IT企業である「BluAge」が、内々定47人のうち21人の大量取り消しを行ったとJ-CASTニュースで公になっていた。就労前に働けく予定がなくなったという事案である。この会社は、部屋探しアプリ「CANARY(カナリー)」の運営などを手がけている企業とのことである。
今回の企業は、内々定の対象者が大勢であったこと、内々定を受けた応募者の約半数が採用されなかったことで話題となった。
少々ボリュームがあるが、まず、記事を抜粋して掲載する。
内々定者と見られる人たちがツイッター上などで抗議しており、騒ぎになった。それによると、6月に4回の面接を経て内々定をもらい、不動産業務に備えて宅地建物取引士の勉強を始めたが、内定解禁日の10月1日直前に座談会・グループディスカッションを行うと通知が来た。会社に行くと面接が行われたといい、翌2日には、座談会の内容と会社の考える基準が異なるとして内々定を取り消されたとしている。このユーザーは、就職活動も終える時期に取り消され、会社がなぜこのような対応をするのか意味が分からないと訴えていた。 その後、6、7日ごろにかけて、自分も内々定を取り消されたとツイッターで投稿する人が相次いだ。それらの情報によると、同社では、50人の採用を予定し、約50人に内々定が出たが、10月ごろになって約半数が取り消されたとのことだった。 こうした投稿が11月1日になって、ツイッターやまとめサイトなどで紹介され、疑問や批判が相次ぐ騒ぎになっていた。
BluAgeの採用活動については、佐々木拓輝CEOが自らのツイッターで9月29日、「12億円の資金調達を実施いたしました! ブルーエイジでは、全方位採用中です!」などと投稿していた。
J-CASTニュースが取材したところによると、新卒応募者の採用選考プロセスでは、複数回の個別面談などを経て、4月から9月までの間に順次、内々定を出し、計47人になった。そして、採用内定に向けて、最終の採用選考プロセスを9月に実施し、その最終評価に基づき、10月2日に26人を採用内定とした。
「BluAge」は、「弊社は、内々定後も採用選考プロセスを継続している点や、最終の採用選考プロセスの評価によっては内々定を取り消す可能性がある点を十分にご説明しておりませんでした。この点については、内々定者の方々への配慮を大きく欠き、その結果、内々定者の方々へ多大なる混乱とご迷惑をお掛けするに至ったものであり、弊社側に問題があったものと真摯に反省しております。誠に申し訳ございませんでした」とし、「新卒採用2年目の弊社に採用活動・運営における業務経験が浅く、『内々定』という社会通念への認識も不足しており、更には選考プロセスに関して就職活動を行う学生の皆様への必要十分な説明も欠いていたことが挙げられます。また経営陣においても、上記運用への統率が不十分であったという運営体制の不備があったものと考えております」
と分析しているとのことである。
(※ 下線は亀岡が記す)
さて、全体を読んでいただくと、様々な言い分がでてくるかと思う。企業側か労働者側かでは真逆の意見になるのは当然かもしれない。幸い記事がかなり詳細な事実を掲載してくれているので、ブログ特性に合わせて急所となる個所は取り上げてみたい。
1 この「内々定の取消」の内々定をどうとらえるべきか
この記事から、採用決定までのプロセスにあたる事実をみていく。応募者は、6月から4回の面接を受けていた、業務に備えて宅地建物取引士の勉強を始めた、内定解禁日の10月1日直前に会社は座談会・グループディスカッションを行うと通知したが、実際は面接だったとのことだ。
一方、採用決定までのプロセスに関する企業説明では、4月から9月までの間に順次、内々定を出し、計47人になり、最終の採用選考プロセスを9月に実施し、10月2日に26人を採用内定としたとのことである。
応募者は、4回の面接を経て採用内々定を受けたともなれば、これでこの会社で働けると受け止めていたかもしれない。業務に備えて宅建の勉強を始めていたというのだから、そうなのだろう。
宅建の勉強は、会社が指示や命令を出していたのでなければ、入社後の仕事のためにと自主的に始めたことになる。J-CASTの取材からは、企業の説明通りだとすれば、9月が最終選考プロセスで、それまでは順次内々定を出しているにすぎず、正式に採用決定していない。採用選考の行為を続けていることは事実である。また、正式採用や内定をうかがわせる発言もしていないようだ。
このことからは、応募者の受け止め方も無理からぬことと言えるが、企業は、「内定」をまだ出していないことは事実で、最終的に入社してもらい働いてもらう人と解釈できるような意味のことも言っていないようである。
また、一般に、内々定や内定で登場する「入社誓約書」や「誓約書」などの書類を取り交わした事実も応募者から主張されていない。もし、行われていれば、誓約書等のやりとりを主張しないことは考えにくいので、誓約書等はまだやり取りしていなかったと考えるのが自然だろう。10月1日の内定解禁日の直前に面接を行っていることも、そのことを物語る事実になり得る。
これらからは、今回の内々定は、雇用契約が成立している段階に至っていない内々定と考えられる。雇用契約が成立していないというのは、働いてもらうと約束していないものなので、そもそも取り消すという概念の領域にならないと考えられる。通常、内定と言えば、採用されたことを意味することが一般的であるが、それとは異なると考えられる。
雇用を約束していない段階なので、内々定を出している応募者を面接等で吟味し、正式採用として選択しなかったということにすぎないことになる。もし、今回の内々定が雇用契約が成立していると評価できる場合には、その内々定取消には、解雇権濫用法理が適用され、内々定取消の合理性・相当性が判断されるところである。
しかし、雇用契約が成立していると評価されない場合には(今回はその可能性が高いと考えられるが)、そもそも、解雇権濫用法理の適用の対象とはならない。この点で応募者らが、内々定取消が不当だと訴えても苦労と消費した時間だけが残ることになる可能性がある。
2 内定解禁日の直前の面接と最終決定をどうみるか
1で見た通り、今回の内々定は、雇用契約が成立している内々定とは評価しにくい。ならば、内定され働けるものと期待を持たされて、それが裏切られたとの応募者の主張が認められる点はないだろうか。
応募者を法的に保護するに値するほどに、働けるとの期待が高まっていたかという点である。これが認められる場合には、期待権が侵害されたとの評価になる。
内々定の後に、この会社が行っているのは採用活動としての最終面接である。通知では、座談会・グループディスカッションを行うとなっていたことは不適切であり問題であるが、仮に、座談会等を行ったとしても、そのことで内定であるとの期待まで高まることであったとの評価は難しいと考えられる。期待権侵害を受けたとまでは言えないであろう。
では、6月から4回もの面接を経て内々定を受けていることは評価できないか。これも面接の回数が多く、それをクリアしていることで、内定=採用の期待が高まっていたとするのは、容易ではないと考えられる。企業によっては、もっと、面接が多い場合もあり得るため、面接の回数では評価され得ない。
内定=採用の期待があったとの評価につながるためには、たとえば、内定式の日時が決まっていて、そのことが通知されていたとか、10月1日の内定解禁日になったら、内定通知書が郵送されると伝えられていたとかなど、内定に関する何かが案内されている段階が必要であろう。もしくは、内々定でも入社後の条件や研修などについて記載された誓約書を交わした事実でもいい。
たとえば、内定通知書の交付日程まで決まってからの直前での内々定取消の場合で、期待権侵害があったとして損害賠償が認められた例もある(コーセーアールイー第1事件平23.2.16労判1023号82頁、コーセーアールイー第2事件平23.3.10労判1020号82頁)。
もっとも、コーセーアールイー事件における内々定も、内定とは異なる性質とされ、内々定は、他の企業に流れることを防ごうとする事実上の活動の域を出るものではないと評価されている。解約権留保付契約の成立は否定されている。
今回の事件でも、会社の採用活動の範囲であるとの評価になると考えられる。この点からも、応募者らの、「内々定取消」が不当なものだ、合理性がないと評価される可能性は低いと思われる。
もし、内定=採用の期待権があったと評価されれば、雇用契約の成立が認められなくても、期待権侵害の損害賠償が認められる可能性が出てくるところである。ただ、今回の事案で認められるのは難しいであろう。
ただ、内々定だから、すべて期待権侵害は認められないというわけではない。事案ごとに実態が異なるため、期待が高まっていたかどうかを検討すべきではある。
3 会社の対応の姿勢と問題点
会社は、「今後、最大限の誠意をもって個別にご対応させていただく」「お詫びのご連絡を開始いたしております」 「弊社の採用活動そのものを見直す」「人事コンサルタント等の有識者のご意見も取り入れながら、採用選考プロセスの再構築を行います」「採用担当者等への再教育を徹底する」などと述べている。
姿勢としては正解であるが、応募者からすれば、今回の内々定取消が変わるものではない。ここは譲歩できないと受け止めるしかない。「最大限の誠意をもって個別にご対応」は、謝罪等の連絡をするという意味としか受け止められないかもしれない。
応募者の多くの者は就職活動も停止している状況であろうから、内々定取消のあと自分たちはどうなるのか、どうしたらよいのかという矛先になるのだろう。
可能であれば、会社が、他社の就職先を紹介するなどはあり得なくもないが、内々定の段階で採用しない結論を出した応募者に、そこまでのフォローはしないだろうし、できないと考えられる。応募者には厳しいものになり、理不尽さは払しょくできないものとなる。
そもそも、この会社の何がいけなかったか。それは、内々定とはいえ、半数近くを採用しなかった点に見える。6月から順次内々定を出していたため、今回のように47名の内々定者になったのだとしても、内々定、内定の人数は、採用計画をしっかり立てて、実施すべきで、これをきちんと実施していなかったと推察される。
50人採用予定で47人に内々定を出して、半数近くが採用にいたっていなかったのであるから、突如の経営難でもないない限りは、計画が杜撰(ずさん)だったと評価されても致し方ないかもしれない。計画をきちんとやっていなかったのだとしたら、ここは大きな問題になる。
採用計画は、財務的には、人件費総枠から大きな狂いが出ないようにシミュレーションしておく必要がある。これが、応募者に対する対応も相違なくできる要素になり得るであろう。
もう一つ、内々定の意味を十分に学習し、内々定者には「正式に採用が決定したわけではない」旨を伝えるべきだった。最近は、説明の義務がないことでも説明をしなければ、誤解になり、様々な受け止め方になって、問題になりやすい。特に、内々定と内定は応募者にはわかりにくい。このことを理解していなかったことがこの会社の労務リスクであり問題であった。
長くなりました。参考になりましたら幸いです。
【特定社会保険労務士 亀岡 亜己雄】