こんにちは、星ワタルです。
昨年5月に行った劇団真怪魚の舞台最新作『シリウス ゲーム』〜スパイ誕生編〜(2017・5・3調布グリーン小ホール)の映像作品の完成披露試写会が先日行われました。
今日はその映像となった『シリウスゲーム』を鑑賞した感想を書きます。
〈以下、感想文〉
今回、映像となった「シリウスゲーム」を観て感じたことは、ともかくスパイアクションと思って観ると裏切られる作品ということだった。
冒頭の緊迫した世界情勢の説明から始まって、さぞかし派手なスパイアクションが繰り広げられるかと思って観ると、物語がどんどん意外な方向に進んでいく。
再鑑賞してみてこの物語の意外な展開は、製作の舞台裏を知っている私でさえ、そのように思ったくらいなのだから、観客にとってはさぞかし意外性のある物語だったのではないだろうかと思う。
この舞台のテーマは愛だった。しかし、愛することの厳しさと試練をこの物語は容赦なく問いかけてくる。
大次郎は、自分自身と家族を不幸にした社会を許せず、自分の敵と思い、恨み、憎み、復讐のために大泥棒になる。
だが、そんな彼の行動が、自分の最愛の弟子であった六右衛門くんとその家族を不幸にしてしまう。
これは、自身の行動が、自分を不幸に陥れた自分が憎む社会と同じ側に立ってしまったことと同然だ。大次郎は、このことに胸が張り裂けそうな絶望を覚えて、それが彼の生きる意味を失わせてしまう。
彼の復讐心こそが、結局彼自身を破滅においやってしまう。
彼は自身の罪の償いのためと思って死を選ぶ。一見、ドラマチックに死んでいく大次郎。だが、ここで物語が終わらない。
一度、死を選択した彼の前にも、おりんの言葉通りすぐに「超えられなかった壁」が再び現れる 。
大次郎は六右衛門くんばかりでなく、過去に自分が大金を巻いて幸せを与えたと思っていた人たちが不幸となり、悲劇を生んでいる現実を、突きつけられるのだ。
大次郎は、クロウに入りスパイのための猛特訓を受ける。
だがだが、まだまだこれで終わらないところが、この「シリウスゲーム」の凄さだと思う。
大次郎はおりんの言葉であった「ドミノの最初の一枚」となることの言葉の意味こそ半分は理解したようだが、その動機の復讐心について変わることはなく、再び過ちを犯す。
大次郎が、自らの復讐心に気が付くのは、明日香の物語を聞いた時だ。
明日香にとっては、大次郎こそが自身の父親を殺した原因を作った敵と同然の存在、その明日香が大次郎を許すという試練に向き合っている事実を彼は聞かされる。
だから、大次郎は、3度生まれ変わるのだ。
1度目は自ら死を選び、2度目はおりんのドミノの話を受け入れた時、そして、3度目は明日香が自分を許したという事実を受け入れた時だ。
汝の敵を許し、自分を迫害するもののために祈り、愛することができるのか?
大次郎は、3度生まれ変わることで、ようやくそのために立ち上がることができた。
だがだが、まだこれでも「シリウスゲーム」のメッセージは終わってはいない。
ようやく決意した大次郎の前にも意外な言葉をマスターは投げかける。
「お前が言う世界の中には紅竜国が含まれているのか?」
自分の復讐心と向かい合ることができた大次郎は、今度はシリウスのスパイとして、地球をまるごと愛せる愛を育むことができるか?という新しい試練の前に立たされたところで、舞台は終わる。
この物語は、愛の中でも一番つらいことである、自らの不幸そして傷ついた過去と向き合い、自分を不幸にした者たちを許し、そして愛することの厳しさと大切さを説く物語なのだ、 と徐々に気づかされる。
そして、大次郎個人の物語から、国家の間に横たわる問題に対して、この愛を説くというラストに繋がっていく展開が衝撃 であり、そして強いメッセージとなる。
敵を許し、敵を愛することはどういうことなのだろうか?
私は、今回再鑑賞して、一つ気が付かされたことがある。
それは、表面的な自己の姿(境遇、地位、名誉、財産、肩書)だけでなく、自分の人生そのものを愛することから始まるのではないか と思う。
大次郎の物語は、六右衛門を死に追いやってしまった自分を認め、生まれ変わることから始まった。
そして、六右衛門君ばかりでなく、自分がばらまいた大金で大勢の人間を不幸にしてしまった事実を受け入れ、罪を償おうと懺悔する。
彼の歩んできた人生、過去を変えることはできない。
だが、自分自身の人生を愛し、大切にできないものが、他人を愛し、敵を許すことなど出来ない のだ。
表面的な自分の姿や我欲にとらわれた人間は、結局自分への偏狭的なわがままやエゴイズムに取りつかれ、傷ついた自分への被害者意識だけを苛み、それでは結局、復讐心しか生まれない のだ。
だが、自分へ危害を加えた者を愛することができるためには、自分の幸も不幸を客観的に認めながら、そこからまた生まれ変わり、新しい自分を成長させるしかない。
明日香が、大次郎を許したことが、また大次郎が変わるきっかけになったのだ。
明日香はまさしくドミノの一枚だ。明日香が大次郎を許さなかったら、大次郎もまた自分と向き合うことができなかったはずだ。
明日香は、おそらく父親が語った「自分が死ぬことがあっても、彼らを恨まないでほしい」という言葉を信じて、自分の人生を愛することができたのだろう。
大次郎は、母親が幼いころに語っていた「お前はイエス様と同じ。聖霊によって身ごもったのよ」という言葉をデタラメとしか捉えていなかった。 そのためにいじめられた過去もある。
だが、その言葉を、大次郎が再び振り返ったときに、自分の人生の意味を見出したのだろう。
そして、大次郎もまた自分の人生を振り返り、それを大切に愛することを遂に学んだのだ と思う。
振り返ってみると、これは真怪魚の舞台に共通して流れるメッセージだ。
『銀河鉄道に乗ったサギ』で「人間はいつでも生まれ変わることができる」と語られた。そして、『クリスマス最高のプレゼント』は「 自分の人生を精一杯生きろ!」と教えてくれた。
今回のこの『シリウスゲーム』は、そのためには「幸も不幸も含めて自分の人生をまるごと愛してみなさい」「そしたら世界が変わっていく」 というメッセージが加わり、これこそ劇団真怪魚の舞台だ!と言える素晴らしい物語になっていた と思う。
星ワタル
〈感想文終わり〉
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