日本会議唐津支部 事務局ブログ

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原子力国民会議主催の講演会のようす:第3回(最終) 宇野氏「低放射線の影響と福島の今」

2014年12月15日 | 活動報告

第1回第2回に続き、講演2と閉会のあいさつの内容をお知らせします。



講演―2  「低線量放射線の影響と福島の今~福島の食の安全について~」 

 
講師:宇野賀津子氏 (公益財団法人ルイ・パストゥール医学研究センター基礎研究部インターフェロン生体防御研究室 室長)

【講演】

私は毎月1回以上福島に通っています。九州からもたくさんの人に福島応援団になってほしいです。福島第一原子力発電所事故以前は免疫学の専門家で、放射線についてそれほどの関心はありませんでした。しかし事故の後福島について何ができるかを真剣に考えました。実は15年前に女性物理学者である坂東さんとNPO法人「アインシュタイン」を立ち上げて、女性科学者の社会貢献活動について考え実行してきました。それで事故直後に坂東さんと福島について何が出来るかを相談したわけです。その結果、低線量放射線の生体影響について情報提供を行うことが大切である、ということになりました。

 

まず情報提供のため白河(JAしらかわ)に行きました。ここでは、風評被害で白河産米が一般の人から買ってもらえず、外食産業が白河の良いお米を安く買い叩いているというような実態も知りました。現地では、昼間は地域の放射線量を測る、夜は学習会で様々な質問に専門家として答えるというという活動を行っています。大切なことは、地域の皆様が持っておられる間違った既成概念を覆すということです。放射線量を測って確認して判断するという習慣を身につけて頂く、つまり科学的に考えるということの重要性を説明しました。

 

放射線影響のリスクコミュニケーションでは100ミリシーベルト以下の低線量放射線の影響についての説明が大切です。低線量放射線の影響の学問的研究は広島・長崎の原爆被災者の研究結果から明らかにされたことが中心で、100ミリシーベルト以下の低線量放射線の影響については、明らかな影響は検出できず、影響がないとは言い切れないが、「わからないほどに小さい」とは言えるでしょう。事故後の福島の皆様の放射線被ばく量の実態(非常に低い)から言えば、長期的に見たがんや老化への影響では「放射線を浴びたからと、自暴自棄になることが、一番危険である」と言えます。

 

低線量放射線の影響についての理解の混乱の原因としては、きちんとした放射線教育がなされていなかったことと、科学者による情報発信のあり方があると思います。たとえば学校の放射線教育では広島・長の原爆について教える程度だと思いますが、広島・長崎では熱風や爆風で亡くなった方が大半で、放射線影響で亡くなった方は少ないというような事実はあまり知られていません。きちんとした放射線教育がなされていない例だと思います。科学者について見ると、一般的に物理系は放射線影響を過剰に言う傾向があります。大げさに言っておいた方が後で罪に問われないというような意識があるのかもしれません。これに対して生物・医学系研究者は、細胞や遺伝子が日常的に傷つき、そして修復されている様を目にしています。また多くの人の命が放射線治療によって助かっていることも経験していますので、それらの経験を踏まえた情報発信をすることが多いわけです。

 

科学者はリスクを過剰に言うことの無責任を意識しなければいけません。きちっとしたリスクアセスメントをして対応することが大切です。同様なことは「エイズ騒ぎ」の時にも経験しました。

 

放射線影響の境目は200ミリシーベルトで、低線量と高線量の影響は異なるということを理解しておかなければいけません。国際放射線防護委員会(ICRP)では広島・長崎の被災者の研究から、1000(千)ミリシーベルトの放射線被ばくで5%の発がん死率の上昇、300ミリシーベルトでは1.5%の上昇があるとしていますが、100ミリシーベルト以下では前述のように明らかな上昇は検出出来ないとしています。しかし放射線防護の規制を考える上では、100ミリシーベルト以下の低放射線量でも高放射線領域で見られた影響が放射線量に比例して現れるという仮定のもとに、安全側に立った規制値の勧告をしています。ちなみに日本人の発がん死の割合は約30%ですが、先ほどの1000(千)ミリシーベルトで5%上昇というデータから仮定される100(百)ミリシーベルトの上昇率は0.5%ですので、30%が30.5%になるというように仮定されるわけです。さらに、広島・長崎の放射線被ばくは短時間での被ばく(急性被ばく)ですが、福島の方々の被ばくは長時間にわたる被ばく(慢性被ばく)であるということも考えなければいけません。一般に同じ被ばく線量であっても慢性被ばくの影響は急性被ばくに比べて格段に小さいのです。

 

放射線影響のメカニズムの話を少ししましょう。放射線が直接細胞や遺伝子に作用して悪さをすることはほとんど無いのです。放射線が人体に入ると、そのエネルギーによって細胞の中の水に作用して、スーパーオキシドとかヒドロキシラジカルといたような活性分子を作ります。一般的には“活性酸素”と呼ばれるものです。この活性酸素が遺伝子に傷をつけることによって障害が発現することになります。たばこや大気汚染物質などに含まれる有害物質も体内で活性酸素を生成して障害を発現しますので、その意味では放射線と同じレベルで論じることができます。

 

地球上の多くの生命体は酸素呼吸の能力を獲得することによって発展しました。生体は酸素呼吸で日常的に活性酸素を算出していますので、酸素は生命体にとっては毒でもあります。従って、現存する地球上の生命体はこの酸素毒に対する防御システムを備えたものであると言えます。つまり放射線などによって生成される活性酸素に対する防御能力(遺伝子の修復能力)を備えているのです。

 

紫外線、宇宙線(放射線)、酸素などによる障害からの修復能力(機構)を獲得した生物が現在の地球上で繁栄しているとも言えるのです。障害は、遺伝子を構成する2本の塩基の鎖(DNA鎖)が切断されることによって起こります。1本の鎖が切れる場合(1本鎖切断または単鎖切断)と2本の鎖が切れる場合(2本鎖切断)があります。以前から単鎖切断は100%修復されるとされていましたが、最近の研究では2本鎖切断もほぼ修復されることがわかってきました。

 

福島のお母さん方にはこれから生まれる子どもたちへの影響を心配される方もおられますが、この心配はありません。福島の方々の放射線被ばく量は影響を心配する必要は無いほど少ないのです。そして広島・長崎の被ばく2世の方々の調査研究では、数百ミリシーベルトを被ばくされた親から生まれた被ばく2世の方々について遺伝的影響は認められないという結果が出ています。

 

子どもの甲状腺がんを心配する方もいらっしゃいます。放射性ヨウ素が人体に吸収されると甲状腺に集まり甲状腺がんや機能低下を起こすとされています。確かにチェルノブイル原子力発電所事故では、放射性ヨウ素をミルクや食品を通して摂取した子供たちの甲状腺に50~2000ミリシーベルトの放射線被ばくがあり、甲状腺がんの増加がみられました。しかし福島ではミルクや食品の濃度規制などもあり、50ミリシーベルトを超える甲状腺の放射線被ばくを受けた子どもはいないのです。すべての子どもたちを対象としたスクリーニング調査によって100人程度の甲状腺がんが見つかりましたが、福島県立医大の調査ではチェルノブイルとは形質が異なるものであることがわかっています。つまり、もともと持っていたものであるということです。

 

がん化のプロセスについて話しましょう。タバコ、変異原性物質・汚染物質(有害物質)、放射線などによって活性酸素が産生されます。その後活性酸素によるDNA(遺伝子)切断→がんに関係した遺伝子の変異→がん遺伝子の活性化→がん化と進みます。しかしDNA切断や変異が即がんにつながるわけではありません。がんに至るまでには多段階の抑制機構が存在します。まずは活性酸素を消去する機構、続いてDNAの修復機構、変異した遺伝子(細胞)の自己死(アポトーシス)の機構、免疫細胞による変異細胞の排除機構(免疫システム)があります。これらの抑制機構を突破して初めてがんが発現するのです。免疫システムは最後の砦で、非常に重要です。

 

ナチュラルキラー細胞(NK細胞)は重要な免疫細胞の一つですが、ストレスに弱いという側面を持っています。従って人体がストレスを受けるとNK細胞の活性が落ちて、免疫機能が弱まりますので、ストレス状態が続くということはよいことではありません。私の人生において最もNK細胞の活性が落ちたのは、実験用に飼育していたネズミの箱を開けたときに、中からネズミを飲み込んだ「ヘビ」が出てきたのを見た直後です。強烈な恐怖、ストレスは免疫機能を低下させることを、身をもって経験しています。

 

ストレスとは逆に、「笑うこと」、「生きがいを持つこと」は免疫機能を高めるということが岡山の伊丹仁朗先生(医学博士)の実践研究などでわかっています。たとえば、患者さんをなんばグランド花月に連れて行って大いに笑っていただいた後は、NK細胞の活性が増加するというような調査結果があります。私の経験でも、おばあちゃん達に化粧をしていただくと(化粧療法)、NK細胞活性やインターフェロンα産生能といった免疫機能の指標が増加することがわかりました。

 

福島では放射線に対する間違った理解のために様々な不自然な行動が行われています。たとえば、2歳になって初めて幼児を外に出した、砂場を室内にこしらえる、家庭菜園の産物はじいちゃん・ばあちゃんは食べるが子や孫には食べさせない、などなどです。悲しいことです。世界に出てみますと、インド、イラン、ブラジルなどには自然放射線量が非常に高い地域がありますが、多くの人が普通に暮らしています。また1950~70年代は大国の大気圏内核実験によって放射性降下物の量がかなり多い時期でしたが、人々は普通に暮らしており、それによる影響はありませんでした。

 

福島で大切なことは、情緒的・短絡的な行動をせず科学的に考えて行動することだと思います。このためにはまず放射線を測ってみるとよいのです。幸いなことに測定器はたくさん出回っています。そして判断すればよいのです。プールで泳がせて大丈夫かという意見がありました。実際にプールの中の放射線量を測ってみると、水は放射線の遮蔽効果がありますので周りより却って低いことがわかります。コープ福島で日常食の陰膳調査をしました。陰膳調査というのは、ある家庭に一人分余計に食事を作ってもらって、それを丸ごと測定するのです。精密な測定機で14時間も測りこまないと数字が出ないほど、低い放射能濃度でした。福島産のお米は全袋検査をしています。きちっと管理されていますから、他の県産米より却って安全だと思います。福島県産の食品を食べることの心配はまったく必要ありません。それより、がんや成人病を予防するライフスタイルを推奨している長野県に習って、抗酸化食品をたくさん摂るといった行動が大切だと思います。

 

2011年の夏頃には福島事故は最悪の状態を脱して、ある程度収まりつつあったと思います。しかし実際には、その頃から避難する人が増えました。そしてその後震災関連死の問題が出てきました。このようなことはリスクコミュニケーションの問題だと思います。科学的に物事を見る眼、リスクを総合的に判断する眼、情報を選別する眼、これらをベースにしたコミュニケーションを行っていくことが大切です。

 

■閉会挨拶  松永 正紀  (日本会議唐津支部事務局長)

 まずお願いしたいことは、ロビーで販売している宇野先生の「低線量放射線を越えて」という素晴らしい本をぜひ読んでいただきたいということです。
 私は5・6年前に玄海発電所から約9kmの位置にある佐志小学校で校長を務めていたので、毎年、校舎内退避とヨウ素剤配布のための訓練を行っていました。まだ3.11の大事故が起きる前でしたが、実は当時「過酷事故」を想定し、数日~1週間を校舎内で暮らすためのコメの備蓄などを考えていました。しかし、周辺の人々が誰も賛成しなかったので断念しました。
 危機管理として過酷事故を想定した私でも、激動する世界に囲まれた今の日本で「即原発廃止」という考えには賛成できません。少なくとも将来「安定的でコストの高くない次世代の(なるべく国産の)電気エネルギー源」が確保できるまでは、できるだけの安全性を確保したうえで(=規制委員会の安全審査を経て)すみやかに再稼働すべきだと思っています。

 
今日のお二人の講演の教訓は「事実・現実を直視せよ」であったと思います。皆様も「玄海原子力発電所見学ツアー」に参加してぜひ事実・現実をご自分の目で確かめていただきたいと思います。

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