A Challenge To Fate

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【全文掲載】新生アイドル研究論『地下アイドルへの招待:Extreme Music From Japan〜ジャパノイズと地下アイドル』

2018年04月22日 02時55分05秒 | ガールズ・アーティストの華麗な世界


地下アイドルへの招待
Extreme Music From Japan〜ジャパノイズと地下アイドル

剛田武 Takeshi Goda
2018年4月1日(日)高円寺パンディット
『オキュパイ・スクール 2018 たま爆発・ザ・公開制作』におけるレクチャーより


■はじめに~アイドル現場の国際化
2012年にでんぱ組.incやBiSと出会いアイドルに興味を持った筆者が、小さなライヴハウスで開催される地下アイドルのライヴ現場に行きはじめたのは2015年12月頃。2016年にはほぼ毎週のようにライヴハウスに通うようになった。そんな地下アイドルの現場に外国人の姿が増えたことに気付いたのは2016年半ば頃だろうか。9月23日恵比寿でのMalcolm Mask McLarenのメンバー生誕ライヴ会場に観光客風の若い白人男性がたったひとりで観に来ていて、特典会にも並んでいたので話しかけてみた。9月19・20日のBABYMETALの東京ドーム公演を観るために来日し、その後一週間滞在し他のアイドルを観に行っているとのこと。彼の手帳には仙台や大阪遠征を含むスケジュールがビッシリ細かく書かれていた。どこで情報を得たのか尋ねたところ、Facebookのアイドルファン・グループ(Idolmetal & Punk Rock Idols)を教えてくれた。メンバーは数百人だがアイドル関係のTwitterの投稿や自撮りが瞬時にシェアされるのに驚いた。以来、筆者の行くラウド系アイドル現場に必ず外国人を見かけるようになった。2017年にNECRONOMIDOL(ネクロ魔)が3月タイ、7月ヨーロッパ、12月USと3回の海外ツアーを行った。そのたびにFBやTwitterのTLが日本のファンだけでなく海外のファンの投稿で盛り上がり、海外ツアーの主催者がFB常連のアイドルヲタクだと知ることもあった。日本でも一部のファンにしか知られていいない地下アイドル、とくにラウド系・オルタナ系に対する海外ファンの情報の速さと熱狂ぶりは驚異的。アニメや原宿ファッション、J-POPの海外ヘの紹介を主眼とする「クールジャパン」とはまったく異なる流れで情報拡散していることは間違いない。

アイドル現場の熱いパフォーマンスとファンの盛り上がりは80年代ハードコアパンクやスラッシュメタルのライヴを髣髴させることは筆者も含め多くの人が指摘している。しかし海外への伝わり方や受け入れられ方は、むしろ「ジャパノイズ」に通じるような気がする。日本のエクストリーム・ミュージックと呼ばれる「ジャパノイズ」と「地下アイドル」の現象面での共通点を検証することが本論の趣旨である。

■エクストリーム・ミュージック(極端音楽)とは?

70年代後半から日本のノイズのオリジネーターとして活動する美川俊治氏(インキャパシタンツ、非常階段)が1994年に著した記事『日本のノイズ』から引用する。

「日本のノイズ」(と称されているものの一部)が、音楽として実に極端な形態にまで暴走しているという筆者の認識に基づいてその理由を考えてみることにしたい。

日本のノイズは、ノイズの、音としてのテイストを 取り入れながら、全体としての姿は、極めて奇形的なもの(ここで言っているのは、いわゆる「ノイズ」が普通の「音楽」に対して奇形的な位置にあるという意味よりは、海外の、例えば英国の「ノイズ」に見られるようなトータルなものとしての「ノイズ」に対して「日本のノイズ」が隔絶した位置を占めてい るということ)となっていったということが言えよう。

「エクストリーム・ミュージック」即ち「極端な音楽」というのがある。何が極端なのかということははっきりしないが、何かの追い求め方が極端とい うことなのだろう。(中略)音楽の三要素である、メロディ、リズム、ハーモニーの全て またはいずれかを極端なまでに排斥したサウンドのことを指しているのか、多分そんなところであろうが、実際、前述したように、一点豪華主義的な「暴走」を見せる「日本のノイズ」の呼称としては、かなり妥当なものであると思われる。


つまり普通の「音楽」対して奇形的な位置にある「ノイズ」に中でもさらに極めて奇形的なもの=「暴走」したもの、として日本のノイズが海外のリスナーから認知されているということである。

美川の言葉を裏付けるように、パワー・エレクトロニクス(ノイズのスタイルの一つ)を代表するイギリスのWhitehouse(ホワイトハウス)の所属レーベルSusan Lawlyから『Extreme Music From Japan』と題されたコンピレーションCDが94年にリリースされている。ゲロゲリゲゲゲ、マゾンナ、インキャパシタンツ、メルツバウ、非常階段など日本のノイズ・アーティストを収録。Susan Lawlyの『Extreme Music』シリーズは他に「Woman」「Africa」「Russia」が出ており、それぞれ「暴走し」「行き過ぎた」音楽が収録されている。その他にも日本のノイズや地下音楽のコンピレーションCD,LPが多数リリースされている。



■ジャパノイズとは?
ジャパノイズ(Japanoise/Japanoize)はノイズ・ミュージックの中で、特に日本のミュージシャンによって作成された楽曲及びミュージシャン、バンド自身を指すものである。主に1980年代以降の作品を指す場合が多い。日本ではなく海外で生まれた言葉であり、英語で「日本」を意味する"Japan"とノイズ・ミュージックの"Noise"を掛け合わせた造語である。
80年代以降、日本で生まれたノイズ・ミュージックの中では、本国日本で支持されることよりも、欧米を中心とした海外で支持されることが多かった。その中で、海外のファンが「日本のノイズ・ミュージック」として「ジャパノイズ」と呼んだことが始まりである。(Wikipediaより)


2013年にカリフォルニア大学音楽学の助教授であるDavid Novakが『JAPANOISE』という書籍を出版した。海外で「ジャパノイズ」として知られる日本の地下音楽の歴史と本質を10年間の取材に基づいて解き明かした画期的な研究書である(年内に日本語訳が出版予定)。「ジャパノイズ」がジャンルとしての「ノイズ」に限定されないことは、同書の表紙に灰野敬二(ノイズという呼称を嫌うことで知られる)の写真が使われていることで明らかであり、サイケデリック/オルタナ/ハードコアなど日本の地下音楽全般が海外で受け入れらる過程で生まれた言葉といえる。


Japanoise: Music at the Edge of Circulation (Sign, Storage, Transmission)
David Novak著 / Duke Univ Pr (2013)

ジャパノイズ誕生の歴史を紐解いてみよう。70年代末〜80年代初頭にかけて世界的にメールアート(郵便)とカセットテープを使った地下音楽家の交流が盛んになり、世界各地の音源を交換しあって、コンピレーションカセットがリリースされた。日本ではメルツバウの「ZSF」、KK NULLの「Nux Organization」、K2の「Kinky Musik Institute」などのカセット・レーベルを通して、日本の地下音楽が海外に紹介された。その中には日本地下音楽最大の謎のひとつD.D.Recordsも含まれる。無名の音楽家ばかり200本を超える作品が、アメリカの『Eurock』誌で紹介され日本よりも海外で熱烈な支持者を生むという現象も起きた。

86年にドイツのDossierからリリースされたLP『Dead Tech Sampler - No Wave From Japan』を皮切りにレコードやCDでもリリースされ、より幅広いリスナーに日本のノイズや地下音楽が聴かれることになった。また、90年代に東京のPSF、大阪のアルケミー・レコードが精力的にリリースした日本の地下音楽のCDが海外でディストリビュートされた。同じころ、大阪在住のDavid Hopkinsが自主レーベルPublic Bathを設立し、アルケミー系のアーティストの作品を海外向けにリリースしたことも意義があった。


Dokkiri! Japanese Indies Music 1976-1989 A History and Guide
加藤デビッドホプキンズ 著 / PUBLIC BATH PRESS (2016)

海外ミュージシャンによる情報発信も大きな影響力があった。1981年にフレッドフリスが来日し灰野敬二や突然段ボールなどと共演し、特に気に入った灰野敬二のレコードを、帰国後ニューヨークの前衛アーティストたちに配った。他にもジョン・ダンカンやジョン・ゾーン等が一時期日本に滞在し、多くの音楽家と交流を深め、帰国してからも繋がりを保った。最近ではジム・オルークが日本に移住して音楽活動をしている。ソニック・ユースやニルヴァーナなどツアーで来日したオルタナティヴ・ロックの人気アーティストが日本の音楽を海外で紹介したことも大きなインパクトがあった。

以上のように、ネットワークがマスメディアではなく、郵便やカセットや口コミ、限定的な地下メディア(ミニコミや地下新聞など)で伝達され、ごく一部のマニア的な世界で語り継がれた、という点が特異であり、「ジャパノイズ」という概念の源である。

ジャパノイズの特異性は他にもある。日本伝統のコピー文化の構造変化、そして抽象芸術のライヴ表現による具体化・肉体化である。その証言として世界最古のノイズバンドの歴史書『非常階段 A Story of The King Of Noise』より抜粋する。


非常階段 A STORY OF THE KING OF NOISE
JOJO広重, 美川俊治, JUNKO, コサカイフミオ, 野間易通 共著 / K&Bパブリッシャーズ (2010)

80年代の後半は日本の地下音楽が海外の地下ネットワークと直接繋がり、直接なんらかの影響を与えるということが起こりはじめた時期だった。海外のものを輸入し、それを真似たりすることを通じて自分たちの音楽を模索するという70年代以来の「洋楽/邦楽」的な構造が崩れはじめていたのだった。

中でもノイズに関しては、圧倒的に日本は発信し、影響を与える側だった。エクスペリメンタル・アートとしてではなく、文字通りのライヴ・ミュージックとして「雑音」を追求するアーティストがこれだけ存在するのは、日本に特異な現象だったからである。(野間易通)


言葉としての「ジャパノイズ」は21世紀の現在使われることは少ないが、灰野敬二、非常階段、インキャパシタンツ、大友良英といった80年代から活動を続ける非メインストリームのアーティストが今なお海外で安定した支持を得て、海外公演のオファーが絶えない事実は「ジャパノイズ」=日本の特異な「エクストリーム・ミュージック」が世界の地下シーンに浸透している証拠に他ならない。

一方、我々がテーマとしている日本のアイドルは海外にどのように伝わりどのように受け入れられているのだろうか。それを調べる為にアンケート調査を実施した。

■JAPANESE IDOL SURVEY IN OVERSEAS 海外のアイドルファンの意識調査


実施期間:2018年3月1日~16日
対象:外国人のアイドル・ファン(居住地は不問)
調査方法:Twitter, Facebook, ライヴ会場(東京)でのアンケート 
回答数:43

<設問(記述式)>
1 あなたがアイドルを知ったきっかけは? When & How did you get to know Japanese-Idol? 
2 あなたの最初のアイドル体験は? What was your first Japanese-Idol experience?
3 あなたにとってアイドルの魅了とは? What attracts you to Japanese-Idol? 
4 アイドルの情報をどこで入手しますか? How do you get information about Japanese-idol? 
5 アイドル以外で好きな音楽は? What’s your favorite music / artists other than Japanese-idol? 
6 日本文化に興味がありますか?あるなら何? Are you interested in Japanese culture? If yes, what?
7 あなたのアイドルTOP5 Your top 5 Japanese-idols
 
●回答者属性

 
Q1. アイドルを知ったきっかけ 

いつ?
・AKB48のメジャー・デビュー(2006)以前はハロプロ(モーニング娘。、ミニモニ)とアニメソング
・60%がBABYMETALの世界進出(2012)後


どのように?
・YouTubeで知った人が多い。レコメンデーション(おすすめ動画)で知ったケースもある。

Q2. 最初のアイドル体験

いつ?
・約85%が2010年の「アイドル戦国時代」以降
・約80%がBABYMETALの世界制覇(2014)後


どこで?
・アメリカ、フランス、イギリス、カナダ、アジアなどアイドルが盛んにツアーしている国が多い
・3分の1(34%)が日本に来て初めてアイドルを観た。


だれ?
・BABYMETALが妥当に1位
・2位は"世界一激しいアイドル"と自称する偶想Drop
・偶想Dropを含めPassCode、NECRONOMIDOL、BiSH、校庭カメラガール、There There Theresなどオルタナ系を合わせると約3分の1に上る。
・Other:BiSH, Buono!, Chii Sakurabi, Cute, Juice=Juice, きゃりーぱみゅぱみゅ, Party Rockets, Silent Siren, モーニング娘。, アイドリング, 校庭カメラガールドライ, There There Theres

【補足】
予想通り、Twitter、Facebook、YouTubeといったネットの影響力は甚大。もう一方で実際にライヴを体験してからめり込む現象がある。BABYMETAL(BB)の影響力は圧倒的だが、回答者の中にはBBはアイドルではないという認識を持つ人もいる。BBをきっかけに地下アイドルを体験し、音楽だけでなく会場の一体感やメンバーとの交流を含めて「アイドル」と看做す人が多い。初めてのアイドル体験として偶想Drop、PassCode、ネクロ魔といったラウド系が挙がっているのは、それだけ強烈な体験だった証であろう。

Q3. アイドルの魅力

(*最大のものを100としたときの百分率。以下同)

なによりも「音楽」が重要。さまざまな要素を融合した、ほかのどこにもない実験的ミクスチャー。
それとともにファンやメンバーとの一体感、ライヴ現場のエネルギー。メンバーの成長を描くストーリー性。

【アンケートより抜粋】
○異なるスタイルの音楽をミックスして、その上にスウィートなヴォーカル(さらに唸り声や絶叫)を振り掛けるやり方。単純に聴いていてハッピーになる(イギリス、50代)
○音楽の実験性、ライヴのエネルギー。現在の地下アイドル・シーンは、ミュージシャンがお金にならなくても音楽とライヴに全力を注いでいた昔のパンク・シーンを思い出させる。(アメリカ、40代)
○音楽性、特にジャンルを融合するタイプ。ファンのパワー。アイドル・ファンのほうが西洋のメタル・ファンより激しいというのはかなり面白い。(アメリカ、20代)
○どんどん別の音楽のジャンルを探求し、いろんなイメージを取り入れる。権威に反抗する無法者のことを歌い、デスコアをミックスするようなアイドルは新鮮だし、私のように反抗的なメタルで育った者にはなじみ深い。(フィリピン、20代)
○プロデューサーがキュートなアイドルと(大なり小なり)純メタルの獰猛なメロディをミックスするやり方は驚異的。ほかのどこにもない音楽のミクスチャーだ。(フランス、40代)
○あらゆる種類の音楽を実験するグループが多いこと。ジャンルをミックスして新しいものに挑戦する。ファンの献身ぶりも素晴らしい。バラエティ豊かなので飽きない。メンバーは信じられないほどハードに取り組んでいて、私もミュージシャンなのでとても刺激を受ける。(ドイツ、30代)
○アイドルは誰でも平等に扱ってくれる。音楽やグループ、観客、歌のイメージの多彩さ。ほかのアイドルファンとの一体感。(イギリス、30代)
○アイドルはアット・ホームな気持ちを感じさせる。 「豊かで、風変わりな性格と素晴らしいショーマンスキルを持つ隣の家の女の子たち」のイメージ。YouTubeのトークやゲームを観ると、ひどい一日を過ごしたとしても、良い笑いを誘い、大きなストレス解消になります。(インド、20代)
○キュートな女の子がいい音楽でキュートなことをやること。ファンと強いきずなで結ばれていること。(カナダ、20代)
○情熱!アイドルはエネルギー、パワー、そしてそれ以上のもの。そしてとても献身的。(メキシコ、20代)
○曲のエネルギーとコンセプト。女性として、夢を追いかける姿に共感する。ファッションも好き。オルタナ・アイドルはアメリカのオルタナロックに近くてカッコいい。(アメリカ、20代女性)
○アイドルというコンセプトを使って新しい芸術を作り出すところ。(アメリカ、30代)


Q4. 情報源


SNSが圧倒的に強い。注目すべきは「Homicidol」「Idol Is Shit」「Straight From Japan」といった海外のファンによるブログの影響力。ファンの実体験に基づく生の情報が重視されている。特にライヴハウスの場所、チケットの買い方、特典会の参加方法など実用的な情報が重宝され、それに基づいて体験したファンがさらに情報を更新しているという。YouTubeは情報源というより音楽を楽しむメディアと考えられている。

Q5. 好きなジャンル


メタル、ロック(オルタナ)、パンクといった激しい音楽(ラウド・ミュージック)を好む人が多い。一方でどんなジャンルでも聴くという幅の広さもある。また、ジャンルではなく具体的なアーティスト名を詳細に記入した回答も多く、みんな音楽が大好きなことがよくわかる。

Q6. 日本文化への興味
集計は出来ないが、ほぼ全員が日本文化に興味があると答えた。音楽、映画、アニメといったエンターテインメントは勿論、伝統文化や歴史・建築への興味もある。日本観光旅行の経験者も目立つ。

Q7. 好きなアイドル (参考程度。推しのアイドルが上位なのは嬉しい)



【分析】地下アイドルとジャパノイズの類似性
●音楽の奇形性と革新性
アイドルというスタイルに様々な音楽要素を融合する方法が、「世界の何処にもない」「日本だけの」「実験的な」音楽ととらえられている。つまり「ジャパノイズ」と同じ奇形であり、「コピー文化」が主流の日本で、模倣から独自の物を創り出すパワーが「暴走」した音楽と看做されている。
ジャパノイズのルーツは西欧で生まれた電子音楽やインダストリアル・ミュージックとされるが、それを極端に推し進めた革新性が評価された。日本のアイドル文化と同質のルーツは西欧にはないと思われるかもしれないが、背景にポップ・ミュージック/ダンスカルチャー/アニメや漫画/ファッション/コミュニケーションといった多次元の要素の集積としての「カルチャー(文化)」がある。何でもありの現代ではあるが「地下アイドル」は総合的に革新的なカルチャーとしてとらえられている。その意味では表現行為のテーマパークと呼ぶのが相応しいかもしれない。

●ライヴ・ミュージック
「ジャパノイズ」がライヴ・ミュージックとして進化したように、テレビや雑誌で鑑賞するしかなかったアイドルを、ロックやパンク、テクノなどと同じように、普段ライヴハウスやクラブで接するカッコいいライヴ・パフォーマーとして提示したのが「地下アイドル」である。視覚的なおもしろさは勿論、アイドルとファンが一体になって作り上げる創造的なライヴ空間が魅力である。

●情報の伝達経路
海外への情報伝達が、メジャーな企業やマスコミを通してではなく、すべてネット、ブログ、口コミ、といった草の根的メディアである点が、郵便やカセットテープ、口コミで伝播した「ジャパノイズ」と共通している。

●シーンの創出
海外の「ジャパノイズ」ファンは自分も演奏家(ノイジシャン)であるケースが多い。音楽知識やテクニックがなくても誰でも出来ると考えられるノイズ・ミュージックの特徴といえる。ノイジシャン同士の交流も盛んで、共同してコラボレーションやライヴ企画を行い、シーンを創出してきた。一方、女性アイドルファンのほとんどは男性なので、自分自身が「アイドル」になることは難しい。しかしメンバーとファンの双方向の交流が特徴のアイドル文化に於いては、ライヴ現場に参戦してコールやオタ芸をしたり(もちろんしなくても)、SNSでメンバーやファンと絡んだりすることで一体感を得て、シーンの創出に参加することができる。つまりヲタクであることの特権を享受できるのである。

さらにNECRONOMIDOLのプロデューサーのリッキー・ウィルソン(アメリカ人)のように、自ら運営となり、メンバーを集めてアイドル・グループを作りだすケースもある。実際にアメリカのイベント・オーガナイザーがアイドル運営を学ぶために来日し、リッキーのもとで研修中である。アンケートの回答者の中にも、自国でアイドルフェスの企画や日本文化イベントの運営をしている人がいた。また、南米チリのアイドル・グループ「Battle no Jidai(バトルの時代)」のメンバーもいた。このように「ノイズ」と同じように、海外で「アイドル・シーン」が生まれる現象が起こっている。

以上の考察により、「地下アイドル」が海外において「ジャパノイズ」に類似した現象として受容されていることが確認された。次の章では実例を示して例証していくことにしよう。

■ 次代のジャパノイズ? - 地下アイドルの海外進出
NEXT JAPANOISE? - Underground Idols Go Overseas


●BiSHカヴァー動画
「好きなアイドル」で最も高い支持を得たのはBiSH。海外公演を行っていないにもかかわらず、BiSHが高い人気を得ている証拠として、動画サイトに外国人グループの「踊ってみた」動画やカヴァー動画が多数投稿されている。タイのWiSHやフランスのオリヨンなどBiSHメインのカバーグループも存在する。

CANDY☆STAR(台湾)『プロミスザスター』


WiSH(タイ)『プロミスザスター〜NERVE(BiS)〜MONSTERS〜星が瞬く夜に』


Momiji Velvet/紅葉ベルベット(インドネシア)『星が瞬く夜に』


QNTL(インドネシア)『OTNK』


ORIYON/オリヨン(フランス)『PAiNT iT BLACK』


Battle no Jidai/バトルの時代(チリ)『オーケストラ』


Yorokobi STEP/喜びステップ(ペルー)『プロミスザスター / オーケストラ』


Atsumari Dolls/集まりドールズ(メキシコ)『星が瞬く夜に』


●海外デビュー
今年になってアイドルの海外デビューが相次いで発表された。デビューに伴い海外公演が実現する例もあり、地下アイドルへの需要が高まっていることが分かる。

○Maison book girl
イギリスの新レーベルRead The Air Recordingsからデビュー決定。その前に5月17日〜5月19日にイギリス・ブライトンで行われる音楽フェス『THE GREAT ESCAPE 2018』に出演することが発表された。




   
○ハッピーくるくる
米レーベル「Attack The Music」から1stEPをデジタル・リリースした。



■海外進出の急先鋒、暗黒系アイドル「ネクロノマイドル」
NECRONOMIDOL - Forefront Underground Idol in Overseas




前述したようにアメリカ人がプロデューサーとして運営を行う"暗黒系アイドルユニット"NECRONOMIDOL(ネクロノマイドル/通称:ネクロ魔)は活動の初期から積極的に海外公演を敢行すると共に、FacebookやTwitterで海外のファン向けの情報を発信して来た。海外のレーベルからLPやカセットをリリースする一方で、Bandcampを通して海外のファンに直接CDやグッズを販売し易くするなど、「日本のアイドル」ではなく「国際的なロックバンド」の手法を取り入れた先見の明で、海外からの注目度が高まっている。まさに地下アイドルの国際化の先陣を切るグループである。

これまでの海外ツアー
2015年9月 『台北暗黒侵略』台湾 Taiwan
2016 年3月 『Necronmidol 2016 New Caledonia Tour』ニュー・カレドニア New Caledonia
2016 年8月 『Necronmidol 2016 Thailand Tour』タイ Thailand
2017 年3月 『Re-Animation Thailand』タイ Thailand
2017 年7月 『Harbingers of the Void European Tour 2017』イタリア、フランス、イギリス Italy, France, UK, Germany
2017 年12月 『Darkness Over The Pacific US Tour 2017』アメリカ USA

海外リリース
Album『Nemesis』LP(France)/ Cassette(Portugal)
Album『Deathless』LP(France)
EP『From Chaos Born』Cassette(USA)

ノイズ/実験音楽専門通販サイト「COLD SPRING」でも販売されている


2018年海外ツアー続々決定
6月UKツアー『BLACK WINDS OVER ALBION』


Black Winds Over Albion
英国ツアー2018年
NECRONOMIDOL
絶叫する60度
2&

6月4日マンチェスター@nightanddaycafe
6月5日バーミンガム@hareandhounds Presented by @KushikatsuUK
6月6日ロンドン@TheUnderworld(ネクロ魔バンド編成として出演)

8月アメリカ公演『EAST MEETS WEST MUSIC FEST』


【East Meets West Music Fest】
The Chain Reaction アメリカ カリフォルニア州 アナハイム市
8月18日(土)
出演:NECRONOMIDOL (ネクロ魔バンド編成)、Abigail Williams、ヤなことそっとミュート、十四代目トイレの花子さん、Wolf King、NAME、Phoenix Ash
8月19日(日)
出演:NECRONOMIDOL (ネクロ魔バンド編成)、ヤなことそっとミュート、十四代目トイレの花子さん、Paprika Mari 、PhEri


■最後に
以上の考察により「地下アイドル」こそ日本が世界に誇るべき「エクストリーム・ミュージック」に他ならないことが読者にも理解されたことと思う。しかし筆者が本稿を著したのは決して「地下アイドルは海外市場を狙うべし」と言うようなビジネス提案書・企画書の目的ではない。「地下アイドル」という世界でも希有の表現芸術の特異性を詳らかにし、沼の深淵へと読者を導く以外の意図はない。

海外で「ジャパノイズ」が評価されたとはいっても、大きく報道されたりチャートに入ったりすることはなく、ごく一部の熱心なファンの間で語られるのみであった。しかし30年経っても確実にファンは世界各地に存在し、地下文化として消えることがないファンベースを確立している。「地下アイドル」も、人数的には限られてはいるが、ファンの熱意は異常に高い。アイドルを観るために本国の仕事を辞めて日本へ移住した人もいるほどだ。もちろん中には大きなブレイクを果たし世界的な成功を収める地下アイドルもいるだろう(筆者の言う「地下」とは、マイナー/アングラという次元とはまったく異なることをご理解いただきたい”行き過ぎることを恐れない” 剛田武インタビュー)。5年後、10年後のアイドル・シーンがどうなっているかは誰にもわからないが、日本は勿論、海外のアイドルファンの情熱とエネルギーが消え去ることはないことを確信している。

また、本稿では音楽/ヴィジュアル面でのノイズとアイドルの関係性には一切触れていない。パフォーマンスとしての類似性に関する議論はまた別の機会に譲りたい。

■筆者について
剛田武 Takeshi Goda
1962年12月25日千葉県船橋市生まれ。10代から音楽を聴き始め、特にパンク、プログレ、フリージャズ、前衛音楽を好み、近年はアイドルにハマっている。80~90年代にバンド経験多数あり。Twitter @mirokristel
おもな活動:ブログ『A Challenge To Fate』/著書『地下音楽への招待』(ロフトブックス)/ネットマガジン『JazzTokyo~Jazz and Far Beyond』/DJ NecronomiconとしてDJ活動『盤魔殿 Disque Daemonium 圓盤を廻す會』 
その他の執筆活動
『捧げる〜灰野敬二の世界』(河出書房 2012)
『ミュージック・マガジン2013年7月号』「きゃりーぱみゅぱみゅは曼荼羅である」
『ミュージック・マガジン2016年5月号』「でんぱ組.incライヴの魅力」
ムック『ラジカセ For フューチャー』(誠文堂 2016)「めくるめく地下音楽 幻のカセットレーベルをめぐって」


地下音楽への招待
剛田武 著, 加藤彰 編集 / ロフトブックス (2016)


地下音楽
地下アイドルが
受け継ぐ血

【トークイベント開催決定!!!!!】
地下アイドルへの招待:エクストリーム・ミュージックとしてのジャパノイズと地下アイドルを聴く


2018年5月1日(火)
外苑前ギャラリー「Art & Space ここから
20:00開演  参加費無料 / 飲食持込みOK
出演:
剛田武(地下ブロガー、DJ『地下音楽への招待』『盤魔殿』)
鶴田恵一(映像ディレクター『現代ノイズ進化論』)
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