パピとママ映画のblog

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めぐり逢わせのお弁当 ★★★★

2014年08月20日 | ま行の映画
インドの大都会ムンバイでは、家庭でつくった“できたて”のお弁当をオフィスに届ける配達サービスが充実していて、1日20万個のお弁当箱がダッバーワーラーと呼ばれる配達人5千人によって家庭とオフィスを正確に往き来しているという。本作はそんなムンバイのお弁当事情を背景に、めったに起きない誤配が縁で繋がった一組の男女が、そのお弁当を介して互いの心の隙間を埋めていく姿を心温まるタッチで描いたハートフル・ドラマ。出演は「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のイルファン・カーンとニムラト・カウル。監督は、これが長編デビューのリテーシュ・バトラ。
あらすじ:ムンバイに暮らす主婦のイラ。すっかり冷めてしまった夫の愛情を取り戻そうと、お弁当作りに精を出す。ところが、その丹精を込めた4段重ねのお弁当が、なぜか早期退職を控えた男やもめ、サージャンのもとに届いてしまう。その日、お弁当箱は、きれいに空っぽになって帰ってきた。それを見て喜ぶイラだったが、ほどなく夫が食べたのではないと気づく。そこで次のお弁当には、きれいに食べてくれた見知らぬ誰かへのお礼の手紙を忍ばせるイラだったが…。

<感想>この作品は、前に観た「マダム・イン・ニューヨーク」も良かったが、インドの保守的な生活に甘んじる主婦の姿と、激動するインド社会の軋みを背景にした秀作であります。まずこれはムンバイ出身のリテーシュ・バトラ監督の長編デビュー作品である。
インドが舞台のインド映画でありながら、グローバルな匂いがバリバリと漂ってくるのだ。ボリウッドものに定番のコミカルダンスや、キンキラキンのゴージャスな感じは全然ないが、劇中で91年のポリウッド映画「サージャン/愛しい人」の主題歌が流れるも、本編自体にはミュージカル要素はない。
物語のこれにはびっくりでした。インドでは妻の弁当を会社に届けるプロの配達人が職業として成立しているなんて。それを題材にした企画の勝利でもある。
あり得ない弁当の誤配達。そこで手紙の交流が始まる。

主演が「ライフ・オブ・パイ/トラと漂流した227日」のイルファン・カーンとヒロインは、舞台女優のニムラト・カウル。インドの女優さんは本当に美しいのに感心。夫に不信感を抱きつつ、まだ見ぬ男の心触れ合いに揺れる主婦役が見事だった。夫に届いた弁当は、サージャンの住む近所の弁当屋の物。弁当の中身がカリフラワーのカレー味が多いとは、気の毒に。もし間違って届かなければ、夫は妻の手料理で浮気も止めたのではないかと思うのですが。

ムンバイならではの弁当配達システム。600万分の1という確率の誤配送に気付きながらも、二人は弁当箱に短い手紙を忍ばせ、密かな交流をするのだ。それはSNSや出会い系などのコミュニケーションとは一線を画し、誰にも言えない孤独感を共有するものだった。
彼女には、自殺をした弟がおり、天井のファンを見続ける昏睡状態の叔父が2階に住んでいる。その叔父を介護しているおばさんが声だけの登場なのだが、彼女の悩みの相談に乗り、存在感がたっぷりあり傑作でした。

彼の方も死んだ妻が好きだったテレビドラマなど、二人が交わす文通に出て来るエピソードの一つ一つが凄まじい。彼女のお弁当の美味しさに驚く会計係の、定年退職が迫るのに、いつ逢えるのかと観客の方がドキドキしてしまう。
それに、サージャンの後任として若い男、ナワーズッディーン・シッディーキーが演じているが、始めは邪険にしていた彼が、若い男の生い立ち(孤児)を聞き同情して、仕事を教えて彼の家にまで招かれ、結婚式にまで参列することになるとは。

そして、時間のかかる弁当箱文通相手の二人が、ついに顔合わせることになるシーンでは、男が朝から身支度をして洗面所で、アゴヒゲを剃り自分から祖父と同じ臭いがすることにショックを受け、あろうことか電車の中では若者に席まで譲られるてしまう。

老いに直面した男は、後にあの彼女が待っているカフェで「水を飲むあなたを見ていた。君は若くて美しい。夢を見させてくれて感謝している」と悲しい手紙を送るのだ。待ち合わせのカフェでの彼女の画面に始まる三ショットの連鎖の残酷さ。その秀逸さに極上のメロドラマを見ているようでした。
最後に、彼女が娘を学校へ送り、自分は身支度をして駅へ向かうのだが、ブータンへ行きたいと夢見ていた二人の行く末がどうなることか、気になるところだが、これは観客の想像に任せるという終わり方であった。生活のワンシーンを鮮やかなドラマとして機能させる手腕が見事でした。

まるで巨匠監督の晩年の傑作のように、ツボを熟知したさりげない展開で攻めてくるのだ。「たとえ間違った電車に乗ったとしても、正しい場所に着く」という、哲学的名言が多くの心理を表しているようで、深く胸に染み入る作品でした。
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