意思による楽観のための読書日記

火山で読み解く古事記の謎 蒲池明弘 ****

古事記に現れるイザナギ、イザナミ、アマテラスとスサノオ、ニニギノミコトなどの神話の背景には7-8世紀まで語り継がれてきた縄文時代の火山活動がある、という仮説が正しいものと信じて読めば大変面白い読み物である。7300年前に起き南九州を火砕流で埋め尽くしたとされる鬼海カルデラの大爆発が、高千穂を舞台にする天孫降臨神話の背景となり、3800年前の出雲三瓶山の大爆発が出雲神話の背景にあるという。この仮説の真偽は確かめようがないとすれば、太古の昔から火山列島であるはずの日本列島における神話のストーリーとしてストンと腹に落ちるものがある。こうした仮説には先駆者がいて、大正昭和時代の物理学者であった寺田寅彦、ロシアからの亡命者で早稲田大学でロシア文学を教えていたワノフスキー、「火山列島の思想」の著者で民族学的感覚を持った国文学者の増田勝美などである。いずれも1923年に起きた関東大震災に触発されて論説を発表をしていて、2011年の東日本大震災に触発された本書筆者はリバイバルともいえる。2018年に入り鬼海カルデラの活動が報じられていたが、この仮説を知る人にとっては「ほらね」というニュースだったに違いない。

ワノフスキーはスサノオを火山噴火と解釈した。噴煙が上がり長期にわたり太陽を隠し続けたという古代人の記憶がアマテラスの岩戸隠れ神話の根幹にあるという。スサノオが泣き暴動を起こすさまは次のように古事記に記述される。「スサノオは海と川を呑んで泣くが洪水は起こさず、干ばつを起こし山上の緑樹はしぼんだ。邪悪な神々は蠅のように蠢き、山河全体が震動する。スサノオは田畑を損ない、女神の宮殿もケガしたので女神は天の洞窟に身を隠したため国中が闇黒へと沈んだ。」これは典型的な噴火の光景に違いないという。大量の火山噴出物が海上を伝って陸地にまで達し、洪水ではなく川や海を干上がらせ、山の緑も焼き焦がされた。灼熱の火砕流は地上では次々と家屋や畑を覆いつくし、爆発と大地震も起きた。やがて噴煙は大空を覆いつくし数年にわたり暗く寒い気候が続いた。同様の解釈は同時代の理系の学者たちにより提唱されたが、当時の歴史学者からは、火山や地震を神話と結びつける説は亜流とされ、その傾向は現在も続いているという。

神話ではスサノオが岩戸から出てきたアマテラスにより高天原から追放され、南九州からはずいぶん離れた出雲に降り立つ。その際、食糧神であるオオゲツヒメを殺し、オオゲツヒメの体からは蚕、稲、粟、小豆、麦、大豆が生じ、カミムスヒノミオヤノミコトという神がそれらをスサノオに持たせたとされる。九州に住んでいて生き残った縄文人たちもすでに農耕を始めていたことは確認されつつあるが、火山の被害を避けながら本州に移住してきた縄文人たちがいたと考えても不思議ではない。

古事記と日本書紀が7-8世紀に確立した律令制度と天皇家の正当性を示すために書かれた書物と考えれば、天皇の役割が稲作などの農耕を主導し、災害を鎮撫する役割である、という背景を持つ神話となることは非常に素直な推測であると感じる。本流の歴史学者たちの意見、反論を聞きたい気がする。

 


↓↓↓2008年1月から読んだ本について書いています。

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