以前一度読んでもう一度読んでみたいと思っていた本。
夏休みを利用して読んでみたがやはり抜群に面白い。以前には書かなかったポイントで印象的なくだり。「虫売りが面白く、屋台ごと買ってしまったGS(ゴードン・スミス:筆者)、まさしく大人買い。マツムシ、クツワムシ、クサヒバリ、エンマコオロギ、キンハバリ、キリギリスの鳴き声を楽しむ。西欧人は虫の声など騒音にしか聞こえない、という話も聞いたことがあるがGSはそうではなかった。午後9時以降に生命の詩や愛の歌を歌うと書いている。
GSが日本に滞在した期間は1900年初頭でちょうど日英同盟締結、そして日露戦争の時期、英国人であるGSは日本では大変丁重な扱いを受けた。大英博物館に動植物の見本を送るという使命を帯び、ハンティングを楽しみながら動植物を採取、英国に送り続けて日本を紹介することとなり、結果的には勲四等旭日小綬章を受けた。
日本的美意識、大和魂、女性の服装や色に対する繊細な好みと趣向、生花の心、左右不対称の美などを解説している。これらが明治末期の日本で日本人の特に女性たちから学んでいて、現代の日本では一般には見かけられなくなった文化が当時は幅広く庶民にも残っていたことを示す。
写真も多く残しているが、非常に面白いのは伊勢志摩の海女たち20名ほどに蓄音機の音楽を聞かせ、その様子を撮影している。曲の内容によって海女たちの表情が違うことを写真で証明しているのである。愉快な曲と軍楽曲で海女たちが素直に驚きや面白みを表現しているさまは、まさに民俗学者顔負けの分析である。
そしてGSはこの理想的な文化環境を維持している日本が今後商業的な力に押されて文化的荒廃を遂げるだろうと予測している。「日本は最高水準の理想の社会から最低のところまで堕落することだろう。日本はやがてアメリカの道徳や自由を取り入れ、質の善悪をはともかくとして商人の国になるだろう。日本はやがて社会的にも経済的にも巨大なシカゴのようになるだろう。そうなれば哀れである。」どうだろう、明治の末期に現代の日本の姿を予見しているではないか。
これは当時の日本の教養人の夏目漱石や島崎藤村、そしてこのGSやイザベラ・バードのように海外から日本を訪れた欧州人たちがよく口にした言葉でもあった。また同時に、今の中国の経済発展を見て日本人が「30年前の日本と同じだ」と感じることと同様の感想かもしれない。
この貴重な記録、全八巻にもなる手書き日記が原本であるが、その原本はオークションで売り払われてしまったという、なんと残念な。
読書日記 ブログランキングへ