2014-09-05

『風の谷のナウシカ』 年々変化していく巨神兵の姿を追ってみた!


『風の谷のナウシカ』に登場する巨大な人造生物、巨神兵。世界を破壊した兵器であり、調停者、裁定者でもある存在。

コミック版の後期に登場した巨神兵オーマ

映画・コミックに現れる巨神兵が決まったデザインになるのは、コミック版の後期、オーマの登場からであり、それまでは宮崎駿監督も認めているように、描かれるたびに姿が変わっています。

今回は、そんな巨神兵の初登場シーンから、『ジブリの大博覧会』&『アニメージュとジブリ展』で展示された朽ちた巨神兵までの、徐々に変化していく巨神兵の姿を追ってみました。



まずはコミック版ナウシカから。1ページ目にさっそく登場する化石化した巨神兵。まだ在りし日の姿は分かりません。

こちらはその少し後の展開で登場する生きた巨神兵。まだほとんど骨格だけの状態ですが、化石になった巨神兵とは形が違うように見えます。

コミックでは完全体の姿はオーマの覚醒まで待たねばなりませんでした。

高荷義之さんによる巨神兵のイラスト。83年10月号のアニメージュに載っていたそうです。コミック版よりも肉付けがされているためか、この時点で既にオーマのデザインとの差異もあまりなく、違和感がありません。

しかし一転、コミック版のデザインから変化したように見えるのが、映画版の巨神兵。こちらはわずかに登場する完全体の集団です。

シルエットのようにも見えますので、姿が違うのはそのせい、という気もしますが…

コミック版後期の同じシーンがこちら。見比べてみると、やはりシルエットの問題ではなく、映画版の巨神兵はコミック版のデザインとは異なっているように見えます。

映画版にわずかに見える程度で登場した巨神兵の胎児。胎児だからかもしれませんが、これもまたデザインが異なっているように見えます。

おそらく一番有名な「腐ってやがる」状態。登場時には既に溶解し始めていたため、ここからは完全体がどんなものだったかは分かりませんでした。

ちなみにこのドロドロ巨神兵が完全に骨と化した状態がこちらです。

ちなみに映画版にはこんな形の巨神兵の化石もありました。

ツノ付き巨神兵の化石。こちらはコミックでも登場しています。在りし日の姿はどんなものだったのでしょうね。

こちらは映画版イメージボードの頃の巨神兵。これに至っては「巨神兵」と書かれていなければ分からないほど異質な姿をしています。どの段階で描かれたものなのでしょうか。

この頃に巨神兵の完全体デザインはあったのか?そのヒントになりそうなのがこちらの絵。85年のカレンダー用に描かれた巨神兵です。

なんだか虫と甲殻類を合わせたような姿です。牙に当たる部分が触手のようになっています。宮崎監督いわく「(コミック版は)たぶんこんな話の展開になるんじゃないかと思って描いたものですが、この時点ではまったくストーリーはできていなかったんです」とのこと。

やはり宮崎監督の言うように、巨神兵は描くたびに変わっていたようです。作品内での整合性を考えるならば、巨神兵にも色々なバリエーションがあった、と解釈できるでしょうか。

そして、コミック版後期に登場する巨神兵オーマ。ここで初めて巨神兵の姿は固定化されますが、コミック版だけを見ると巨神兵のデザインはほぼブレていません。

次は、オーマを元にさらなるディテールを加えた『巨神兵東京に現わる』の巨神兵です。まずこちらはアニメーション監督、アニメーターである前田真宏さんによるイメージデザイン。この段階からエヴァっぽさが出てきます。

そして以下は前田さんのイメージデザインを踏まえた上で描かれた、造形師の竹谷隆之さんによる立体用の雛形デザイン。かなり細部が緻密になってきました。

これらを踏まえた上で、竹谷さんによって作られた雛形造形の巨神兵がこちらになります。

これらの過程を経て、以下が『巨神兵東京に現わる』に登場した巨神兵です。造形は倉橋正幸さんだそうです。

造形化することによりリアリティが増し、またエヴァも彷彿とさせる姿になりました。格好良く、禍々しくもあるこの巨神兵たちがズラリと並んでいるシーンは圧巻でした。


『巨神兵東京に現わる』の制作によって巨神兵のデザインは完全に固定されたように思いますが、まだ(ある意味で)巨神兵は変化しています。以下は、『ジブリの大博覧会』や『アニメージュとジブリ展』で展示された、竹谷隆之さんが中心となったチームによって製作された「朽ちゆく巨神兵」の造形です。(以下に続く画像は書籍『腐海創造 写真で見る造形プロセス』で見ることができます)

巨神兵の死骸を覆う腐海の菌類は、本能的に「人間が立ち入ってはいけない場所」だと思わせるような毒々しさです。ちなみにこの状況は、「化石化する少し前の機能停止した巨神兵を腐海が飲み込んでいる場面」だそうです。理由は「その方が“人間が作ったものを無に帰そうと作用する力”の現在進行形の魅力がより伝わると思ったから」とのこと。

後の画像でもご説明しますが、ここで朽ちている巨神兵は「オーマ型」ではなく、以下の巨神兵を元にデザインされているそうです。

以下は竹谷さんが巨神兵造形の前に描いた最初のラフです。当初は砂漠の中に埋もれる巨神兵を菌類が覆う程度の規模をイメージしていたそうです。特に注目すべきポイントは右側に描かれた3種類の巨神兵。オーマ以外の2種の巨神兵ですが、化石として描かれていた巨神兵の「生存していた頃の顔」が竹谷さんによってデザインされています。

次は上記のラフに改良を加えたバージョン。菌類の森が周囲にあったほうが、腐海が過去の兵器や毒を分解する役割を絵として伝えやすいと考え、このように変化させたそうです。画面の右奥には角付型の巨神兵の姿もあります。

最後は、3種の巨神兵を描いた別のラフ画です。朽ちている巨神兵をオーマにしてしまうとシチュエーションとしておかしくなってしまうため、コミック版の最初のページに描かれた巨神兵を使用したということが説明されています。特筆すべきはやはり右下の巨神兵でしょうか。在りし日の姿が大きく描かれています。

これらの絵と造形が作られたことによって、当初は「デザインが定まっていなかったため」に描かれた数種の巨神兵があるという状態が、結果的に大きく功を奏した形になったと思います。もしかしたら、東亜重工ではない企業や国家も巨神兵を製作していた?あるいは、目的別によって様々な巨神兵がいたのかも?などと考えると、非常に楽しくなってきますね。


おまけとして、以下はまだナウシカの企画すらなかった頃に宮崎監督によって描かれたイメージボードたちです。(『ロルフ』『戦国魔城』などの映画企画の際に描かれたもの)ラピュタのロボット兵と巨神兵の中間のような骨格が横たわっています。
ナウシカの前から宮崎監督の頭には、おぼろげながら巨大な人造兵器(?)のイメージが存在していたことが分かります。

こちらはむしろロボット兵に近いと言えますが、やや巨神兵的な要素も見えます。宮崎監督も「巨神兵の原型となった」と言っているものです。監督も影響を公言している『やぶにらみの暴君(王と鳥)』に登場するロボットも彷彿とさせます。

こちらも巨神兵の原型になっていると思われます。武者姿の巨人ともロボットともつかぬ何かが町を襲っているようです。

こちらも元ネタになったと思われる絵。右下には「神人、土鬼族の砦をおそう」とあります。


以上、巨神兵の変遷でした。(画像は映画・コミック版ナウシカの他、 The art of Nausica (ジ・アート・シリーズ) / スタジオジブリ作品関連資料集〈1〉 (ジブリTHE ARTシリーズ) / 映画 風の谷のナウシカ GUIDEBOOK 復刻版(ロマンアルバム) / 風の谷のナウシカ―宮崎駿水彩画集 (ジブリTHE ARTシリーズ) /『館長 庵野秀明 特撮博物館 ミニチュアで見る昭和平成の技』別冊 巨神兵東京に現わる/腐海創造 写真で見る造形プロセスより)


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