戦後の戦争映画をすべて見た訳ではないのですが、戦時中の戦争映画『上海陸戦隊』『土と兵隊』『戦ふ兵隊』(どれもS14)、『加藤隼戦闘隊』(S19)等の本物の戦争映画を観ている私にとっては、特に特撮ものはいかにもちゃちくて白けてしまいます。こんな私ですが、私は大映の田中徳三監督作品が好きなので、監督がメインに手がけた兵隊やくざシリーズを観てみました。

ストーリーは、ごく大雑把に言えば、勝新太郎扮する大宮一等兵と田村高広扮する有田上等兵の戦友同士が北満州の部隊を転々としながら逃避行を続ける、といった内容で、なんといっても勝新の超人的な暴れっぷりと、またそれをうまくコントロールする田村の芯の強さと頭脳が映画の見所となっています。

正直荒唐無稽の映画なのですが、私が感心したのは戦場のディテールです。後方部隊のお話なので戦闘場面は殆どないのですが、使い古した軍服に汗染みがつき、埃だらけの中の兵士達の描写が、『土と兵隊』や『戦ふ兵隊』らに通じるリアリティを感じるのです。兵隊アクションものといえば『独立愚連隊』が有名ですが、私にはどうにも作り物っぽくて一回観ただけでダメでした。こういうのは個人の感覚なので、『独立愚連隊』の方が好きだという方も多いと思われますが、私の実感としては、兵隊やくざシリーズの美術の方が戦時中の戦争映画をうまく模しているように思います。

 

シリーズ五作目の『兵隊やくざ大脱走』(S41)は、慰問団の親子の内地帰還と中国人ゲリラに包囲されて孤立した満蒙開拓団の救出がストーリーなのですが、こういうテーマを扱った映画は以外と少ないのではないでしょうか。

 

散乱する兵士の死体

 

満州から引き揚げる最後の列車に詰め掛ける民間人

 

トラックの上の武装した兵隊たちと満蒙開拓団民

 

まるで記録映画のような、こういうディテールがしっかりしているからこそ、大宮と有田のありえない逃亡劇が妙にリアリティが出るのだと思います。

 

ところでその大宮と有田ですが・・・私が初めて観た十数年前には何も言われていなかったのですが、今ようやく認められてきたというか、笑、実はこの二人の関係はハンパなく濃いのです。田中徳三監督は男同士の濃厚なプラトニックラブを描かせたら、おそらく大映で有名な増村保造監督や三隅研次監督を押しのけてピカイチだと思います。第一作目の『兵隊やくざ』は増村監督が撮ったのですが、古参兵による新兵へのリンチとそれに反抗する大宮と有田、という暴力描写が繰り返され、そこにエロチックなシーンも加えたりで、映画に刺激を求める人はそこが好きなのでしょうが、私は映画にドラマ性を求める方なので、この一作目はあまり好きではありません。田中監督の二作目からは、監督独特のコミカルでテンポの良いシーンが増えてとても面白く、また大宮・有田の関係が次第に濃厚になってきます。特に大宮がよく叫ぶ「上等兵殿〜!」はとにかくすごいです。ちなみに申し上げておきますが、私は決してそっち系には全く興味がありません。ですが近距離で男同士が目と目を見つめ合う、抱き合うなどのてんこもりの演出にはかなりびっくりしました。それでいて田中監督作品は、決して性欲的な要素はなく、あくまで純粋なプラトニックに徹しています。そこが物足りないと思う人も多いでしょうが、田中監督の手法は強いて言えば女性向きなのかもしれません。

 

近い近い近い近い

 

部隊全滅の後、奇跡的に助かった有田と大宮

 

 

将校に化けた有田と大宮

 

それから、ここで重要人物として、成田三樹夫扮する青柳上等兵(元憲兵)が登場します。私はこの役者さんが好きで、この頃はまだ映画に出て間もない頃だと思いますが、とにかく既にものすごい貫禄です。ラストで青柳は戦死するのですが、せっかくですのでもうちょっと派手に演出してもよかったかもしれません。

 

 

大宮とほのかな友情が芽生える青柳

 

この後ゲリラと戦って開拓団民たちを無事後方部隊へ引き連れて行くところで映画は終わるのですが、後半のこの部分は集団を纏め上げる田村高広がぴったり役にハマっていてとても恰好いいです。

 

田中監督は、増村監督や三隅監督とは異なり、自身の確固とした美意識に役者をはめ込むのではなく、自分は後方にいてその役者のいいところを見つけてそれを存分に引き出してやるというスタイルの映画監督なので、組んだ俳優では勝新や田宮二郎や田村高広や天知茂など多いのですが、監督はあくまで後方にいるのでいいところはすべて役者の手柄となるため、いわゆる映画評論家の間では田中監督の評価はかなり低いです。しかしじっくり見ると田中監督独特の演出やリズム感などがよくわかるので、今はもう少し評価されてもいいように思います。(兵隊やくざシリーズは面白いという人は多いのに監督は褒めないという・・・苦笑)増村信者や三隅信者は実にたくさんいるというのに残念です。

 

兵隊やくざシリーズでは、第四(これは森一生監督)と第六(脚本があまりよくない)を除けばすべて面白いので観て損はないと思います。話は微妙に繋がっているので、できましたら一作目から観るのがお勧めです。あと、九作目の『兵隊やくざ 火線』はカラーですが、これは兵隊やくざとは殆ど別物ですのでお勧めできません。

 

田中監督の代表作としては他に悪名シリーズがありますが、こちらは田宮二郎が陽気でイカした関西兄ちゃんを演じていてとても爽快です。(というか、『白い巨塔』などダンディな田宮しか知らなかった私は、最初この田宮を観て椅子からずり落ちそうになりました、爆)お勧めは『悪名』『続悪名』(これは有名シーンがあるので最高にお勧めです)『第三の悪名』『悪名一番』(こちらも有名な『靖国神社参拝問題?シーン』あり)です。