やり残したことはなかったか?
そうやって自問して出来上がった映画なのではないか。
そうして、やり残しを全て回収している。
『アウトレイジ』シリーズの、だ。
映画人生の、だ。
ヤクザの揉め事だ。
発端のバカバカしさと、幼稚さ。
セリフの端々から、この人たちは頭が悪いのだなあと伺える見事さ。
徹底してヤクザ=暴力人間の阿呆らしさを描き。
その中にあって唯一、仁義を重んじる男を描き。
なおかつ、それでもやっぱり、普通の人間の一線は超えている。
そんな、うすら寒さまでをも描き出す。
なんというか、もう、至高である。
北野武は、映画の神様に愛された一人だ。
俳優陣のテンションの上がり具合といったら!
西田敏行と塩見三省が素晴らしすぎる!
お二人とも、重病からの病み上がりである。
体も舌も思うように動かない中での、鬼気迫る芝居が圧倒的。
ビートたけしのいつにもまして無言の表情は、憂いで充満。
新顔のピエール瀧、大森南朋も空気に馴染んで、いい。
岸辺一徳の眼下の目袋がどんどん大きくなっており、もはや、目を超える存在感。
金田時男だけはホンモノすぎて震える。
鈴木慶一の音楽は主役を食わずに、背景を作る。素敵。
北野武監督はいつも、ほぼワンテイク。
撮影は午後2時には終わってしまうというけれど、だからこそ、スタッフとキャストの集中力が高まりまくる様子がありありと!
気を抜けない現場というのは、これほど濃密になるものか。
『アウトレイジ ビヨンド』の完全な続編である。
レギュラー陣がきちんと栄枯盛衰。
その過程を想像させてくれる、客への信頼感。
各章各人のエピソードも尖りまくりだ、鮮烈だ。
大杉漣と津田寛治の顔ぶれに、冒頭のシーンと。
北野映画の傑作『ソナチネ』をどうしても思い出す数々。
観るうちに、浮かび上がってくる感慨。
というのも『ソナチネ』で予算の都合上、出来なかったことをやってくれているのだ。
ただただ、興奮だ。
胸が泣いた。
静かな入り口と、積み上がっていく鬱憤とクライマックス。
北野監督ならではの笑いもニクいほど。
殊に、事態の発端となる事件は西田敏行さん個人のアホらしい噂を揶揄したものでは、とも思う。
仁義はないが、ただ1人任侠。
そんな風情。
最後でこれを見せてくれるとは意外で、心が揺さぶられた。
監督・脚本・編集、北野武。
天才が抗う姿だ。
不器用な男の形。
ヤクザって、なんてカッコ悪いんだろう!
ここまでやってしまったら、思い残しが無くなってしまうのではないか。
そんな心配も過ぎったが、ビートたけしが演じた大友の青春時代スピンオフや、70歳にして書き上げた恋愛小説『アナログ』の映画化アイデアもあるらしい。
よかった。
まだ、北野映画の先を観ることができる。
傑作の上書きを続ける監督の仕事を、まだまだ観たいです。
スクリーン
2017年・日本
監督・脚本・編集:北野武
プロデューサー:森昌行、吉田喜多男
撮影:柳島克己
音楽:鈴木慶一
出演キャスト:ビートたけし、西田敏行、大森南朋、ピエール瀧、松重豊、大杉漣、塩見三省、白竜、名高達男、光石研、原田泰造、池内博之、津田寛治、金田時男、中村育二、岸辺一徳
※鑑賞の感想です。情報に誤りがございましたら御一報頂けましたら幸いです。