★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
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特定社会保険労務士のkameokaが気ままに記すブログです。
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         |特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄|
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小職は、社会保険労務士として、2003年ごろから、あっせんによる紛争解決業務を行っている。当初は、あっせんにいる紛争解決業務において、当人に代わって主張等するので、「あっせん代理人」などと呼んでいた。実は、この方が今でもピンとくると思っている。今は調停もあるのでふさわしくはないとは言えるのも事実である。

 

その後に、特定社会保険労務士制度ができて、「あっせん代理人」は死語になり、代わって、「紛争解決手続代理人」となり、紛争解決業務も「紛争解決手続業務」と呼んでいる。小職の肩書も特定社会保険労務士となっているが、紛争解決業務ができる社会保険労務士という意味で、そうなっている。

 

特定社会保険労務士だからといって、特別に社会保険労務士の何かが上がるわけでもないから関係はないが、紛争解決業務ができるかできないかの区別にすぎない。紛争解決は、呼び名で解決を図るわけではないので、どのように呼ぼうが実際は関係しない。確認して書面を受け取る側も特定社会保険労務士の資格確認は行うが、呼び名はさほど意識にないと思われる。

 

あっせんの対象は、労働者対民間企業である。労働者は、在職していても退職していてもかまわない企業は民間でなければならない。ほとんどの業種が対象になる。いくら労働者でも、市や県、国を相手とする紛争や相手も労働者あるいは労働者であった個人を相手にする紛争は、あっせんでは取り扱えない。この場合には、訴訟によることになる。

 

あっせんの醍醐味は、証拠に拠らないことにある。一瞬、「そりゃだめでしょ」と思うかもしれないが、それは、なんでも証拠、証拠となりすぎているかもしれない。証拠によって解決をするわけではないやり方だからこそ、証拠を得にくい、セクハラやパワハラなどの証拠がない問題でもあっせんの土俵に乗せることが可能になる。

 

パワハラに関して

もっとも、労働局で紛争解決をする場合、大企業のパワハラ問題は、2021年6月1日以降、労働局の調停で、2022年4月1h意以降は、中小企業も、同調停で解決を図ることになる。幹となるのは、労働施策総合推進法30条の2事業主の措置義務である。

 

 第30条の2 事業主は、職場において行われる優越的な関係を背景とした言動であって、業務上必要かつ相当な範囲を超えたものによりその雇用する労働者の就業環境が害されることのないよう、当該労働者からの相談に応じ、適切に対応するために必要な体制の整備その他の雇用管理上必要な措置を講じなければならない。

 

これがその条文であるが、すべてが理解できなくてもこのような法律があることを知っておいてほしい。下線部分が3つあるが、それがパワハラの定義づけに直結するものとなっている。条文自体は、事業主の措置義務を規定したものである。

 

措置義務は、パワハラが起きないように事前に防止対策をする義務と起きた後の事後対応の義務が柱となる。まだまだ労使ともに浸透してはいない。知識不足状態になる。

 

話を戻したいと思う。あっせんは、極論を言えば、証拠は必要ない。ただし、あっせん委員や担当者も何もなければ、いかなる行為があったは知る由もない。パワハラの行為記録、解雇の記録、退職勧奨の言動がわかる記録は、あったほうがいい

 

あっせんは、事実認定や法的判断もしない。もちろん、心証として、あるいは、あっせん員の頭のなかでは、違法な行為と思うものも少なからずあるし、違法かどうかはさておき、問題がある言動だと受け止められるものもあるはずである。

 

あっせんによる紛争解決がユニークなのは、労使(つまり、労働者と企業)双方の歩み寄りによって、解決を図ろうとするところになる。喧嘩両成敗に酷似していると言える。当事者同士では、言いたいことや伝えたいことをそれぞれが言いたがる。

 

それぞれの都合、立場を優先した主張になる。そこで第三者が入って、それも行政機関という公に委ねて解決の意図を探り、紛争を終了に導くのがあっせんになる。ちなみに、あっせんでも、他の解決種だでも、労使双方が満足する解決などありえないと知ることが重要である。この点が理解できないと、あっせんも裁判も何もできなくなる。

 

したがって、裁判の流儀を意識しなくてもよいし、証拠に縛られなくてよいし、損害賠償の金額も必ずしも裁判例に右習いしなくてもよい。この辺のところは、あっせんの別な機会の話で触れたいと思う。

 

今回は、あっせんの基本についてふれてみました。

 

参考になりましたら幸いです。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

パナソニックのグループ企業で、従業員が自殺した。自殺したのは男性でまだ43歳の働き盛りだった。自殺の原因はうつ病発症であるが、問題は、うつ病の要因は何かである。さっそく、記事を引用しておく。

 

電機大手パナソニックで働いていた富山県の男性(当時43)が2019年に自殺した。同社は、過大な仕事量や「持ち帰り残業」を含む長時間労働を正さずにいた結果、男性がうつ病を発症して死に至ったとして遺族に謝罪し、解決金を支払うことなどで6日、和解が成立した。

 

就寝は「4時、5時」子煩悩な夫に何が

労働基準監督署は自宅に持ち帰った仕事を会社の指示と認めなかったが、同社は独自調査で会社の責任を認めた。企業が裁判を経ず、持ち帰り残業を労働時間と認めるのは異例という。

遺族や代理人の松丸正弁護士(大阪弁護士会)によると、亡くなった男性は死亡当時、パナソニックの半導体事業を担うインダストリアルソリューションズ社の富山工場(富山県砺波市)で技術部の課長代理を務めていた。

男性は03年から工場で派遣社員として勤務し、09年に正社員になった。19年4月に製造部から技術部に異動し、係長から課長代理に昇格。仕事内容が大きく変わって業務量も増え、職場では仕事を終わらせることができず、業務用パソコンを自宅に持ち帰って仕事をしていたという。男性は19年10月、自宅で死亡した。

砺波労基署(砺波市)は21年3月、遺族側の請求に基づき、配置転換や仕事内容の変化・増大により男性が強い精神的負荷を受け、うつ病を発症したとして労災を認定。一方、持ち帰り残業について「会社からの業務命令によるものではなく、黙示の指示があったとする実態も認められない」などと指摘し、労働時間に該当しないと判断した。

 

記事の事実によれば、男性は派遣社員から工場で働き始めたとのことだ。このころは、仕事の責任も高くはなかったであろう。男性は、6年後の2009年に正社員になった。正社員という雇用形態になると、少し、緊張度が高まるだろう。これは、一般的な傾向ではあるが、通常に考えると男性もおそらくそうであっただろうと思える。

 

変化があるとすれば、技術部に異動になり、課長代理に昇格してからだ。企業において課長代理という役職を背負う精神は、そう簡単ではない。ましてや、誰もが知っているパナソニックグループにおける課長代理というプレッシャーも少なからず負荷されていたと推察する。

 

事実、「仕事内容が大きく変わった」、「業務量が増えた」とあるから、課長代理としての大変さがうかがえる。ここにある、この2つの事実は、精神疾患の労災認定基準にもある。ただし、労災認定は、精神的負荷の強度が「強」にならなければならないから、こうした事実があるだけでは弱い。

 

それに、本人だけが、精神的負荷が「強」だと感じただけでは、基準は突破できない。客観的に通常の労働者がそう感じるというレベルが必要だ。言い方を変えれば、平均的な従業員が「強」の負荷だと感じるかということが評価対象になる。

 

管轄した労働基準監督署では、ここまでの出来事は、うつ病発症による自殺要因になったとして認められた。よくよく、きちんと押さえておく必要があるが、労災認定の評価対象となる出来事は、発症前の出来事だ。ここは重要なポイントになる。

 

たとえば、つまずいて骨折した際には、骨折までの行動が原因となった出来事であって、骨折した後の出来事は骨折の原因ではない。精神疾患も同様に考える必要がある。

 

話を戻すと、結果は、労災が認定されたので良かったのだが、遺族からすれば、自宅においても、仕事に追われていた事実を知ってほしいというのが本音だろう。労働基準監督署は、自宅の持ち帰り残業を、指揮命令下の時間と認めなかったことは悔しさがあっただろう。

 

自宅の業務時間が労働時間ではないとされたことだ。もし、労働時間だけで審査をされるケースであったのであれば、労災認定の裁判になっていただろう。

 

自宅での業務実施が、従業員の任意の行為なのか、会社の指揮命令下の行為なのかの判断は、非常に困難だ。まず、会社からは業務行為や実施が見えない。従業員も極めて証拠に残しにくいし、一般的に証拠はないであろう。テレワークなどもこれに同じ状況になる部分が起こり得るところだ。

 

従業員や家族からすれば、「好きで家に持ち帰ったわけではない。仕事が終わらないからだ」というのが事実だろう。労働基準監督署のような行政機関は、業務命令や指示を示す文書、残業命令簿などでもない限り、なかなか認定しにくいのではないか。最大の理由は、一般的には会社が全面否定するからだ。

 

もちろん、会社は、いちいち、業務命令書など交付などしない。こうした掴めない事実を労働基準監督署は評価しない。かといって会社が認めるというのは、まずありえないし、ハードルが高い。

 

今回の事案が非常に貴重なのは、労働基準監督署が否定した、自宅での持ち帰り残業を会社が最大級に考慮したことだ。「持ち帰り残業」を含む長時間労働を正さずにいたことを重く見たのだ。うつ病を発症して死に至ったとして遺族に謝罪し、解決金を支払ったのは、とても珍しい。

 

本来は、法律の判断や裁判所の判断とは関係なしに、企業がこのような配慮した対応をすることが、従業員を人間として見ていたのだと思える要素になる。こうしたことは、裁判外紛争解決の手段である労働局や労働委員会のあっせんにも言える。従業員の人生があって労働を提供していることの重要性である。ましてや自殺となれば、無に扱うことは酷である。

 

亡くなった命は帰ってこないが、今回のパナソニックグループの対応には、拍手を送りたい。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

代表取締役が会社貸与のスマートフォンを取り上げられたニュースである。昨今の労働問題は、従前にはみられない、そんなことがあるのかというものが増えている。加害行為者の行為が明らかに常識を超えた範疇になっている。

 

医薬品の開発業務などを請け負う(株)インテリム(東京都台東区)で働いていた労働者が、社用のスマートフォンを代表取締役から取り上げられたことなどを不服とした裁判で、東京地方裁判所はスマホ取上げを不法行為と判断し、慰謝料30万円の支払いを命じた。労働者がメールにすぐ返信しなかったのに立腹して行った扱いで、合理的な目的・必要性のない違法なものと評価している。このほかにも2度の賃金減額や配転などを違法とし、一連の不法行為により退職を余儀なくされたとして、慰謝料計220万円の支払いなどを命令した。

 

今回の記事の中には、賃金減額や配置転換もあるが、詳細がわからないので、スマホ取り上げの話題のみ触れたいと思う。

 

記事によれば、スマホを取り上げた原因は、労働者がすぐにメールに返信しなかったからというのだ。まるで子供のようなレベルの原因に驚く。相応の企業のはずであるが、メールをすぐに返さないからとスマホを取り上げる事態になることが、とても信じられない。

 

身体だけ大人になって精神は子供のままという表現をしたくなるような事件だ。そんなことから、アメリカのダン・カイリー博士が提唱した「体は大人、心は子供」という誰もが持っているパーソナリティ障害の一種に、ピーターパン症候群(ピーターパン・シンドローム)というのがあることを思い出した。

 

小職は、その分野は専門ではないため、見聞きしたレベルを記載するに留めておくが、事件の出来事が非常に稚拙としかいいようがない。本当に、心の障害であったならば、まだ、別な視点からの検討の余地を残すことになるが、医薬品開発の企業の経営をしていた実態からは、心の障害ではなかったと考えてよいだろう。

 

労働問題である以上、どうすればこのような事件が生じなかったのか、生じた後はどう対応すればよかったかなどは考えるのだが、原因があまりにも稚拙すぎる。完全に経営者の感情で左右される出来事に、論理的な理屈など意味をなさないものだろうと思ってしまう。

 

メールの内容までは記事からがわからないが、たとえ、緊急メールであったとしても、代表取締役がメールを送信しても、部下はすぐにそれを確認できる状況にあるとは限らない。たとえ、現代のように、スマートフォンありきとしても、何割かは、そのことも予想してメールは取り扱うことが必要である。

 

記事からはわからないが、すぐにメールを返信しなかった場合の「すぐに」が知りたいところでもある。返信するまでどのくらい空いたのかはポイントの一つである。あまり遅ければ、部下のメール対応行為に問題がなかったとは言えないかもしれない。

 

スマートフォンは会社が貸与しているもので、いうなれば、所有は会社にあることから、感情的に取り上げる行為が安易に行われてしまったのだろう。労働者個人の所有のものであれば、会社は取り上げることはできない。

 

いずれにしても、会社貸与のスマートフォンであっても、スマートフォンを取り上げる行為自体に、業務上の必要性が見いだせないのは、致し方ない。多くの専門家がみれば、そう受け止めるのではないだろうか。ジャンル的には、パワハラの主張がされてもおかしくないものである。

 

すぐにメールを返信してこなかったからと、感情にまかせて、スマートフォンを取り上げる行為に慰謝料30万円。金額自体の大小ではなく、行った行為の代償としては、あまりにも痛い勉強代となった。

 

ニュースになった企業には気の毒であるが、せこせこブログを書いている小職のようなものには、とても興味の沸く事件である。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

 

 

 

 

 

あの大手企業、三菱電機におけるパワハラ被害の状況がニュースで流れた。ユニオンが11月10日記者会見をおこなったため明るみになっていたものである。

 

さっそく記事を引用しておく。

 

 

写真・図版

三菱電機グループ内で、2020年度にパワハラ被害相談が330件あったことがわかった。労働組合の「電機・情報ユニオン」が10日、記者会見のなかで明らかにした。朝日新聞が入手した社内資料によると、うち8件でパワハラが認定され、加害側の社員が懲戒処分になったという。

三菱電機では、19年に20代の男性社員が自殺し、21年に労災認定されている。上司によるパワハラが原因だったとみられている。

社内のハラスメント防止研修で使われたという資料によると、パワハラ相談窓口に寄せられたのは三菱電機で111件、関係会社で219件。三菱電機の人事部門がうち238件を調べ、21年3月末時点で214件は解決とした。

懲戒処分になったものには、上司が部下を1時間以上立たせたまま大声で威圧するように説教したケースがあった。「この数カ月、お前のアウトプットはゼロだ」「7時間もかかったのか。自分なら15分で終わる。お前はバイトか」といった発言によるパワハラもあったという。

自殺した社員の労災認定が相次ぎ、三菱電機は20年からハラスメント研修の対象を全社員に広げた。三菱電機広報部は研修で資料は配布しているとしたうえで、内容への質問については「社外秘のため回答は差し控える」としている。

 

大企業の場合、いまだ労働組合が活動している状況なので、企業と対峙する姿勢の労働組合から実態が公になるリスクはつきものだ。しかし、その動きは止められない。企業別組合がない企業でも、労働者が外部組合に加入して、その活動から明るみになるリスクもある。

 

記事で公開されているのは、2020年度(2021年3月末まで)のパワハラ相談件数などである。330件と聞けば、「そりゃ、多い」「すごい」というのが印象だろう。

 

ただ、冷静に見なければいけなのは、大手企業の場合は、グループとして総まとめで数字をみるため、親会社だけの数字ではなく、子会社も含まれている数字という事実だ。三菱電機で111件、関係会社で219件と内訳が記載されているので明らかである。それに、子会社の数、従業員数も中小企業とは比較にならない。

 

こうして報道されることは企業としては、あってはいけないことで、恥=汚点となった。就職を探している学生からも印象が悪い方に働く要素になる。

 

しかし、三菱電機を援護するわけはないが、企業イメージが良くなる要素もある。330件とカウントしているくらい、相談を受け付けて活動している企業であるという証になっている。8件は企業としてパワハラを認定し、加害行為者は懲戒処分しているとのことだから、標準的なパワハラの事後対応は行っている企業との印象にはなる。

 

通常は、パワハラが世の中で多発している状況でも、相談窓口がない、相談しても何もしてくれないなどが、まだまだ多い。三菱電機グループは「事後対応を行っている企業です」というアピールにもなったわけである。

 

ただ、どうだろう。330件もあって、パワハラ認定が8件という。実態が記事通りだとすれば、三菱電機グループにあっても、企業としては、パワハラとは受け止めない傾向なのだとの印象にもなる。パワハラをパワハラじゃないとしたのか、本当にパワハラにならないという行為だったのか、真実は当事者にしかわからない。世間には、シンプルな数字で把握し、インパクトも強烈であるので企業としては損な数字かもしれない。

 

自殺者も出ているとのことだから、社内では相当な対策を行っているのだろうことは予想される。事実、パワハラ研修を全社員に拡大して行っているという。一般的に、社内でペーパーの案内はしても研修は幹部クラスだけとうのが多い。

 

記事では記載がないが、中には精神疾患を発症して、労働基準監督署に労災申請している事例もあると推察する。自殺の例は、企業対応はともかく、遺族が、声を上げ、損害賠償、労災などすべての動きをするはずである。

 

懲戒処分のパワハラの1例が記事に書かれているが、このパワハラは酷い例である。このような態度になってしまうのはなぜか。精神疾患を専門とする医師の書物ではさかんに取り上げられているテーマだ。

 

小職はパワハラ関連の相談をよく受けるが、「今、ここ、私」の意識がパワハラ増加の要因の一つだと感じることが多い。そこに他人の人格権の意識は薄い。つまり、「今さえ何もなければ、ここだけ無事ならば、自分だけ、自分の立場だけ良ければ」の意識で仕事をし動いている。周囲や相手への意識はない。パワハラにおおいて、企業の保身の姿勢を目にすることが多いのも、こうした意識の表れのように思える。

 

今回の記事は、パワハラについて、人について、考える機会を与えてくれたものだった。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

IT企業である「BluAge」が、内々定47人のうち21人の大量取り消しを行ったとJ-CASTニュースで公になっていた。就労前に働けく予定がなくなったという事案である。この会社は、部屋探しアプリ「CANARY(カナリー)」の運営などを手がけている企業とのことである。

 

今回の企業は、内々定の対象者が大勢であったこと、内々定を受けた応募者の約半数が採用されなかったことで話題となった。

 

少々ボリュームがあるが、まず、記事を抜粋して掲載する。

 

内々定者と見られる人たちがツイッター上などで抗議しており、騒ぎになった。それによると、6月に4回の面接を経て内々定をもらい、不動産業務に備えて宅地建物取引士の勉強を始めたが、内定解禁日の10月1日直前に座談会・グループディスカッションを行うと通知が来た。会社に行くと面接が行われたといい、翌2日には、座談会の内容と会社の考える基準が異なるとして内々定を取り消されたとしている。このユーザーは、就職活動も終える時期に取り消され、会社がなぜこのような対応をするのか意味が分からないと訴えていた。 その後、6、7日ごろにかけて、自分も内々定を取り消されたとツイッターで投稿する人が相次いだ。それらの情報によると、同社では、50人の採用を予定し、約50人に内々定が出たが、10月ごろになって約半数が取り消されたとのことだった。 こうした投稿が11月1日になって、ツイッターやまとめサイトなどで紹介され、疑問や批判が相次ぐ騒ぎになっていた。

 BluAgeの採用活動については、佐々木拓輝CEOが自らのツイッターで9月29日、「12億円の資金調達を実施いたしました! ブルーエイジでは、全方位採用中です!」などと投稿していた。

 

J-CASTニュースが取材したところによると、新卒応募者の採用選考プロセスでは、複数回の個別面談などを経て、4月から9月までの間に順次、内々定を出し、計47人になった。そして、採用内定に向けて、最終の採用選考プロセスを9月に実施し、その最終評価に基づき、10月2日に26人を採用内定とした。

 

「BluAge」は、「弊社は、内々定後も採用選考プロセスを継続している点や、最終の採用選考プロセスの評価によっては内々定を取り消す可能性がある点を十分にご説明しておりませんでした。この点については、内々定者の方々への配慮を大きく欠き、その結果、内々定者の方々へ多大なる混乱とご迷惑をお掛けするに至ったものであり、弊社側に問題があったものと真摯に反省しております。誠に申し訳ございませんでした」とし、「新卒採用2年目の弊社に採用活動・運営における業務経験が浅く、『内々定』という社会通念への認識も不足しており、更には選考プロセスに関して就職活動を行う学生の皆様への必要十分な説明も欠いていたことが挙げられます。また経営陣においても、上記運用への統率が不十分であったという運営体制の不備があったものと考えております」

と分析しているとのことである。

(※ 下線は亀岡が記す)

 

さて、全体を読んでいただくと、様々な言い分がでてくるかと思う。企業側か労働者側かでは真逆の意見になるのは当然かもしれない。幸い記事がかなり詳細な事実を掲載してくれているので、ブログ特性に合わせて急所となる個所は取り上げてみたい。

 

1 この「内々定の取消」の内々定をどうとらえるべきか

 この記事から、採用決定までのプロセスにあたる事実をみていく。応募者は、6月から4回の面接を受けていた、業務に備えて宅地建物取引士の勉強を始めた、内定解禁日の10月1日直前に会社は座談会・グループディスカッションを行うと通知したが、実際は面接だったとのことだ。

 

一方、採用決定までのプロセスに関する企業説明では、4月から9月までの間に順次、内々定を出し、計47人になり、最終の採用選考プロセスを9月に実施し、10月2日に26人を採用内定としたとのことである。

 

応募者は、4回の面接を経て採用内々定を受けたともなれば、これでこの会社で働けると受け止めていたかもしれない。業務に備えて宅建の勉強を始めていたというのだから、そうなのだろう。

 

宅建の勉強は、会社が指示や命令を出していたのでなければ、入社後の仕事のためにと自主的に始めたことになる。J-CASTの取材からは、企業の説明通りだとすれば、9月が最終選考プロセスで、それまでは順次内々定を出しているにすぎず、正式に採用決定していない。採用選考の行為を続けていることは事実である。また、正式採用や内定をうかがわせる発言もしていないようだ。

 

このことからは、応募者の受け止め方も無理からぬことと言えるが、企業は、「内定」をまだ出していないことは事実で、最終的に入社してもらい働いてもらう人と解釈できるような意味のことも言っていないようである。

 

また、一般に、内々定や内定で登場する「入社誓約書」や「誓約書」などの書類を取り交わした事実も応募者から主張されていない。もし、行われていれば、誓約書等のやりとりを主張しないことは考えにくいので、誓約書等はまだやり取りしていなかったと考えるのが自然だろう。10月1日の内定解禁日の直前に面接を行っていることも、そのことを物語る事実になり得る。

 

これらからは、今回の内々定は、雇用契約が成立している段階に至っていない内々定と考えられる。雇用契約が成立していないというのは、働いてもらうと約束していないものなので、そもそも取り消すという概念の領域にならないと考えられる。通常、内定と言えば、採用されたことを意味することが一般的であるが、それとは異なると考えられる。

 

雇用を約束していない段階なので、内々定を出している応募者を面接等で吟味し、正式採用として選択しなかったということにすぎないことになる。もし、今回の内々定が雇用契約が成立していると評価できる場合には、その内々定取消には、解雇権濫用法理が適用され、内々定取消の合理性・相当性が判断されるところである。

 

しかし、雇用契約が成立していると評価されない場合には(今回はその可能性が高いと考えられるが)、そもそも、解雇権濫用法理の適用の対象とはならない。この点で応募者らが、内々定取消が不当だと訴えても苦労と消費した時間だけが残ることになる可能性がある。

 

2 内定解禁日の直前の面接と最終決定をどうみるか

 1で見た通り、今回の内々定は、雇用契約が成立している内々定とは評価しにくい。ならば、内定され働けるものと期待を持たされて、それが裏切られたとの応募者の主張が認められる点はないだろうか。

 

応募者を法的に保護するに値するほどに、働けるとの期待が高まっていたかという点である。これが認められる場合には、期待権が侵害されたとの評価になる。

 

内々定の後に、この会社が行っているのは採用活動としての最終面接である。通知では、座談会・グループディスカッションを行うとなっていたことは不適切であり問題であるが、仮に、座談会等を行ったとしても、そのことで内定であるとの期待まで高まることであったとの評価は難しいと考えられる。期待権侵害を受けたとまでは言えないであろう。

 

では、6月から4回もの面接を経て内々定を受けていることは評価できないか。これも面接の回数が多く、それをクリアしていることで、内定=採用の期待が高まっていたとするのは、容易ではないと考えられる。企業によっては、もっと、面接が多い場合もあり得るため、面接の回数では評価され得ない。

 

内定=採用の期待があったとの評価につながるためには、たとえば、内定式の日時が決まっていて、そのことが通知されていたとか、10月1日の内定解禁日になったら、内定通知書が郵送されると伝えられていたとかなど、内定に関する何かが案内されている段階が必要であろう。もしくは、内々定でも入社後の条件や研修などについて記載された誓約書を交わした事実でもいい。

 

たとえば、内定通知書の交付日程まで決まってからの直前での内々定取消の場合で、期待権侵害があったとして損害賠償が認められた例もある(コーセーアールイー第1事件平23.2.16労判1023号82頁、コーセーアールイー第2事件平23.3.10労判1020号82頁)。

 

もっとも、コーセーアールイー事件における内々定も、内定とは異なる性質とされ、内々定は、他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないと評価されている。解約権留保付契約の成立は否定されている。

 

今回の事件でも、会社の採用活動の範囲であるとの評価になると考えられる。この点からも、応募者らの、「内々定取消」が不当なものだ、合理性がないと評価される可能性は低いと思われる。

 

もし、内定=採用の期待権があったと評価されれば、雇用契約の成立が認められなくても、期待権侵害の損害賠償が認められる可能性が出てくるところである。ただ、今回の事案で認められるのは難しいであろう。

 

ただ、内々定だから、すべて期待権侵害は認められないというわけではない。事案ごとに実態が異なるため、期待が高まっていたかどうかを検討すべきではある。

 

3 会社の対応の姿勢と問題点

 

会社は、「今後、最大限の誠意をもって個別にご対応させていただく」「お詫びのご連絡を開始いたしております」 「弊社の採用活動そのものを見直す」「人事コンサルタント等の有識者のご意見も取り入れながら、採用選考プロセスの再構築を行います」「採用担当者等への再教育を徹底する」などと述べている。

 

姿勢としては正解であるが、応募者からすれば、今回の内々定取消が変わるものではない。ここは譲歩できないと受け止めるしかない。「最大限の誠意をもって個別にご対応」は、謝罪等の連絡をするという意味としか受け止められないかもしれない。

 

応募者の多くの者は就職活動も停止している状況であろうから、内々定取消のあと自分たちはどうなるのか、どうしたらよいのかという矛先になるのだろう。

 

可能であれば、会社が、他社の就職先を紹介するなどはあり得なくもないが、内々定の段階で採用しない結論を出した応募者に、そこまでのフォローはしないだろうし、できないと考えられる。応募者には厳しいものになり、理不尽さは払しょくできないものとなる。

 

そもそも、この会社の何がいけなかったか。それは、内々定とはいえ、半数近くを採用しなかった点に見える。6月から順次内々定を出していたため、今回のように47名の内々定者になったのだとしても、内々定、内定の人数は、採用計画をしっかり立てて、実施すべきで、これをきちんと実施していなかったと推察される。

 

50人採用予定で47人に内々定を出して、半数近くが採用にいたっていなかったのであるから、突如の経営難でもないない限りは、計画が杜撰(ずさん)だったと評価されても致し方ないかもしれない。計画をきちんとやっていなかったのだとしたら、ここは大きな問題になる。

 

採用計画は、財務的には、人件費総枠から大きな狂いが出ないようにシミュレーションしておく必要がある。これが、応募者に対する対応も相違なくできる要素になり得るであろう。

 

もう一つ、内々定の意味を十分に学習し、内々定者には「正式に採用が決定したわけではない」旨を伝えるべきだった。最近は、説明の義務がないことでも説明をしなければ、誤解になり、様々な受け止め方になって、問題になりやすい。特に、内々定と内定は応募者にはわかりにくい。このことを理解していなかったことがこの会社の労務リスクであり問題であった。

 

長くなりました。参考になりましたら幸いです。

 

【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】