政治 ブログランキングへ


なぜ前原氏は民進党を破壊したのか。裏ミッションの可能性を読む
2017.11.20 高野孟『高野孟のTHE JOURNAL』 まぐまぐニュース
http://www.mag2.com/p/news/331957





一部では、先日の衆院選総選挙で自民圧勝を許した「戦犯」とも言われる前原誠司前民進党代表。ジャーナリストの高野孟さんは自身のメルマガ『高野孟のTHE JOURNAL』で、小池ブームにあやからんがために党首自らが民進党を「粉砕」した責任は重いとして政界から去るべきとする一方、前原氏に改憲派から何らかのミッションが与えられていた可能性を指摘、さらに無党派層の新たな受け皿となった立憲民主党を軸にした野党の再構築を進めるべしという持論を展開しています。


立憲民主党を軸にした野党共闘の再構築へ──破壊工作者=前原誠司氏には引責辞職を勧める

前原誠司=前民進党代表が、敗軍の将は兵を語らずという『史記』以来の戒めに反して、あちこちで「民進党のままで選挙を戦ったらもっと酷いことになっていた。希望との合流という判断は正しかったと今でも思っている」という趣旨のことを語っているのが、不快極まりない。

確かに、民進党のままで選挙に臨めば大幅に議席を減らしたかもしれないが、それは他ならぬ前原氏自身に代表として何の知恵も方策もなかったためで、そこから党再生への苦難の道のりを先頭に立って率いていく見通しも覚悟も持ち合わせていない自らの体たらくを覆い隠すために、小池ブームにあやかろうという、浅はかとしか言いようのない道を選んだのだろう。

それが成功したのであれば、まだ何ほどか自慢すべきこともあったかもしれないが、実際に起きたことは、ともかくも野党第一党を張っていた民進党が破砕されて4分解したという、議席が減るなどということとは比較にならない「もっと酷いこと」が起きた。党首が自ら爆弾を抱えて自分の党に自爆テロを仕掛けるという、この前代未聞の愚行に弁解の余地などあるはずがなく、前原氏は党員、支持者、選挙民にお詫びをして潔く政界から去るべきである。

前原氏はミッションを与えられたのか?

しかしこの問題を、前原氏の馬鹿さ加減ということだけで説明していいのかどうか。朝日新聞は19日付の第一面~第二面にまたがって「検証・民進分裂」の3回連載を始めた。その第1回を読む限りでは、前原氏は民進の100億円の資金と党職員の提供を申し出さえすれば、何の資金も組織も持っていない小池氏は「全員合流」を呑むのではないかと安易に考えていたようだが、小池氏に「全員は困る。私は憲法と安全保障は絶対に譲らない」とあっさり断られ、それでも未練がましく小池氏にしがみついて行こうとする様子が生々しく描かれている。連載の第2回、第3回でこの辺りがさらに解明されていくのかどうかは知る由もないが、もしかすると前原氏は馬鹿のフリをしていただけで、小池氏が憲法と安全保障で譲らないことなど百も承知、その彼女と組んで「もう1つの改憲政党」を作って自民党と大連立、改憲を主導する?──といった妄想に取り憑かれて突っ走った確信犯なのかもしれない。

小池氏は自民党時代、日本会議国会議員懇談会の有力メンバーで、同会の副会長を務めたこともあって、自民党の中でも右寄りだし、核武装の可能性を口にしたこともある超タカ派でもある。

その日本会議に直結するシンクタンク「日本政策研究センター」代表の伊藤哲夫氏は安倍晋三首相が最も信頼するブレーンで、その伊藤氏が描いたのが「9条加憲論」である(「憲法9条は改正可能なのか? 安倍政権の描く『加憲』のシナリオ」)。「一言でいえば『改憲はまず加憲から』という考え方にほかならないが、ただこれは『3分の2』の重要な一角たる公明党の主張に単に適合させる、といった方向性だけに留まらない。むしろ護憲派にこちら側から揺さぶりをかけ、彼らに昨年の(安保法制反対デモの)ような大々的な『統一戦線』を容易には形成させないための積極戦略でもある」と、彼は同センターの機関誌『明日への選択』16年9月号で述べていた。それを安倍首相が口移しのようにして、今年5月3日の憲法記念日の機会に公言したのである。

ところで、伊藤氏はなぜその時期にこのアイデアを思いついたのかというと、これは推測にすぎないが、16年夏の民進党代表選に出馬して蓮舫氏と争った前原氏が、その選挙演説で「9条1項、2項は手を着けず、第3項もしくは第10条を付け加えて自衛隊の存在を明確にする」という持論を述べていたので、それを借用したのだろう。

改憲派が何のためにそんなまだるっこしい迂回路をとる必要があったのかと言えば、それは伊藤氏が言うように、解釈改憲による集団的自衛権の解禁に対する「昨(15)年の(安保法制反対デモの)ような、(民主系・社民系と共産系と市民系とが大同団結した)大々的な『統一戦線』を容易に形成させないため」である。その統一戦線の全国的な広がりを背景として、16年夏の参院選で野党4党と市民連合の政策協定に基づく選挙協力が各所で実現したことに、伊藤氏や安倍首相は戦慄したのである。

何とかしてこの流れを遮断しなければならない──と考えていたところへ、うまい具合に、9条加憲論の発案者であり、また「共産党=シロアリ」論を平気で公言するほどの反共派である前原氏が、民進党の代表になった。どこか奥の院の方から、9条改憲反対、安保法制廃止の方向での野党+市民=統一戦線を民進党ごとブチ壊して、小池氏と合流して第2改憲政党を作れというミッションが彼に下されたとしても、不思議はないのである。

しかし立憲民主党が残った

安倍首相や伊藤氏や前原氏にとって最大の誤算は、立憲民主党がヒョッコリ出現して、何といきなり野党第一党に躍り出たことにより、「統一戦線」の再構築の可能性が残ってしまったことである。しかも、民進党の癌であった前原氏はじめ細野豪志氏、長島昭久氏、松原仁氏らゴリゴリの反共派や親米派はこぞって希望へ走って、立憲民主党は今までより遥かにスッキリしたリベラル政党として生まれ変わることができたので、野党協力は構築しやすくなった。

もちろんそれは簡単なことではなく、枝野幸男代表ご本人にしてからが、一般論として野党協力の有効性を十分に認識してそれを推進していく立場にはあるものの、自分の後援会の中心には共産党嫌いの保守派がいて、「共産党と選挙協力をするところまでは目をつぶるが、お前がさいたま駅前で志位委員長と並んで選挙演説をするのは許さない」とまで通告されているとボヤいているのを、聞いたことがある。

しかし、実はこの総選挙でも共闘効果は現れていて、典型例は高知2区。自民党の山本有二=前農相に対し、元民進党参院議員の広田一氏や共産党候補が挑む形だったが、共産が候補を下ろして広田氏に一本化した。前回結果に基づく基礎票は、

・自民30.66+公明16.09     =46.75%
・立民17.29+共産13.44+社民1.88=32.61%

で、事前の予測は当然、「自民優位」だった。が、蓋を開ければ

・広田:9万2179票(56.48%)
・山本:7万1029票(43.52%)

で、野党統一候補の大勝。山本氏は辛うじて比例で復活した。

こういう結果となった要因の第1は、共産党の協力の徹底ぶりで、同党支持者の何と! 100%が広田氏に投票し(朝日出口調査)、また広田陣営のビラ11万枚のうち10万枚を共産党が配った(赤旗報道)。

第2に、立民支持者の94%、希望支持者の81%、無党派層の69%が広田氏に投じた。面白いことに、希望の候補者が出ていないとその支持者はほとんどためらいもなく立民に投票するらしい。立民は無党派層にとってまるで抵抗がない。

第3に、最も注目すべきは、自民支持層の24%、公明支持層の30%が広田氏に投じたことである。この朝日出口調査の数字は、与党にとってはかなり衝撃的なもので、自民・公明支持層の4分の1ないし3分の1近くが立民に投票する具体的な理由までは分かっていないが、安倍首相のモリカケ疑惑への不誠実な対応とか性急な改憲論とかを嫌がっている人が多いと想像される。自民・公明に気に入らないことがあれば、我慢せずに立民に入れてしまうというそのビヘイビアがあることが、これからの1つの見所になる。

これに対して高知1区は、民進県連の副代表だった大石宗氏が希望から出て、もちろん野党協力には反対なので共産党も候補を立てた。相手は元から強い中谷元=元防衛相で、中谷氏8万1,675票(53.6%)、大石氏4万5,190票(29.7%)、共産2万5,542票(16.8%)と野党の大惨敗だった。

この高知1区と2区の結果に、分析すべき多くの問題点が含まれている。

京都の結果も面白い

とはいえ、共産党など野党との協力だけが立民党の生きる道なのかと言うと、そういうことでもない。そこが前原氏が一番分かっていなかったことである。

京都はそもそも自民も民主=民進も共産もそれなりに強くて、勢力拮抗的な政治風土である。

ここでは今回、立民は小選挙区で1人も候補者を立てず、従ってまた他党との候補者調整も行われなかった。それに対して希望は全区で候補者を立てた。にもかかわらず、比例票の出方を見ると、

自民:31.2
公明:10.6
─────
立民:18.1
希望:14.3
共産:14.1

これを見て、京都で立民が候補者を立てていないのに比例で野党第一党であるというのが驚きである。しかも、京都新聞の出口調査では「最も重視すべき争点」の第3位に「憲法」がランクされていて、こんな都道府県は他にない。改憲への姿勢で立民と希望の差が出たのだとすると京都の有権者はレベルが高い。

以上の高知2区、京都全区の例を通じて浮き彫りとなる1つの問題点は、共産党が今までの独善主義を改め、党勢拡大のバロメーターとして全選挙区で立候補するという全く無意味な選挙戦術を止めて、当選可能性のある野党統一候補を推すというのは、とてもいいことであるとは思うけれども、それによって自党が直接得られる票が大幅に減ってしまって、比例での同党候補の当選に結びつかないということが起きるので、それへの反対論が党内でも起こるだろうということである。

しかし、野党共闘を止めれば共産党の票が増えるのかと言えば、そんなことはない。この間の同党の一定の増勢は、民主党~民進党の何やらハッキリしないムニャムニャ状態が続く中で、「しょうがない、共産党に入れるしかないか」という消極的というか、本物の野党第一党が不在であるが故の代替的な支持が過半を占めていたのであって、立民が真正リベラルという風で出てくるとそちらに流れるのは仕方がない。

その流出を止めて、同党が恒久的に囲い込もうとするのであれば、社会主義から共産主義へという綱領的理念をいまこの時点で国民にどう説明し納得してもらうのかという至難の業に取り組まざるを得ない。それをしたくないのであれば、イタリア共産党がそうしたように、さっさと共産主義を捨て綱領を改め党名も変えて、リベラル政党の一種として現実政治に関わらなければならない。

共産党がそこに本気で取り組むのであれば、立民党との間を基軸とした野党協力、その先の連立政権による政治転換が現実味を帯びることになろう。

image by: 小池百合子 - Home | Facebook


高野孟のTHE JOURNAL
著者/高野孟(ジャーナリスト)(記事一覧/メルマガ)
早稲田大学文学部卒。通信社、広告会社勤務の後、1975年からフリー・ジャーナリストに。現在は半農半ジャーナリストとしてとして活動中。メルマガを読めば日本の置かれている立場が一目瞭然、今なすべきことが見えてくる。