28,一つ二つ三つ…………………… | 緑高の楽屋

緑高の楽屋

BL小説書いてます。
本家「まっちゃまろまん文庫」の整理ブログです。
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「宮川先生。」
「おー、天川―……」
……天川「先生」か。何かまだ違和感あるな。ジャージ姿だと年齢不詳。生徒時代と全く変わってない。

「部活か?」
やったことない運動部の顧問って大変だよな。若手だってだけで生徒と一緒にやれって言われるし。またコイツそれをクソまじめにやるし。
「それが職員室出たところで生徒につかまって。人生相談のってたら部活終わりの時間になってました。」
「…………おつかれ。」
「…………つれました。」
体が二、三個欲しいな。いや、生徒数と同じぐらい欲しいな。この仕事してると時々思う。
「ま、茶でも飲んでけ。」
「いや、まだ最後シメとかないと……」
「飲んでけ。」
高校生なんて多少ほっといたってどうにかなる。
「『自主性育てる』のも大事だぞ。」
……オレが言うと説得力あるな。しかも元「演劇部員」に。



「夏季休暇ちゃんととったのか?」
「とりましたよ。旅行行ってきました。」
「だから『休め』よ。」
まあ、普段やりたくてもやれないこと思いっきりやる方がいいのかもだけど……
「どこ行ったんだ?」
「奈良です。寺と神社巡り巡ってきました。」
「休め!」
半分仕事じゃねーか、日本史教員。

「だって!日本史の授業ないんですもん!地歴教員のなかでも日本史専門は多いんで。」
そっか。社会……地歴公民だっけ?「日本史の先生」だけやってりゃいいってもんじゃないんだな。地理の先生にも世界史の先生にもなるのか。そういやよくデカい掛け地図持ってウロウロしてるのを見る。
「今は地理やってるのか。」
「若手は地理やれ、とか年功序列とかわけわかんないこと言われて。」
「まあ、そういうもんだよ、新人。」
「そうですけどッ!!」
やりたいことができそうでできない……てのもストレスか。


「なんかもっともなこと言ってますけど、『できない』んですよ。地理。だから必死で逃げてるんです。それがわかるから余計に腹立つんです。」
……ああ、いるな。そういうヤツ。ちょっと具体的に顔も浮かぶ。けど確認はしないでおこう……。
「それならそうだって素直に言えばいいのに!実際大御所はちゃんとカミングアウトしましたから。その上で笑顔で『やれ★』って言われたんですけどね!」
ああ……目に浮かぶ。
「まあ、それに対しては『はあ~い★』って答える用意はできてましたよ。それくらいの分別はあります。」
そうそう。働くってのはそういうこと。若いうちはやりたくないこともやらないといけないこともある。そしてやりたいことをやらせてもらえないこともある。
……なんて、オレがくどくど言わなくてもちゃんと理解してるし、文句一つ言わずにやる。そういうヤツなんだよ、天川は。その上どんなに疲れてても生徒のくっだらない人生相談にものってやって……。
ホント、相模にはもったいない。

「なのにッ!!!!」
うお?
「なのに中堅どころが見苦しく『若手は文句言わずにやるもんだ。』とか『できないことはやって勉強するんだ。』とか気色悪い声で言い出すもんだから!!!」
声が気色悪いかどうかは関係ないだろ。
「やれるし!地理も面白いし!等高線読めない人にそんなこと言われたくないし!」
ああ、確かにアレはオレも苦手かも。ゴチャゴチャしてて見る気が……。って地歴の先生がそれってまずくないか?
「フィヨルドとリアス海岸は違うんです。」
「ン?……うん。」
「地中海周辺以外にも地中海性気候のトコはあるんです。」
あ、そうなの。……って何の話してんだ、今。
「ましてやフェーン現象とドップラー効果は全く別もんです!!!」
むしろどこがどうかぶってるんだ?
「地理では初歩の初歩ですよ!生徒が間違えたって許せないヤツですよ!そんなのわからないって、自分が若手の頃勉強してない証拠じゃないですか!」
最後のは……一般常識だよな。
「イギリスとイタリアの区別つかないって日本史教えるにもまずいですよ。」
おおお……
「あー、無理!ああいう見苦しい逃げ方するヤツ、オレ本当に無理なんですよ!あのヘビ顔も生理的に無理!!!!」
「顔関係ないな。」
しかもヘビ顔ってどんな顔だよ。………………上手いこと言うな。

そうだな。昔からそうだった。
嫌なこともちゃんと引き受けて、責任感を持ってちゃんとやり遂げる。そういう大変デキた子だったな、天川は。ただ
「文句一つ言わずに」ではなかったな。