映画『沈黙 - Silence -』にはいわゆるキリシタン用語が出てくる。
「キリシタン」ということばがその筆頭である。「切支丹」という漢字表記もよく目にするが、「吉利支丹」という表記もある。さらには侮蔑を込めて“切死丹”、“鬼理死丹”という当て字も使われるようになったとのこと(ウィキペディア「キリシタン」参照)。
「キリシタン」の語源はポルトガル語の Cristão で、スペイン語では cristiano という。英語の Christian と同語源であることはいうまでもない。
スペイン語の cristiano には「キリスト教徒」という意味のほかに《口》「人、人間」という意味がある。さらにラテンアメリカでは「お人よし、単純な人」という意味もある(筆者の手元の辞書、小学館『西和中辞典』による)。
研究社の「新英和中辞典」(第5版)には英語の Christian の名詞用法として「キリスト教徒」の他に《口》「立派な人、文明人、人間」という意味も記載されている。
裏を返せば、キリスト教徒でなければ、立派な人、文明人ではなく、さらには人間でさえないということである。
まったく、「キリスト教徒にあらざれば、人にあらず」である。
映画の中で神父たちは「パドレ」(padre)と呼ばれていたが、スペイン語も同じである。スペイン語の方は英語の father と同様、もともと「父」の意味であるが、英語と同様、「神父」の意味にもなる。
ポルトガル語の padre はもっぱら「神父」の意味のようで、「父」は pai というそうである。
padre ということばから、「バテレン」(「伴天連、破天連」とも表記される)ができた。本来は「カトリックの宣教師(神父)」の意味であったが、「キリスト教(徒)」の意味にもなった。
カトリックのことを「天主教」と言っていたが、大正時代までこの呼称が用いられていたとのこと。
神父は「天主」と伴(とも)にあるので、「伴天連」はなかなかいい漢字を当てはめたものである。
この padre は米大リーグのチーム名としても使われている。サン・ディエゴ(San Diego)を本拠地とする「パドレス」(Padres)である。野球チームに「神父」とはちょっと辛気臭い感じもするが、実は、padre には形容詞用法として「すごい、かっこいい、いかす」という意味もあるのである。
手元の辞書の例文を一つ紹介する。
¡Qué padre madre!
英語に逐語訳すると“What father mother!”で、何のことかわけがわからないが、「いかす女だなあ」と訳されている。
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