上司のパワハラ行為が否定される場合 | ★社労士kameokaの労務の視角

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ー特定社会保険労務士|亀岡亜己雄のブログー
https://ameblo.jp/laborproblem/

今回、取り上げる事例は、労働者がパワハラと主張して声をあげたものの、司法判断において、否定されたものです。いかなる要素が欠如あるいは加味されると、パワハラが否定あるいは肯定されるのかについて検討するのに参考になるかと思います。

 

 原告Xは、平成19年7月1日に被告Yと雇用契約を結び、サービス部門の車検、点検、自動車の修理業務に携わり、平成23年2月10日に退職しています。

 

Xからは、上司によるパワハラ行為により退職を余儀なくされたことが主張されています。本件の争点は、Xの上司がパワハラ行為を行ったかの事実とそうであった場合のY社の責任です。

 

Xの主張する上司Dのパワハラ行為を整理してみます。

 

➀Dは、後輩が仕事上のミスをすると、自分の指示の曖昧さ、不的確さにも原因があるのに、Xに責任転嫁し、お前の能力が低い、段取りが悪いなどと罵って、人格への非難を加えた。

 

➁Dのパワハラによって、入社間もないEやKが退職した。Dは両名の退職はXのせいであるように責任転嫁した。

 

➂Dは、Xがリフトに自動車を入れて作業をしていたところに強引に割り込み、Xの作業を後回しにさせ、客を長時間待たせた。Dはその振る舞いを棚に上げ、「お前の作業が遅いから客に文句言われたやないか」などと叱責した。

 

➃XはY代表者に対し、Dの行為を止めさせるべく善処を求めたが、代表者は具体的な対応をしなかった。

 

➄XはDから徹夜での作業を命じられ、翌日も通常勤務を命じられたが、「お前の仕事が遅いから・・俺がせにゃあかんようになった」と罵られ、謝罪を要求された。

 

➅新車の納車作業に関して引継ぎノートに書いたが、Dは、「書いてあることが分からんから何もやってへん」などと言いがかりをつけられた。

 

➆➅のDの対応について苦情を述べたが、代表者は「協調性がない。上司の言葉は神様の言葉に等しいから素直に聞き入れろ」とXを非難し、Dの対応を我慢するように要求した上、「頭を冷やせ」と強制的に2日間休業させた。

 

その他にも、作業中に怒鳴られる、ブレーキパッドを投げつけられるなどのハラスメントを受けたことをXは主張しました。

 

 裁判所は、Xの主張について、具体的な時期と経緯が特定されたエピソードとは異なり、時期も特定されていない概括的なものであり、本人の供述も具体的にいついかなるどのような言動を受けたことを指してるのかは明らかではない。

 

いくつかの点では、Xの陳述書の記載以外これを裏付ける証拠はない旨を述べ、パワハラの事実は否定されています。

                          〔下線は社労士亀岡が付す〕

 

パワハラなどのハラスメント行為の主張がされた場合は、発した言葉は録音などが証拠になり得ますが今回はそうしたものはありませんでした。

 

ハラスメントでは音で記録化できない言動も多くあるわけですが、具体的な内容をメモや日誌に記録してあるなどされていると供述の信憑性が出てくる可能性があります。

 

企業としては、「どうせ録音など証拠なんかないs、否定すればいい」と真剣に受け止めないでいますと、詳細なパワハラ記録(メモ、ノート、日記など)が提出され、心証が労働者に大きく傾く可能性もあります。

 

本件のような、責任転嫁のシーンなどは証拠があるわけないと安心しないようにすべきかと思います。労働者にとっては、「心証」で勝負できることも念頭におき、録音や動画がないからと、泣き寝入りするだけが採るべき道ではないことも思考していいかと思います。

 

このハラスメントの記録については、別な機会にこのブログで、詳細に記載したいと思います。

 

本件は、Xが上司のパワハラ行為について懸命に主張をしているのですが、労働者の主張がなされた場合の裁判所の取り扱いについて学ぶよき素材であると言えます。

 

(ホンダカーズA株式会社事件 大阪地裁平成25年12月10日判決/労判1089号82頁)