他院の体外受精の説明会で「自然妊娠する人の75パーセントは3ヶ月以内に妊娠している」と聞きましたがどうなんでしょうか、という質問がありました。その説明会の資料には下記のように記載されていたとのことです。
「どれくらいで妊娠するの?」
妊娠成立した女性の中では、3回目まで75パーセント、6回目まで 88パーセント、12回目まで 98パーセントで妊娠成立。妊娠した女性の中での妊娠までの期間と年齢の関係はより小さい。→妊娠する女性は36歳以上でも比較的早期に妊娠する。
私は今ひとつ納得できませんでしたので、元の論文を当たってみました。
Hum Reprod 2003; 18: 1959(ドイツ)
要約:これまで避妊されていた方で、基礎体温と頸管粘液を元に自己タイミング(STM法)を開始した方1357名、31,498周期を対象に、妊娠するまでの期間(TTP=time to pregnancy)を前方視的に検討しました。少なくとも3ヶ月に1回データが回収できた方340名、最大29周期を検討しました。結果は下記の通り。
1周期 3周期 6周期 12周期
全ての方(340名) 38% 68% 81% 92%
妊娠された方(304名) 42% 75% 88% 98%
なお、340名の年齢の内訳は、25歳以下58名、26〜30歳189名、31〜35歳82名、36歳以上10名でした。
解説:論文は隅々まで真剣に読まないと、真意を誤解する可能性があります。確かに、本論文の抄録には説明会で言われた通りの内容が紹介されています。しかし、実際は36歳以上の方はわずか10名しか含まれておらず「36歳以上でも比較的早期に妊娠する」との結論を述べることはできません。さらに、1357名もいた患者さんのうち340名のみの検討がなされた時点で、条件の悪い方が意図的に除外されたのではないかと勘ぐってしまいます(340名のうち304名で妊娠が成立しているのは高すぎて不自然だと思います)。私なら本論文を「35歳以下の女性は6周期自己タイミングを行ってみるメリットはあるが、それ以上は妊娠治療専門クリニックを受診すべきである」と解釈します。本論文を説明会で上記のように説明した意図は「自然妊娠しないのはおかしい」からと、体外受精へ誘導する作戦ではないかと考えます。