意思による楽観のための読書日記

生命の逆襲 福岡伸一 ***

AERAに連載されたという生物学エッセイ。面白かったエッセイを紹介。

単細胞生物に死はあるのか。われわれ人間は多細胞生物、単細胞生物は一つの細胞が分裂を繰り返し増えていく大腸菌やアメーバなど多くの微生物が対応する。多細胞生物では各細胞は分裂後にそれぞれの役割に分化、目や心臓、皮膚、骨などになるが、単細胞生物では分業はせず、一つ一つが生き物として生きていく。その一生とは細胞分裂からその娘細胞が生まれるまでとすると20分ほど、それが一生だとすると相当短い。DNAはコピーされ娘細胞に引き継がれているので、遺伝子はそのままずっと引き継がれる、細胞の記憶ともいえるもの。そう考えると単細胞生物は死はない、ともいえる、なにか不思議な話ではないか。

コモド諸島に住むコモドオオトカゲ、大きいもので3メートルもあり、肉食で、島に住む水牛を食するという。いくらコモドオオトカゲが大きいといっても水牛は巨大な体を持つ。その水牛をコモドオオトカゲが倒す戦略とは、近くから様子を伺い一瞬のスキをついてヒトかみする、というもの。かんだ後は細菌などが侵入して化膿して、数日後には感染症のために巨大な水牛も倒れる。コモドオオトカゲは倒れた水牛を食する、という。本能的に大きな水牛を倒す方法を知っているのか、それにしてもコモドオオトカゲは水牛をヒトかみしてから数日間は水牛のそばにいて、倒れるのを待っているということ、つまり水牛は感染症で倒れることを予想できるということになる。爬虫類のコモドオオトカゲが将来の出来事を推定し待てるということで、そのきっかけは自分の行動なのである。わなを仕掛けて狩りをする、という行為に匹敵するインテリジェントな行動ではないか。

露天風呂のサルは湯冷めしないのか。これは有名になった地獄谷温泉のサルに関して前から気になっていたこと。サルの体毛は皮脂を含んでいてお湯にはぬれず、皮膚に汗腺が少ないので、湯上りにも汗をかかない。霜焼けにもならないとのこと。温まった後雪の積もったねぐらに帰り着くまでに湯冷めするのではないかと、他人事、いや他猿事ながら気になっていたこと。そう、数年前の真夏に地獄谷温泉に宿泊した。駐車場にバイクを止めてから細い山道を登り歩くこと数分、小さな温泉宿についた、そこが地獄谷温泉、後楽館。建物は民宿風、食事も山菜中心で、それでも有名になった宿は一泊二食で12800円だったと記憶するが、物好きそうなドイツ人のバイクライダーと話をした。有名なsnow monkeyが入るという露天風呂を見に来たとここと。まさかまさか、ドイツからツーリングしてきたという。これを見にはるばる1万キロ以上のバイク旅をしてまで来る、すごい観光効果である。しかし夏なのでサルはおらず、その露天風呂には人間が入れた。ところが虫だらけ、とても長時間入っていられない。そこでもう一つ気になる、サルは虫が平気なのか。そうか、真冬に虫はいないだろう。そもそも一生裸で外で暮らしているのだからきっと平気なはず。そういえば人間だって1万年以上前には旧石器時代で外で裸同然の暮らしをしていたはず。体毛が少ない人間は虫にとっても格好の獲物。蚊のお役に立っていると、そこで蚊の食生活について。

きわめてデリケートな蚊の食生活。蚊に刺されやすい血液型があるというのは信ぴょう性が低い。血液型は血球表面の糖鎖構造によって決まるので、刺す前から血液型を判別してターゲットを決めるのは難しいとのこと。人が吐き出す二酸化炭素をたどって人間に近づく。人間に近づくと乳酸、短鎖脂肪酸、汗のにおい、熱により皮膚に着地するので、体温が高い子供は刺されやすい。皮膚の上から熱により毛細血管の場所を探り当てる。蚊の口吻には7つのパーツからなる針がついていて、鞘に保護されている。一対のギザギザのナイフ状のメスで皮膚を切開、巧みに神経を避けて刺激を与えないように穴をあけていく。そこに唾液を注入する別の管を挿入、唾液には血液凝固防止成分が入っている。最後に血液を吸い上げる管を差し込んで、凝固しないうちに血液を吸い上げるという、これだけの作業を数秒以内に完了する。血液は産卵のために必要な栄養素となるため、メスの蚊だけが吸血し、オスは植物の汁などを吸って生きているという。蚊だって必死に生きている。

こうして考えてみると、地球上の生命はそれぞれが他の生物に相互に依存しあって生きている。2001年ころからミツバチの大量死があるという。農薬に含まれるネオニコチノイドが原因物質として特定されたので、フランスでは早速使用禁止になったが、日本では企業、政府、JA、生協も人には無害だとして動きは鈍い。単独の物質の害ではなくて、複合的な作用が考えられ、環境全体として環境変化に繊細な影響を受けたミツバチが被害にあっているのではないと推定されている。生物多様性は環境問題の主要課題だが、どんな小さな生物でも、その他の生物や環境のなかで一つの役割をはたしているかもしれない、と考えると、絶滅危惧種のニュースを聞くときにもう少し深刻な理解が必要となる。


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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