湿原の奥底にぽつりと洋館が佇む。
それは朽ちることすら忘れてしまったかのように、永年の時を過ごしてきた。
主人を失った洋館はまるで空中に固定されたような老いた空気を溜め込んでいた。
某月某日。
しかし、その空気を乱暴に切り裂く者たちがいた。
彼らは静かに、目を合わせるでもなく、無視するわけでもなく、違いの距離を図り合う。
最後の者がその枯れたドアを閉めたときに、すでに館の内部には不思議な邪気が溢れていた。
それは生命のエネルギーとも違う、そしてまた死臭とも違う。
現世を超えたどこかと繋がりし者のみが放つという、形容しがたい気配。
「キヒヒヒヒ・・・これは、これは、豪勢なことですな・・・」
「長老、この者たちは一体・・・?そしてこんな辺鄙なところで、何を始めようというのですか」
「おや、あなたは気づきませんか、この者たちを前にして・・・。よいでしょう、教えてあげましょう。今日行うのは、しりとり」
「し、しりとり?というと、あの?」
「キヒヒヒヒ・・・そう、しりとり・・・ただし、それで争うのは彼ら人の身に宿りし人外の者たちー・・・」
「まさか・・・彼らは」
老人は口の端を垂直かと思わせるほどに釣り上げると、言った。
「そう。能力者たちですよ」
能力者紹介
「気づかないで・・・お願い・・・」
艶やかな白桃色の髪が風になびいた。
次の瞬間、彼女の体は透明に消え去っていた。
モンスターの軍勢に襲われたその日、恐怖の極限の中で、彼女は覚醒した。
その存在を世界に同化させ、透明な存在になる力。
それはまるで、密林に潜むカメレオンのように。
能力はストレンジカメレオン。
「る」という語尾に対して最強の防御力を誇る能力。しりとりにおける「る」攻めは王道とも呼ばれる戦略であり、その主たる戦法を封じるシンプルかつ強力な能力。
② さくら・まう
「ねえ、このリンゴみて!」
「わあ!まうちゃんのリンゴ、すっごい赤くて、大きいねえ!」
収穫祭。彼女の育てる果物は、大きく、甘く、とても水々しかった。
「ねえ、まうちゃんは、どうしてそんなに上手に、果物を育てられるの?」
「えっ。わからないけど・・・でも、きっと、果物が大好きだからじゃないかな?」
そうして彼女はリンゴを撫でる。その手はうっすらと、暖かい光に包まれていた。
能力はフルーツバスケット。
「くだもの」と比較的使用されやすいワードの出現と同時に発現する能力。場すべてに影響を与えるため、術本人にも果物限定の制限がかかる。しかしさくら・まうにとって果物はまさにホームグラウンドであり、望むところなのである。
街は燃えていた。
正しさも、悪さも、もはや誰も何のために戦っているのかわからなかった。
そして誰を倒せばいいのか、その目的すらも失っていた。
暴走した兵士たちは子供達、僧、その他無力な者たちを火にかけていく。
燃える街の光がステンドグラスから差し込み、片顔を失ったマリア像は赤く染まっていた。
サワッチはマリア像に備え付けられた光る十字架を手に取り、握りしめた。
「マリアよ。この地に倒れし、すべての者たちに、救いの祈りを」
能力はゲルニカ。
総4種類の能力を操る恐るべき実力者。それぞれの能力はトラップ型であり、発動とともに両者の動きを縛る。中でも3のゲルニカは「る」で始まり「る」で終わるワードに限定させるという凶悪な能力。大会出場者屈指の能力者だが問題は能力の多さからはこの世界を作りし神が混乱して能力の解釈を間違えるというリスクである。
「行くのは俺だよ」
「待ってよ、そんな勝手に決めないで!私が行くんだから!」
守護者ドラゴンの生贄。
15歳になった者を毎年一人、ドラゴンに捧げることで、その村は守られていた。
そして今年、15歳になる者はその村で二人しかいなかった。
「わかった、じゃあ、ダイスで決めよう」
「そうだね。恨みっこなしだよ」
細工をしておいたはずだった。10回に9回は自分が選ばれるはずの、重偏ダイス。
しかし、ダイスが選んだのは彼女だった。
今でも彼は、毎年、彼女の墓標に花を捧げている。
その手にあの時のダイスを握りしめて。
能力は占い確定。
発動条件はやや変則的ながら、意識していれば自分に術がかかることは回避しやすく、相手にのみ制約をかけることが可能。一度発動すれば、長いワード数が選ばれた際にはなすすべなく沈む可能性がある強い攻撃力をもつ。
「静かに、静かにしろぉ!」
飛び交う消しゴム。アルトリコーダーの音。
走り回る子供達。
学級は完全に崩壊していた。
この仕事を初めて4年。生徒たちには完全に舐められている。
偉大な教師だった父の背中をみて育ってきた。
天国から親父、今の俺をどんな気持ちで見ているんだろう。
そう思うと、ポップスの体に静かな闘志が湧いてきた。
その表情に張り詰めるような何かが宿る。
1分、2分・・・。
静まり返った教室。教壇から、ポップスは言った。
「みんなが静かになるまで、3分かかりました」
能力は静かなる鼓動。
なんか場が静かになったら発動する。観客も含めて静寂が訪れる必要があり、発動条件は思ったよりも厳しい。だが、能力が発動した暁にはその後のポップスの発言力は3倍であり、今日の夕飯のメニューなりテレビ何をみるかとかそういう時にすごい有利になる。しりとりの勝ち負けには特に影響しない。
⑥ ひゅげ
見慣れた白い天井。
細くなった静脈には、点滴ももう入らない。
混濁する意識の中で、ひゅげは窓の外を見やる。
いつしか咲いていた、白い綺麗な花。
「あの花が散ったとき・・・私も、お終いなのね」
その夜ひゅげは夢を見た。
それは天使の顔をしていて、悪魔の体を持っていた。
「ウェディよ 死を受け入れるな 花をもて 契約を結ぶのだ」
目覚めると、ひゅげは体が軽いことに気づく。
その胸には、赤く染まった花があった。
能力はお終いの花。
「し」で終わる言葉を使ったものは、次の自分のターンで確実に負けるという強力な能力。唯一の弱点は即死能力ではなく、1ターンの猶予が与えらえるため、その間に逆転される可能性があることであるが、それにしても大会屈指の攻撃力を誇る能力である。
⑦ かおりしゃん
「ねえ、3丁目のようちゃんいたでしょ?」
「うんうん、ようちゃん懐かしいー!」
「今度結婚したんだってね、それで内祝いって、お菓子もってきてくれたわよ」
「あっそうなんだ」
「・・・ねえ、あんたも」
「あーーー!おいしそう!!!ここのお菓子美味しいんだよねー!!私全部食べるから!!私が、全部、食べるから!!!」
お菓子の袋を握りしめる彼女の両手はなんだか光っていた。
能力は恋泥棒。
今大会最強最悪と言われる能力。
その能力は対戦相手だけでなく会場全体にまで及ぶ。かるい気持ちで行った「いいね」が、そこにいる者たちの人生にどれほどの影響を与えることか。しりとりには直接関係ないものの、対戦相手が既婚者であった場合には心理的なダメージは計り知れない。
⑧ ほしみ
「もう、この畑もダメじゃな」
「そんな、そんなことないよ!おじいちゃん!」
「いいんじゃ、わしが何年農家をやってると思ってるんじゃ。この日照り続きでは土も乾いてしまう」
貧しい農村。この畑がダメになったら、この冬はもう、お金が入らない。
薄い服に足を凍らせることになる。
ほしみはその夜山に登った。
毎日、毎日そこから空を見ていた。
小さな星の揺らぎ、頬に当たる風の湿り気。
それらがすべて、雨が降らないことを語っていた。
数年後。
街に出ていたほしみは、風の匂いを嗅いだ。
「あ、雨がくる。おじさん、この外に出してる服、しまったほうがいいよ」
半信半疑の店員が服を片付ける側から、強烈な通り雨が街を通り過ぎた。
「すごいなお嬢ちゃん。天気がわかるのかね」
「毎日、気にしてたから・・・」
それ以降、ほしみは街の天気予報士としての職業についた。
その碧い目は光をたたえていた。
能力はお天気お姉さん。
発動条件は比較的ゆるく、またさらに発動条件が相手にわかりにくいという特徴を持つ。能力自体も強力であり、天気関連という狭いカテゴリーに相手を閉じ込めることが出来る。強力がゆえに、解除条件も持つが、それに気づかれる可能性も高いとは言えない。
⑨ かい
かいは迷っていた。
芸の道は厳しい。努力だけではどうにもならないかもしれない世界。
血反吐を吐くまで練習した一発芸も、聴衆からはまるで死んだ魚の目のような視線を浴びるばかり。
一人、二人と減る同期の中で、いよいよ最後に残っていた彼女まで去っていった。
「夢は叶うから素敵なの。でもね。叶わない夢は、惨めなのよ」
雨に打たれる中、劇場のすみで座り込んでいたかい。
中央のリングでは知らぬ格闘家が叫び声をあげていた。
「まよわず行けよ あやぶむなかれ」
かいの体に電光走る。
そのファイターは、汗に光り輝いていた。
もう、迷わない。
一人でも、俺は俺の道を行く。
劇場を後にする彼の体は夜道にうっすらと光り輝いていた。
能力は卍固め。
発動条件は叫ぶことであり、自分の意図したタイミングで発動可能である。相手が猪木を知らない場合ほぼ必殺の能力であり、また仮に猪木を知っていたとしてもかなりの制限を強いることができる。相手に叫ばれても発動するが、一度の対戦中にそれに気づく能力者もなかなかいないであろう。
「ヤスン、おでん買ってきて」
「えっ俺が?」
「頼むわ。俺忙しいからさ、休憩に」
「あ、まあ、それならしょうがないすね・・・」
コンビニに入るヤスン。
あいつ、今月うちの部署にきたばっかりなのに何か調子のってるんじゃないか。まあ、俺は優しいからこんくらいのことはしてやってもいいんだけど・・・
「買ってきましたよ」
「お、サンキュー。お、今年は戌年は運気が高いんだ」
ヤスンは雑誌を覗き込んだ。そして気づく。
(こいつ・・・俺より3つ年下じゃねえか・・・!)
ヤスンの体が少し輝きだした。
能力はフランクフルスイング。
フランクフルトを食べることで発動のタイミングは自在に操れる。この間ヤスンにタメ口を聞けるものはおらず、敬語で話さざるをえないが、しりとりには影響しない。
11 フィス
「お座り!あー、もう!」
またダメだった。ケンタは注がれた餌に顔を突っ込んで、フガフガと食べている。
フィスの声なんてまったく届いていない様子だ。
「もう、お前は本当しつけができないなあ」
そんなある日だった。
村の子供が夜、犬に噛まれて大怪我をおった。
ケンタがやったんじゃないかと、多くの村人が詰め掛けてきた時には心底驚いた。
「ケンタはそんなことするわけない!」
「どうだか・・・聞けば、この犬、お座りもしないそうじゃない。そんな犬のこと、信用できるわけないわ」
「ケ、ケンタだってお座りくらいできる!」
「へえ?じゃあやってみろよ!」
フィスは震えていた。
注がれる餌。
きょとんとした瞳のケンタは、餌に気づくと、餌鉢に向かう。
「ケンタ・・・お座り!!!」
ああ、なんてことだろう。
ケンタが座った。
そして嬉しそうにこちらを見つめている。
「お前・・・なんだよ!できるんじゃないか」
その時のケンタは、少し光っていた。
能力はスペル・オブ・ドッグ。
制限系能力。場全体に作用するが、犬種に対して知識があれば圧倒的優位に立つことができる。ただし、発動条件が他者依存であることが弱み。一度会場のメンバーを何とかして立たせるなどの工夫が必要になる。
じんないは何となくその洋館にきていた。
フレンドに誘われてきたのだ。これからここで何があるのかも知らない。
玄関に、怪しげなローブに身を包んだ男が立っていた。
イコプ「出場者の方ですね」
じんない「え?」
イコプ「じんないさん、能力名は何にしますか?」
じんない「まってまって」
イコプ「まってまって、ですね。どのような能力ですか?」
何を言ってるんだこいつは。
関わるとやばそうだ、適当にのりきるしかないな。
じんない「えー・・・すべてをロイックスになすり付ける能力」
イコプ「発動条件は?」
じんない「え?何いってるの?条件・・・あなたが、お腹が空いた時・・?」
その時イコプのお腹は少し光っていた。
能力はまってまって。
発動条件は他者依存ながら、すでに深夜23時であり試合開始と同時に発動することが確定している、ほぼ自動発現能力。以後の勝敗はロイックス次第となるため、その強さは未知数である。
ゴースネルの吐いた青い光線が体をかすめる。
かすっただけで、体の半身を失ったかのような感覚に襲われる。
死と生の境目の戦い。ロイックスはそれを求めていた。
「次が来る!!左!」
それは単純なミスだった。
反対方向に避ける、その打ち合わせはしていたものの、その瞬間だけは全員が左に避けてしまった。間に合わない、もう走っても避けられる間合いじゃない・・・。
そのとき、極限まで高められたロイックスの集中は、走馬灯のように記憶を揺さぶった。走るよりも早く走る。そんな技があったんじゃないか。思い出せ、あの技の名はそう・・・・!
「なんで左やねん!」
じんないの顔に張り手を食らわせたロイックス。
その後ろを光線がかすめていった。
能力はツッコミ。
相手の能力を逆手にとる受動系能力。カウンターの定義が難しいがおそらく能力を返すようなことだと思う。ふわっとしているので発動の瞬間の神様の気分にも影響する不安定さを併せ持つ。神様はこれをみて一応100面ダイスまで用意した。
ぱり。。。ぽり。。。
「わさびが効いててうまい!」
ぱり。。。ぽり。。。
「こっちは塩気がちょうどいい!」
プランは光りだした。
能力はザ・ローリングストーンズ。
夕方のスーパー、お菓子売り場。雑然と並ぶ中にひときわ美味しそうに鎮座する、そう柿の種。近年はいろいろな味付けも出ており、さまざまなバリエーションによってビールにはこれ、焼酎にはこれ、と組み合わせを楽しむこともできる。栄養価も悪くなく、子供のお菓子にも使えるまさに万能食品と言えるだろう。
「フジコちゃんとイベントの趣旨理解してる?」
「しりとりするだけじゃないんよ」
フジコは家からもってきた扇子を嬉しそうに配置していた。
今日はここでイベントがあるらしい。
よくわかってないけれど、人があつまるのは楽しい。
フジコは人前に出るのは恥ずかしいけれど、みんなでいるのは大好きだ。
「能力何にする?」
「あ行しか使えない術!」
今夜はイベント、楽しみだ。
あ、ひゅげちゃんもビール飲みたそうにしてる。
よーしふじこも麦茶飲もっかな!
能力はあ行しか使えない術。
文頭や語尾などにとらわれず、ワード全体があ行のみになるという強烈な制約を課す能力。発動条件がややフワッとしているながら、うまく場を誘導すれば発動は可能。問題は、対象が「フジコ」に限定されているため、できるなら発動しないほうがいいという変則的な能力であること。果たしてこれをいかに勝利に結びつけるか。
「神よ。我に無駄な駆け引きなど不要」
ぺけぴーは神を前にして、悩むそぶりすら見せない。
「一撃だ。一撃で葬り去る。そんな力を求めよう」
天は黒くうごめく。傍若無人なその姿を諌めるように、また楽しむかのように鳴動する。
「当然俺は払う・・・。果てなき代償を、制約を約束しよう」
その目に迷いは、一切感じられなかった。
能力:ニープレスナイトメア
最初に「ランドセル」って言った人が死ぬ。しりとりの勝利すら超えた、殺人能力。ランドセルというワードに限定するという強烈な制約を糧に、その能力は規格外である。そうそう発動することはない、しかし、万が一この能力が発動すれば・・・
死者が、出ることになる。
16人は狭い部屋に座っている。
お互いを、探り合うように。
ステージの側からは、この治外法権の争いを、どこかで嗅ぎつけた物好きな観客たちのざわめきが聞こえてくる。
一瞬の静寂ののち、場違いなほどに陽気な声が響き渡った。
「レデイィイィイィスアンドジェントルメエエエエン、それでは今宵史上最高で、そして最悪な、戦いが始まります!!!」
怒号のような歓声。
「それでは、第一回戦の組み合わせを紹介しましょう!!一回戦は・・・サワッチ、そして・・・ハッチ・・・・・」
しりとりが始まる。
能力者たちが、知と体のすべてをぶつかり合う、最高の戦いがー。
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