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「こないだ兄キと話してたら、金縛りによーなるって言うねん。金縛りって、そない、よーなるもんちゃうやろ?」 と元夫に聞かれました。

「私は、今はならないけどね、幽霊ばかり見てた時はしょっちゅうなってたよ」 

「へー! そんなもんなん?」 と元夫が驚いていたので、元夫はどうなのか聞くと、人生で2回だけ経験があると言いました。

だから人も、それくらいの回数しか経験がないものだと思っていたそうです。

しかし、その2回が意外と怖い話だったので、ちょっと書いてみようと思います。

彼の人生初の金縛りは、夜勤のバイトをしていた時だそうです。

仮眠室があったらしいのですが、何故か2つ仮眠室があったそうです。

先輩から、 「Bの仮眠室はやめといた方がええで」 と言われたので、 「なんでですか?」 と聞き返したところ、 「出るらしいねん・・・」 と言われました。

当時、幽霊なんかいない、という考えだった元夫は、アホらし、とまったく信じていなかったそうです。

そんなある日、元夫はBの仮眠室の方が静かであることに気づき、そちらで寝ようとしました。

Bの仮眠室に入った途端、澱んだ空気が重たく、湿気がじっとりと肌にまとわりつき、なんとも言えない不快感だったと言います。

何故か照明も薄暗く感じて、イヤ~な気分になったそうです。

ベッドに腰掛けてみると、明らかに誰かがそばに座っている気配がして、ゾーッとしたと言っていました。

元夫は、これはマジでヤバイ、と立ち上がり、出口へと2~3歩、歩きました。

そこで何者かに胸のあたりをバーン! とすごい力で思いっきり突き飛ばされ、その反動で元夫はベッドに仰向けに倒れ込んだのだそうです。

ベッドに倒れ込んだ瞬間に金縛りにかかり、身動きが出来ず声も出せず、恐怖でガチガチになったと言います。

オレ、このまま死ぬかも! と思っていたら、先輩が偶然、ガチャ、と扉を開けてくれました。

そこで金縛りが解けたので、元夫は 「うわー!」 と叫びながら、B仮眠室を走って出た、ということでした。

その話を聞いて、う~ん、その霊なら私も怖い、と思いました。

体を押す、という物理的な力を加えられるほどの霊力を持った悪霊です。

普通の幽霊程度ではなかったのだろうと思います。

よくぞ無事で・・・と思いました。

そしてもう1回は、私と旅行に行って宿泊したホテルでのことです。

そのホテルは全体的に古くて、陰気な雰囲気でしたが、私たちが泊まる部屋には幽霊の類いは何もいないと私は感じました。

その真夜中のことです。

元夫は、突然、非常にクリアにパッチリと目を覚ましました。

目を開けると、元夫のベッドの周りに、甲冑をつけた武士がいたそうです。

数名でぐるりと彼を取り囲んでいました。

「ひっ!」 と恐怖を感じた瞬間、元夫は金縛りにかかりました。

甲冑をつけた武士は、元夫をじーっと見下ろしていましたが、急にみんなでベッドをかかえました。

そして、かかえたベッドを揺らし始めたそうです。

その時、本当にベッドがグラグラ揺れ、体も揺れた、と言っていました。

金縛りで声が出ないので、私を呼ぼうにもどうしようも出来ません。

私は隣りのベッドで、ぐっすりスヤスヤ眠っていたそうです。

やめろー! と心の中で叫んでも、武士たちはやめず、その武士たちの顔が細部までよく見えて、死ぬほど怖かったそうです。

元夫は恐怖のあまり気を失ったようで、気がついたら朝だった、ということでした。

「それは怖い体験だねぇ~」 と言うと 「は? その日の朝、この話、したやろ?」 と元夫は言います。

「え? 聞いてないよ? こんな怖い話、聞いたら覚えてるはずやろ」

私は記憶力は悪くない方だし、こういう印象が強い不思議話をすっぱり丸ごと忘れるわけがありません。

「ええーっ! 絶対話したで! こんな話をオレがせえへんわけないやん」

たしかに。

元夫はしゃべくりな性格なので、こんな体験をして黙っているはずがありません。

というか、黙っていられません。

「まったく覚えてないなぁ・・・」

「オレ、そっちのんが怖いー!」

「その話、初耳やもん。聞いてないんだってば」

「うわ! こっわー! マジで怖いからやめてー」

と、この話は強制的にここで終わりましたが・・・なんとも怖い話だと思いました。

金縛りに遭った状況もそうですが、一方は話したのに、もう一方は全然聞いたことがないという部分も・・・何だかとても・・・怖いと思いました。




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