「はじめさん、面白いものを見つけたんです。
ちょっとこれを見てください。」
と、妻がひとつの箱を差し出しました。
「この箱かい?表に色々書いてあるね。」
と、私は手にとって眺めました。
「祖母の荷物を整理していたら、出てきたんです。
お菓子の箱らしいんですが、
『大日本東京府下』って書いてありますよ。」
と、妻が指で示しました。
「『乾蒸餅」ってあるけれど、
どんなお菓子なんだろうね?」
と、私が訊きました。
早速インターネットで調べた妻が、
「はじめさん、ビスケットのことですって。」
と、驚いたように言いました。
「ここに風月堂って書いてあるよ。
じゃあ、この箱は
風月堂のビスケットの箱ってことかな。」
と、私が言いました。
「明治12年ごろ京橋南鍋町に
西洋料理を食べさせる分店を出したそうです。
この箱は、その当時のものなんですね。」
と、妻が言いました。
「この箱は、桐の木で作ってあるんだよ。
内部には和紙が張られているし、
周りや底には漆が塗ってあるんだ。
ものすごく丁寧に作られているね。」
と、私は箱を見せながら言いました。
「到底、ビスケットの箱とは思えないつくりです。
それほど、当時のビスケットは貴重で
西洋の憧れに満ちてたんですね。」
と、妻が話しました。
「そうだね。この箱には、
明治の人たちの憧れと夢が詰まっているんだと思うよ。」
と、私が答えました。
人気ブログランキングへ 現代、何気なく食べている菓子も、
明治の人たちには驚きにあふれていたのですね