母と娘の関係が、このところクローズアップされているのはご存じのとおり。分析した本や体験談を多くみかけるようになりました。
母娘関係はとびぬけて異質という、精神科医で特にひきこもり治療については第一人者の斎藤環さんが、5人の女性と対談した本を紹介します。
斎藤環は2008年に母娘問題についての本『母は娘の人生を支配する』(後日紹介します)を出版されています。

母と娘はなぜこじれるのか/NHK出版

2014年2月発行

支配を超えて生きる!

女性の謎、ジェンダーの壁、父親不在…
問題の原因から、葛藤を乗り越えた体験、
自立した関係の築き方まで語り合う
魂の対談集


≪目次≫
序 「母の娘」からの出立に向けて 斎藤環

1 母と闘うということ 田房永子×斎藤環
2 母は一個のわからないもの 角田光代×斎藤環
3 母への罪悪感はなくならない 萩尾望都×斎藤環
4 臨床現場から見た母と娘 信田さよ子×斎藤環
5 母娘問題は時代の産物 水無田気流×斎藤環

あとがき 斎藤環

なぜ今、母娘問題が浮上しているのか、その背景には何があるのか。
5人の女性たちと徹底討論しています。

自身の体験、著書についてのかなりつっこんだ話。
対談なので読みやすいのが特徴で、話に出てきた本についての簡単な内容や、話題になった新聞記事、ことばの解説が欄外に書かれているので、途中でつっかかることなく読み進められます。

共感ポイントは多々あれど、わたしがいちばん重要だと思ったのは「毒母」という言い方について。テレビで取り上げられるとどうなるか。
田房永子さんとの対談の一部を引用してみます。(42-43p)
田房 私としては、「毒母」という言葉は、娘が「自分がつらいと思っていいんだ」と気づくためには有効だと思うんです。お母さんの異常性というより、娘が嫌なことを嫌だと思えないこと、自分が嫌だということをちゃんと認められないことのほうがもっと異常だから、そこに気付くために、お母さんをいったん悪者にするための便利な言葉だと思うんです。

斎藤 そうなんですよね。そういう気付きのきっかけでしかない言葉を、わざわざ実体化してしまうんですよね。

田房 お母さんと毎日電話しているような人も、私から見ると、それがその人の人生に大きく影響していると思うけれど、その人に対して「あなたのお母さん、毒母ですよ」なんて言うための言葉じゃないと思っているんです。自覚していない人は別に放っておいていい。そういう人が自発的に苦しいなと思った時に、便利な言葉なだけです。それがテレビになると、お母さんに向かって、「あなたは毒母ですよ」とか、「毒母になっていませんか」というふうになってしまうんですよね。私はそんなことをしても意味ないと思います。

斎藤 それはすごく重要な指摘で、そのへんをセットで言わないと、一部の識者のように「そんな、母親を毒母呼ばわりして」みたいな話になってしまう。でも、今の説明ですごく腑に落ちる感じがしますね。

田房 テレビだと、「この息切れは危ない」とか、「これはがんの兆候」みたいに、怖ろしい感じにしないとみんな見ないから、そういう言い方になってしまうのかもしれないですけれど。

テレビというのは、「今」話題の事柄を視聴者にわかりやすく映像で提供していますが、取り上げ方、切り取り方が「短い時間でインパクトを与える」方に傾いている気がします。もちろん長時間でじっくり、というケースもありますが。

テレビの情報だけで、すべてを知ったつもりになってはいけない。気になった事柄については、本を読むこと。
「その分野についての本は、必ずある」とは、HONZ女子会で書評家の東えりかさんの仰ったことばです。
本にもあたってみる。これはMUSTです。おとなのたしなみだと言ってみましょうか。「そのテーマならこの本ですよ」という案内をこのブログでしていけたら…鋭意活動中でございますw

これは母と娘の関係について、ちょっとひっかかるところのある人のはじめの一冊として、最適な本です。
次には対談の中で挙げられている本を読んでみるのもいいですね。

以下にピックアップしてみました。
母がしんどい/新人物往来社

ママだって、人間/河出書房新社

マザコン (集英社文庫)/集英社

八日目の蝉 (中公文庫)/中央公論新社

ロック母 (講談社文庫)/講談社

空中庭園 (文春文庫)/文藝春秋

対岸の彼女 (文春文庫)/文藝春秋

シズコさん (新潮文庫)/新潮社

福袋 (河出文庫)/河出書房新社

イグアナの娘 (小学館文庫)/小学館

11月のギムナジウム (小学館文庫)/小学館

バルバラ異界 (1) (flowers comics)/小学館
残酷な神が支配する (1) (小学館文庫)/小学館
トーマの心臓 (小学館文庫)/小学館

母が重くてたまらない―墓守娘の嘆き/春秋社

インナーマザーは支配する―侵入する「お母さん」は危ない/新講社

女子会2.0/NHK出版

虐待と親子の文学史/論創社

だから母と娘はむずかしい/白水社



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