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2017年09月19日

【日本の近代】資本主義の精神と二宮金次郎・小野田少尉 小室直樹『日本人のための憲法原論』を読む 15


今回のキーワード
資本主義の精神 アーバン・エクソダス エトス 下級武士 二宮尊徳 利潤の追求 前期的資本 小野田少尉 survival 契約 情緒規範 所有権



前回の続き(第5章)です。

 実は、カルヴァンの考え方で決定的に重要なことは、神という絶対的な座標軸が社会から完全に分離されている点です。社会が相対化されている。それであればこそ、この絶対的原点に立てば、社会は何とでも自由に動かし得ることになる。この考え方があってはじめて、伝統主義社会を変革して近代資本主義社会をつくることが可能になる。(小室直樹・山本七平『日本教の社会学』p. 264、小室)

 日本思想史において、天壌無窮の神勅以外の何物もない、ということは様々な記事で述べたので繰り返しません。要するに、神勅(万世一系の皇統)以外は、政体も何も、全てが流動的であり得るということなんです。神勅だけが絶対であり、それ以外は全て相対化されているのです。この信仰がないから現在の日本も伝統主義社会になってしまっているわけです。

 なお、日本経済がずっと不景気なのは、人口減少のせいもあるでしょうが、何よりイノベーション不足があると思われます。それもそのはず、IT企業と言えばアメリカです。そして、有名なラインは韓国の企業です。別に日本経済が韓国に劣るというわけではありませんが、かつて自動車などが産業の主力だった時代と比べて、日本経済が没落してしまうのも当然といえば当然でしょう。これからの日本がどうなっていくかは、第四次産業革命、すなわちAI革命に乗り遅れないかどうかにかかっていると思います。
 イノベーションのために、もっと規制緩和をして自由市場化をはかるべきなのか、そのあたりは経済学に詳しくないので分かりません。ただ、方法はともかく、結論としてイノベーションが必要なのは間違いないと思います。


資本主義の精神
1, 労働自体が宗教的行為である(自己目的化)、勤勉、正直は最善の策
2, 利子・利潤の追求の正統化、時は金なり(納期←利子)
3, 目的合理性(複式簿記を含む)、伝統主義・呪術の追放、共同体の解体
4, 契約の概念
5, 所有権の概念
6, 倹約と投資

 日本で、資本主義の精神を身に着けていた代表的人物は、二宮金次郎(尊徳翁)です。上と比べてみてください(どこが違うかということも)。
 また、二宮尊徳のエトスは広い意味での下級武士のエトスであると付け加えておきます(正式な身分についても、後に幕府の役人となる)。

二宮金次郎(尊徳翁)の生涯
二宮金次郎(尊徳翁)と日本資本主義の精神

 大塚久雄によれば、14世紀後半から15世紀の英国で、それまで都市に集中していた手工業者が農村へ流出し、アーバン・エクソダスと呼ばれたほど都市が衰退しました。そうした中から近代工業都市が生まれてくるのであって、中世の都市はほとんどが没落したということです。
 これは単に地域が変わったのではなく、それに対応して産業を動かす人間のエトスも変わっているわけです。おそらく、一人の人間の中で古いエトスが新しいエトスに変わったというよりは、古いエトスを持った人間が滅んで、新しいエトスを持った人間が勢力を広げていったのでしょう。つまり、世代交代を含むアクターの交代があったわけです(田中愛治が有斐閣『政治学』で書いていますが、人間は若い時に価値観を形成し、その後はある程度継続するので、社会における価値観の変化は世代交代によって起こります)。小室博士によれば、日本では商人が滅んで下級武士のエトスを持った人々が新たに産業を興していったということです。まさに「新しい時代を作るのは老人ではない」
 尊皇愛国というのも、大体18歳未満とか20歳未満とかで理解できなければ、手遅れでしょう。歳を取ってからでは、本当の意味で理解することはできないと思います。したがって子供・若者への教育が最も重要であり、家庭や学校や私塾での教育が大切です。まあ、僕たちのように独覚、つまり人に教わったのではなく、自分で情報を得て(ネットや本で)理解するという場合もありますが。


 中世にはお金を借りるのは生活に困っている人でしたが、近代ではお金を借りるのは事業を起こしたり拡大したりするためです。そこでは利子を取ってもいいわけです。もちろん法外な利子はダメです。隣人愛ですから利率は誰に対しても同じです。(まあ利子にせよ定価販売にせよ、実際の社会では利潤最大化のためにできるだけ高くしようとするわけですから、これは市場における競争があって初めてギリギリのラインまで安くなるわけでしょう)
 なぜ利潤・利子がゼロでなくプラスでもいいのか?(原価より高い値段で売っていいのか、利子があっていいのか)。僕が思うに、隣人愛を拡大するためには投資する資本が必要です。利潤・利子は、それによって隣人愛を拡大再生産するものというわけです。しかも、後に経済学は、消費が経済を回すことを証明しました。つまり投資だけでなく消費もまた隣人愛の実践なのです。
 利潤が大きいほど、その仕事は人々から求められているわけです。したがって、より大きな隣人愛の行いは、より大きな利潤によって事後的に証明されるわけです。つまり、利潤が大きければ大きいほど、より大きな隣人愛を行ったことが証明されるわけです。このことを大塚久雄博士が説明しています。ただ、この説明だと利潤の最大化なのか売上(特に数量)の最大化なのか、はっきりしませんので、やはり隣人愛の拡大再生産こそが利潤を意味づけるのではないかと思います。
 資本主義の精神を生み出した倫理が消える時、利潤追求の営みは、単なる拝金主義になってしまいます。隣人愛と関係なしに、金持ちは偉いということになります。

 前期的資本(近代資本主義より前の段階)の特徴は、投機や欺瞞や暴力です。そこには倫理や合理性はありません(倫理に反することをするのではなく、倫理そのものがない)。定価販売もありません。逆に、二宮尊徳翁は倫理や合理性がある投資を行ったのですから、資本主義です。
 近代資本主義の代表的人物は、ベンジャミン・フランクリンロビンソン・クルーソーです。日本人では、まず二宮尊徳翁がフランクリンに相当するのではないかと思いますが、以前尊皇論で論じましたとおり、僕が思うに、もう一人は小野田少尉です(以前「僕たちの尊皇論」で小野田さんは日本のロビンソン・クルーソーだと論じました)。小野田少尉の場合、自分の生命を維持するには完全に合理主義的な態度が必要だったわけですが、同時にそれは軍事行動でもあったため、国家の生存のための合理主義でもありました(これらは小野田さんの性格<兄弟中、一人だけ洒脱な商人だった>や陸軍中野学校二俣分校の教育とも関係があります)。幕末の志士が日本の存続のために合理主義化したのと同じで、結局、survivalを目標としている場合に最も人間は合理主義的であり得るのだと思います。
 プロ倫をもじれば、「小野田寛郎と尊皇の倫理と資本主義の精神」といったところでしょうか。
 なお、ロビンソン・クルーソーの父親は、ロビンソンに、投機ではなく真面目に働かなければならないこと、中産階級が最も幸福であること、中産階級こそが英国を支えているのだということを説いています。それに対し、スウィフトのガリバー旅行記は中産階級を皮肉った作品であるということです。

僕たちの尊皇論・第5回 一君万民の尊皇デモクラシー(小野田少尉のこと)


 合理的な経営を行うには、経営の予測が必要になるため、契約は一義的でなければなりません。そのような明確な内容を持った契約という概念は、資本主義以前にも一神教において見られたわけです。政治についてはマニフェストも、実現できたかどうかが一義的に分かるものとされています。
 これに対し日本では、川島によれば、契約は人間関係に左右され、何か問題が起きれば契約内容よりも話し合いで解決するということです。もちろん、こういったことは個人とか小企業とかのような場合に多くなり、大企業ではほとんど見られないでしょう。また、「武士に二言はない」というように、武士は契約を重んじる面も(庶民よりは)あったと思われます。
 契約が明確性を欠くということは、それに伴う所有権の所在もまた不明確にならざるを得ません。
 日本人は細かく規定された契約書に対しては「融通が利かない」として不安感を持ちます。また、企業と一般人の間の契約で、細かい契約書を提示されても一般人には読めないので、企業が「不平等条約」を締結させるという問題も起こります。法務部を持つ大企業と、個人では、契約への対応の仕方は自ずから異なるので、そのあたり「融通が利く」法制度になっていなければなりません。裁判では、契約の内容だけでなく、契約当事者の事実上の実力関係を考慮に入れなければならないのです。

次回に続きます。





 複式簿記について知りたい人は、実際に日商簿記2級を取得してみるといいと思います。これは極めて簡単な資格です。ただ、参考書が3級取得を前提に書かれている場合もあるので、その場合は3級の参考書から読んでください。ちなみに僕が取得した時は「スッキリわかる日商簿記」というシリーズで勉強しました。2級の参考書は商業と工業に分かれています。3級も含めると3冊読めば受かります。とりあえず3級だけでも勉強すれば、複式簿記を理解できるようになると思います。




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kokoku2700 at 19:00│コメント(0)日本の近代 

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