2014年9月29日月曜日

大衆化社会に警鐘を鳴らす-『ゲーテの警告 日本を滅ぼす「B層」の正体』


小泉総理による郵政選挙や民主党による事業仕分けなどは劇場型政治の典型的な例ですが、今振り返るとあの熱狂は何だったのだろうと思います。郵政民営化ってそこまでやるほど重要なことなのか、民主党のマニュフェストには財源の裏付けのないじゃないか、そんなことを言ってみても、連日のマスコミの報道とそれに煽動された国民の声の大きさの前では無力でした。この国がどんどんおかしくなっていくことに危機感を覚えながらも、逆にとことん悪くなればさすがにどこかでおかしさに気付くだろうと一縷の望みを持っていたところ、安倍政権が誕生してくれたことに安堵しました。

今の選挙は小選挙区制の下、いわゆるB層に対して以下に働きかけるかというある種のマーケティング戦略が重視されています。とにかく一番にならないと選挙に当選しないわけですから、難しい問題をまじめに議論するよりも、問題を単純化し、有権者の感情に訴えかけることがより重要となりますし、さらに言えば、主張している内容より、誰が言っているかの方が重要だったりします。本書ではB層とはマスコミの報道に流されやすい「比較的IQの低い人たち」とされていますが、このB層の拡大によって政治はもとより、芸術や料理などの分野でも「本物」が駆逐され、大衆化が進んでいることに警鐘を鳴らしています。

テレビではコメンテーターと称してその道のプロではなく芸能人がもっともらしくコメントしたり、内容に関係なくテレビや雑誌で取り上げられた店が名店になったり、書店には時流に乗ったテーマの本が氾濫していたりと、プロの価値が低下し、本物のわかる人が減っています。そうなると本物が育たない社会になってしまいます。

現在は民主主義が最良の政治形態だとされていますが、チャーチルの皮肉を引用するまでもなく、B層が支配する大衆社会が最良とは言えないでしょう。選挙の度にブームが起きるようでは、長期的な国家ビジョンを持つことができず、大衆迎合的な政策を乱発することになりかねません。民意が常に正しいとは限りません。しかし民主主義は民意が正しいという擬制の上に成り立っています。最も民主的な政治体制だったと言われるワイマール体制の下で、ナチスが政権の座に就いた訳ですから、ひとたび熱狂が生まれれば、民意が暴走することだってあるわけです。そう考えると健全なエリートの養成についてもっと考えるべきではないかと思います。例えば政治家は官僚を叩き、疎外することで政治主導のパフォーマンスをするのではなく、官僚に国家のエリートとしていかに国のために働いてもらうかという視点で考えていくべきではないでしょうか。

この本を読みながら、偉そうなことを言ってみても自分自身がだんだんB層になっているのではないかという危機感を持ちました。楽な方に流されず、古典を読み、自分の頭で考える習慣を改めて身に付けていきたいですね。


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