛りのポテトと羊肉の一皿。




スタッフはあいかわらず愛想が悪かったが
シードルをのみながら、ルーム貝を殻から外して口に運んでいると
海の香りと潮をどんどん口に運んでいるような(貝風味の)
これまた変な錯覚に陥って、
わけもなく楽しい気分になってきた。

今想像するに、よほど塩味がきつかったはずなのに
これがフランス産「ルーム貝」なのだと、ちょっとした高揚感の中で
ささやかな食事をしていた。

店を出るとすっかりと島内は暗いて、先ほどよりも気温が低く
風がまた強くなったようだった。
Nと私は、モンサンミッシェルの対岸を1時間くらいずっと歩いていた。

先ほど内部を観察したモンサンミッシェル修道院の遠景を。
後ろ向きになってみては写真のシャッターを何枚も何枚も切る。




























春の夜とは思えないほどの寒さ。
そしてこの見知らぬ修道院の美観を飽きることなく
記憶にとどめようと必死だった。
ピラミッドのようだけど、
ライトアップするとクリスマスツリーの木のようでもあったし、
古城のような厳かさもあった。
月の光に照らされ、海上にぽっかりと浮かんでいるこの光景が
一番美しい姿だと確信しながら、長いこと見ていた。


パリに戻るバスの車中のなかでも、
美しいモンサンミッシェルの夜の遠景が張り付いて離れないまま
目をとじて眠れるのはなんて幸せなんだろう。などと
ぼーとした頭で思い、高速道路を6時間ほどひた走り
再びパリへと引き返していった。

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