『奉仕作業』

 

 

小学五年生の始業式後のホームルームで宮下先生は黒板に太い字でそう書いた。

 

 

1日の中で、必ず奉仕作業をやるというのだ。

 

 

時には授業を割いて、放課後や昼休み、朝早く集合してやることもあるだろう。

 

 

1日1回は絶対にやると先生は断言した。

 

 

とんでもない先生が担任になってしまったぞ、私はこの先暗い未来が待っていると思った。

 

 

当時、南小学校は鹿児島では花壇が綺麗な学校としても有名だった。

 

 

その美しい花壇作りを積極的にやってきたのが宮下先生だったのである。

 

 

まるで用務員のおじさんが毎日やるようなことを宮下先生は朝早く学校に来てから、放課後遅くまでせっせとやっていた。

 

 

だから、土砂降りの雨が降った後に水たまりになった校庭に土を運んできて整備したり、飼育小屋の中の動物たちの糞を取ったり、土の入れ替えをしたり、小屋の修繕をすることも私達は宮下先生と一緒にやったものである。

 

 

授業が奉仕作業で潰れるのは嬉しかったが、スコップや鍬を使って力仕事をしたり、動物の糞を取ったりするのはかなり辛かった。

 

 

他のクラスでは、そんなことはやらないのに、なぜウチのクラスだけが奉仕作業をやらなければいけないのか、時々腹立たしい気持ちになった。

 

 

私達が一所懸命に校庭を整備した後に、昼休みになって楽しそうに遊んでいる他の生徒たちを見ていると、お前たちのためにやってあげたんだぞ、とか他のクラスだったら良かったのに、と思ったりしたものである。

 

 

奉仕作業が素晴らしい授業だったと思うようになったのは、小学校を卒業して中学生になってからだった。

 

 

実は中学校は、小学校の隣にあった。 中学校の校庭から、小学校の校庭が見渡せた。 ある日のこと、昼間に大雨が降った放課後、宮下先生と小学生たちが水たまりや泥濘みを整備していた。

 

 

小学生たちは、まだスコップや鍬の扱いが慣れない様子でへっぴり腰で作業していた。

 

 

それを目撃した私は、塀を飛びこえて小学校の校庭に降り立ち、用具倉庫からスコップを手に取り宮下先生の元へ走った。

 

 

この時、気がついたら自然に私はそういう行動をしていたのである。

 

 

「宮下先生っ」

 

 

スコップを持って土を盛っていた先生が振り返った。

 

 

「手伝いますよ、俺」

 

 

振り返った先生は、目を丸々として私をじっと見つめた。

 

 

それから、先生の目は急に涙が溢れそうになった。

 

 

私はそれが信じられず、えっなんで・・とドキドキした。

 

 

なぜなら、先生からいつも私は怒られてばかりで常に怖いというイメージだったから、そんな表情を見たことが一度もなかったのだ。

 

 

「ありがとう」

 

 

先生は満面の優しい笑顔で言った。

 

 

そして、私に背を向けると大声で小学生たちに向かって怒鳴った。

 

 

「おいっ、お前たちがだらしないから、先輩が手伝いに来てくれたぞーっ、きばらんかっ」

 

 

それから、手ぬぐいで顔の汗を拭くフリをした。

 

 

でも、それは涙を拭いていることがすぐにわかった。

 

 

遅いかもしれないが、私はこの時、宮下先生が小学時代の担任で本当に良かったと心から実感した。

 

 

あの頃、宮下先生は学校のためだとか、生徒たちのために奉仕作業をやってあげているというような発言をしたことは全くなかったし、そんな顔をしたこともなかった。

 

 

ただ、学校はいつも綺麗で過ごしやすかった。

 

 

そして、校長や教頭を始め他の教師も、そして父母達も、宮下先生を深く深く信頼していた。

 

 

この奉仕作業のおかげで私にも明らかに変化は現れた。

 

 

映画の好みが増えたのである。 ゴジラだけでなく、パニック映画が大好きになったのだ。

 

 

初めて見たパニック映画は『タワーリングインフェルノ』

 

 

世界最大の高層ビルが完成するのだが、その完成披露パーティーの真っ只中で火災が発生し、そこから脱出する人々と救出する消防士たちの物語である。

 

 

名優、ポールニューマンとスティーブマックウィーンを私はこの映画のスクリーンで初めて目撃した。

 

 

二人の命がけの救出劇に心が震えるほど感動した。

 

 

自らの命を顧みずにいかなる危険な状況でも人々を助けるために困難に立ち向かうその姿に魅了された。

 

 

その後も『ポセイドン アドベンチャー』『大地震』『カサンドラクロス』『エアポート』シリーズなど、当時流行り始めたパニック映画がどれもこれも大好きになり、同じ作品を何回も観に行くようになっていった。

 

 

主人公たちが時には、自らの命を犠牲にしてでも多く人々を救う姿に感動したのである。

 

 

私の心は、ゴジラになりたい という夢から、人を感動させる映画を作りたい という気持ちに変化していった。

 

 

国語でも算数でも理科でも社会でもない、もちろん音楽や体育でもなく、宮下先生の授業で人生にとって大切なことを多く学んだのは奉仕作業の授業である。

 

 

今も、先生が黒板に『奉仕作業』と書いたあの時を鮮やかに思い出すことができる。

 

 

現在の鹿児島私立南小学校

 

 

 

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