意思による楽観のための読書日記

資本主義の終焉と歴史の危機 水野和夫 ****

読者が「分かった気になる」ということが重要だ、とすればこの本は条件にピッタリ、そのとおりだと思えるのだが、若干の不足感もある。本書ポイントはいくつかある。

1. 現在の資本主義経済の発展は限界に来ている。
 金利が現在のように低金利になったことは歴史上400年前のイタリアジェノヴァ以来なく、400年前当時のイタリアにはスペインが世界から集めた金銀が集結してきていたが、イタリアには開発すべき余地がなく、資金がだぶついてしまい、それまでの中世社会の発展が16世紀の100年をかけて徐々に転換、その後の産業革命を経ての資本主義社会の展開へと続く「長い16世紀」だという。今の金利はその時と同じレベル、ひょっとしたら同じことが起きている。
2. 資本主義の発展は格差による収奪だった。
 産業革命以降のイギリス、20世紀のアメリカは、世界の中で最初に産業革命後の生産性向上の成果を産業革命前の周辺諸国からの資源調達と再輸出により得ていたという。石炭石油というエネルギー資源を格安で手に入れ、同様のルートで手に入れた金属資源などとともに加工した製品を生産・貿易することで利潤を得ていた。20世紀末にはその発展も限界を見せていたが、1990年台に資本のグローバル化、自由化が始まり、実体経済である生産、製造業による利潤獲得から金融商品による収益へとシフトした米国はしばらくは資本主義の限界から脱したように見えた。しかし、サブプライムローン、リーマンショックでバブルが弾けて、実態の伴わない金融商品による利潤獲得は必ず弾けるバブルを抱えての綱渡りであることが証明された。ここでの革命は「空間革命」とも言えるものであり、BRICSやPIIGSへの資金投資によりリターンを得られるというセールストークに出会った投資家もいたはず。ここでの限界を筆者は「長い21世紀」と表現、1990年に日本で起きたバブル崩壊が2008年にも米国で起き、同じことは必ず中国でもBRICS、PIIGSでも起きると予言する。アメリカの次の資本主義による覇権国家は中国、ということは長い21世紀には起こらないという見方である。
3. 電子・金融空間でのこれ以上の収奪は未来からの収奪しか残されていない。
 先進国が開発途上国から収奪する時代から、自国内にさえ格差を創りだして上位1%に所得が集約される世界を作り出しているのが現在のアメリカや日本の資本主義だとするとそこから更なる資本主義の拡大を目指すなら未来の人間からの収奪しかない。サブプライムローンやリーマンによる債権パッケージ、財政赤字による国債での公共投資、景気刺激策などというアベノミクスには国民の幸福な未来はない。
4. 日本が定常状態を維持するには分かち合いの経済しかない。
 現在日本の1000兆円以上の国債発行残高に加えて毎年40兆円の国債発行が可能な仕組みは、800兆円に登る預金からの年率3%のリターン24兆円、それに加えて企業に蓄積されている24兆円の資金余剰、合計48兆円に依存している。この資金が金融機関を通して国債購入に当てられているため。1000兆円のストックは民間資産と預金合計がギリギリ1000兆円を上回っているためだと解説。年率3%の銀行のマネーストックが何らかの理由で減少に転じるときに国債発行ができなくなる、その時はあと数年だと筆者は見る。この奇跡的な定常状態は世界で日本が先駆けて経験する資本主義の限界、これをプラスに転じるチャンスと捉えたい。そのためには日本人はこれ以上の成長ではなく、1000兆円を払い込んだ居心地のいい「日本クラブ」のクラブ員になったと考え、どうしたら現状を維持し、分かち合いができるかを考える必要がある。
5. エネルギー生産の効率化が今後の日本の大きな課題。
 原子力発電がこれ以上増やせない現状ではそれ以外の経済的な電力獲得が必須、これが定常状態維持の隘路となることが日本最大の課題となる。日本は世界ではじめて資本主義の限界に到達し、その後のゼロ成長、ゼロインフレ、ゼロ金利という状態を維持する方策を考え実行できることが一番マシなソリューションだという。そのためにはこれ以上の経済発展を求めず、ワークシェアリングで失業率を下げ、格差を最小化する、そして財政健全化の努力を地道にする事こそが目指すべき道だと。アベノミクスに代表される施策はこうした日本が世界に先駆けて実践するポスト資本主義の社会へのチャレンジへの有利なポジションを台無しにする施策だと。

「そうか」と思う一方で、女性活躍、農業振興、観光立国などといわれている今後の日本の脱工業化社会への処方箋の実践、そのために必要な規制改革が重要であり、アベノミクスで言う「第三の矢」を本当に実行することなのではないかと思う。2014年10月に突然始まった異次元緩和第二弾は第一、第二と来た矢がもう一度第一の矢に戻るだけ、というこここそが現在の大問題だと思うのだが、どうだろうか。その具体策実行がされるという前提がなければ、上記1-5の環境認識も評論家の理論、としか思えない。逆に言えば、こうした具体策が上記環境認識とともに説明いただければ、具体策の説得力が増し、国民はそういう主張を展開する組織体を応援できると思う。どの政党がそうした認識と具体策を提示できるのか、しっかり見て行きたいと思う。


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