アメリカン・スナイパー

『アメリカン・スナイパー』 AMERICAN SNIPER 2014年・アメリカ 


イラク戦争に従軍した、クリス・カイルという兵士。
伝説の狙撃手だ。
彼の自伝の映画化。実話である。

我々と同時代を生きて、我々の知らない所で戦っていた兵士だ。
彼が見ていた物を、我々は目にすることはなかった。
当方などは見識のなさゆえに、イラク戦争ではほとんど地上戦はなかったとさえ思っていた。

今作において描かれるのは、現実だ。
義憤が私怨に形を変えていく戦地の光景だ。
国のためだとか、家族のためだとか、そういうものとかけ離れていくのは道理だろう。
映画はその有様を、これでもかと見せ続ける。

圧倒的な冷静さをもって、だ。
秀逸なカメラワークが描き出す、地上での焦燥、俯瞰からの攻防、ズームの向こうに見えるもの。
その衝撃を英雄礼賛だなどと受け止めてしまっては、真意を見誤る。


クリント・イーストウッド監督は84歳にして、またも傑作!
西部劇を思わせる映画的な起伏も用意。
ただし、監督本人の主義主張といった暑苦しさは皆無。
ありのままを見せました、どう考えますか?というスタンス。
だから、観客はずーっと考え続けるハメになる。

監督と共にプロデュースに名を連ねたブラッドリー・クーパーが主演。
体も作り上げ、人相も変わり、特筆すべき仕事。
クリス・カイル本人のインタビューを見ると、とてもよく似ている。

妻役はシエナ・ミラーで、美しい!
この人の存在が、大いなる共感を生んでいる。殊に、女性にとって。

音響の効果編集が見事で、戦地にいるような錯覚さえ。
音楽の奥ゆかしさも効果的。押し付けが無い。憂いが残る。


過酷な市街戦で、緊張が途切れない。
砂煙と灼熱と風が、劇場に充満する。
一転、本国の穏やかさ。
その対比を作り上げたスタッフには、畏敬の念しかない。

レジェンドになるほどに、イラク人を射殺したと言われる男だ。
戦場を知らない人間が、戦地で生きた人間を責めることなどできない。
責めるべきは、戦争を決めた国家に対してである。
国家とは何か。
それは国民であって、要するに、大衆だ。

エンドロールで席を立つ人の喧騒を聞きながら、これが大衆だと感じた。
そこも念頭に含めての、話題のあのエンドロールだったはずだ。
なんという、絶大な効果だろうか。

ハリウッドの戦争映画に力があるのは、信じているからだ。
映画が世界を変えられると信じているから。
この傑作をもってしても現実は変えられないだろうが、観た人間の心は動く。

それがいつか何かを変えると信じる人々が放った、逃れようのない一撃である。

アメリカ軍人は150万人超、PTSDに苦しむ退役軍人は相当数。
アメリカ軍に殺された人間の数もまた、膨大。



映画 スクリーン

[関連作品]
クリント・イーストウッド監督 『ミスティック・リバー』
ブラッドリー・クーパー 『アメリカン・ハッスル』『世界に一つのプレイブック』『ケース39』『ガーディアンズ・オブ・ギャラクシー』





にほんブログ村 映画ブログ 映画備忘録へ


blogramで人気ブログを分析