長い長い月日が経った・・・。
何度も同じ月を見ていた。
ようやく会えたんだ・・・ようやく・・・
君の悲しみが僕の中に溶けては消えて掴めなかった。
あの蜂蜜瓶はもう消えたかい?
僕の中にはあの蜂蜜瓶があったのかな?
ふと思い出す・・・・
月と道端の花と、蜂蜜瓶。
少しだけ笑ったあの日。
少しだけ僕だけを見たあの日を・・・・
オーナー:「お前ら突然怖いんだけど・・・そんなに面白かったのか?
それよりお腹すいてないかい?
ピザ持ってきたんだ。食べないか?」
俺たちはまた顔を見合わせる。
マリー:「何、急にwっていうか、さっき・・・やけに落ち着いてるようにも
見えたけど、なんとなく焦ってませんでした?」
ウヒョン:「あっ、俺もそれ思ったwそう思ったからこそ、
やっぱりマリーと兄弟なのかっ!!って焦ったんだけど・・・・
それともそんな顔したのってワザとだったんですか?w」
オーナー:「いっいやぁ・・・まぁ、この部屋の色んなの見たら
早とちりするるかもとか思ったら・・・とか。
それからね?あっ、まぁ取り敢えずピザ・・・・・。」
そう言ってオーナーはピザの箱を床に置いて、あぐらをかいた。
俺たちは輪になって、声を揃えてピザに挨拶をし、食べ始めた。
変な沈黙が何かを言いたげなオーナーの顔色を変えないように
俺もマリーもどうでもいいことばかりピザに向かって話しかける・・・・
二人して・・・もしかしたらオーナーもピザばかりと会話しようとしたり
目を合わせてるんだ。
一難去ってまた一難・・・・ってとこか・・・・
そんな予感が当たらぬように、ヤケに今日のピザが美味しいと
褒め称えるようだ。
その不安は俺が一番感じていて、でもそんな事は何を聞いたって
動じないって俺は思ってるとこだ。
マリーがこれ以上苦しまないないなら、ただそれだけでいいから。
ウヒョン:「あの・・・さ。」
ちょっと俺がこういっただけで、空気が切れたように二人が一斉に
こちらを見て目を固めた。
『何?何を言うの?』
マリーがそんな目をしてるように見える。
俺は、マリーに”ははっ・・・”と笑って、そんな顔をするなって
腕に手をそっと掛けるんだ。
オーナー:「うん・・・まぁ、焦んないでこれ食べちゃおうよ。ねっ?」
ウヒョン:「そうですねw・・・・でも、俺はもうお腹いっぱいですよ。
オーナー・・・一体いくつ食べるんですか?w」
オーナー:「それは俺のお腹に聞いてくれw何しろ朝から何も食べてないんだから。」
マリー:「朝から・・・・何してたんですか?しかも日本にずっといたとか・・・。」
オーナー:「フンッ??ひょっろ、はっへ・・・」
マリー:「はいっ?ちょっと待ってって言いました?オーナー・・・、私に子供の頃
言いませんでしたっけ?口に物を入れて喋るなって。
もちろん私はやったことないですけど。」
オーナー:「・・・・・っっっ!!」
ウヒョン:「ゆっくり食べてくださいwwwふははっw」
マリー:「ねっ・・・。それ。」
オーナー:「あ゛ぁーーーっ!ふぅ~・・・・。」
マリー:「だっ・・・大丈夫・・・?」
オーナー:「はい^^大丈夫ですよ?さて・・・・じゃぁ、話そうか。」
そう言った途端に直ぐに凍っていきそうな空気に、雪の女王を思い浮かべる。
電車の音が遠くで聞こえる・・・・
風の声はとても穏やかに私たちの頬を撫でては去っていく。
するとオーナーは立ち上がって、どこかに向けて足を踏み出した。
ウヒョンは食べ終わったピザの箱を袋にしまいこんでいる最中で、
オーナーを何度かチラチラと見ては急いで片付けた。
その間にマリーは、ピザソースで赤くメイクしてしまった俺の唇に、ピザと一緒に入っていた
ウェットティッシュをカサカサと開け、一度は広げてまた綺麗に畳み直すと、
俺の唇に押し当てて落としてくれた・・・・。
一瞬恥ずかしくて固まったけど俺は素直にそれに身を委ねた。
カチャ・・・
また鍵の開く音。
それはさっき入ってきた時に見た、謎のドアだった。
ここは忍者屋敷か?と思う仕掛け。
それでも静かにオーナーの次の言葉を待ち、息を呑んだ。
オーナーは振り向く。
俺たちがどんな顔をしているのかを知りながら、穏やかに。
オーナー:「ここはね?・・・・。」
オーナーがそのドアに手をかけて、ゆっくりと開くとそこはただの壁だった。
マリー:「壁?・・・」
ウヒョン:「・・・・・・。」
オーナー:「見てごらん?一見壁しかないけど・・・・ほら、ここ。」
コンコン・・・コンコン・・・・トントンッ・・・・
マリー:「あっ・・・音が違う?」
オーナーはニッコリと笑って、その音が違う場所を両手で押すと、
そこだけ急に四角い枠が見え始め、回転した。
その大きさはとても小さく、縦横3,40cmというところだろうか・・・・
その中にはバインダーと、ファイルが入っていて、オーナーはそれを取り出した。
マリー:「これは・・・私のアッパが?」
オーナー:「そうだよ・・・・でも、これはマリーのじゃないんだ。」
マリーは首を傾げる。
俺はそんなマリーの横顔を眺めると、オーナーは俺にそのファイルやらを
手渡したんだ。
ウヒョン:「えっ・・・・俺・・・ですか?」
オーナーはゆっくりと頷いて、ウヒョンを見つめた。
写真・・・・?
俺の・・・出生記録みたいな・・・・。
オーナー:「・・・・ウヒョン君。君は今の両親とは仲がいいかい?」
ウヒョン:「もちろんです。大事な両親ですし、
俺に好きなことをさせてくれて感謝してます。」
オーナー:「そっか・・・なら良かった。」
ウヒョン:「なんなんですか・・・?これ。」
オーナー:「もう分かってると思うけど、それは君だ。君はね・・・・
幼い頃養子に出されてるんだよ。」
ウヒョン:「あぁ・・・やっぱり。」
マリー:「やっぱりって・・・知ってたの?」
ウヒョン:「ううん・・・俺と両親って本当に仲がいいけど、全然似てないんだ。
血液型も違う・・・・。色々さ、今までもなんとなく変だなってことあったんだけど
ある日調べた血液検査でそれを実感したんだ。でもさ・・・血液型なんて
どうでもよくない?大きく言っちゃえば誰の子とかもwだって、俺は俺じゃん。」
マリー:「うん・・・・そうね。私もそう思う。私も、オーナーとミリさんの事、本当の両親の
ように思ってるし、私は他の誰でもなく、私だもんね^^」
オーナー:「そう思ってくれてるなら良かったよ。」
ウヒョン:「でも・・・なんでこれをマリーの両親が?」
オーナー:「私達はとても複雑な関係にあるのかもしれないね。
それを縁と呼ぶのかも知れない・・・・。
君の本当の両親はね、悲しい話しだが既に亡くなってるんだ・・・。」
ウヒョン:「・・・・・・・・・・・。」
オーナー:「君の両親はどちらも元々体が弱かった・・・・奥さんは、・・・・ウヒョン君の
オモニは若いうちから病気に侵されてね・・・若いから進行は早かった。
あっという間に天国へ行ってしまったんだ。」
ウヒョン:「それで?アッパは・・・。」
オーナー:「それはそれはとても妻を愛していたらしく、肩を落とし
日がな1日涙で終えていたそうだ・・・それからマリーの両親の友人は、何も
私だけではない・・・・。」
マリー:「じゃっ・・・じゃぁ・・・。」
オーナー:「そう・・・マリーの両親とウヒョン君の両親も親友だった。
僕ら3人は・・・・親友だったんだよ・・・・。」
するとオーナーは少しだけ目を潤ませて、笑った。
それは懐かしい旧友にあったかのような嬉しさみたいで、俺まで胸が熱くなった。
オーナー:「ずっと僕らは一緒だった。小学校・・・中学校・・・・高校とね。
割と好きな女性も似ていてねっ?w
取り合いみたいになって、良く喧嘩もしたっけなぁ~・・・」
マリー:「それでその時は誰が勝ったの?」
オーナー:「ウヒョン君のアッパだよwアッパはね、喧嘩もスポーツも駄目で
力もないwおまけに服のセンスもないっ!www」
マリー:「えぇっ・・・・そうだったんだ・・・ウヒョンの服のセンスの由来はここか・・・w」
ウヒョン:「ちょっとwwww」
オーナー:「wwwでもねっ?人一倍頑張り屋さんで、優しかったんだよ。
スポーツ苦手なくせに、マリーのオンマを守るんだってテコンドー習ったりして・・・w
でも、全然級が進まなくてなぁ~・・・w結局、段も取らずに体を心配したマリーのオンマに
止められてやめたんだっけw」
マリー:「うわぁ・・・・何それっw・・・って、えっ???私のオンマを???」
ウヒョン:「衝撃なんですけど・・・w」
オーナー:「でも、それから暫くして、気持ちがすれ違ったっていうか・・・
別れちゃったんだよね。で、その後マリーのオンマはマリーもよく知る、私もよく知るマリーのアッパと結婚したわけだw」
マリー:「・・・何その分かりにくいというかややこしい言い方・・・。」
オーナー:「でね・・・ウヒョン君の話に戻るけど、ウヒョン君のアッパは
他の人と結婚したんだ。でもさ、・・・・その時、彼女は既に・・・ウヒョン君のオンマの体は
病に蝕まれてたんだ。何度も話して、何度も喧嘩して互いに傷ついて・・・互の両親とも
交えて最終的にはそれでも愛を誓いたいって言って、結婚したんだ。」
マリー:「そうだったんだ・・・・。とても愛し合ってたのね。」
ウヒョン:「・・・・・・。」
オーナー:「それと同時にウヒョン君のアッパにも念の為に受けてもらった
健康診断で妻と同じ病が分かって・・・・。」
ウヒョン・・・・ウヒョナ・・・・
今どんな気持ち?
記憶にもない両親だけど・・・でもウヒョンの両親で・・・
さっきまで笑ってた自分が情けなく思うよ。
ごめんね・・・・
私、自分のことばかりで、ウヒョンの気持ちなんて考えてもなかった。
それでも一緒に笑ってくれたウヒョンに、
私は一体、なんて声をかければいいんだろう?
私はその時、ウヒョンの顔を見上げる。
それから直ぐに、ウヒョンの手を見下ろすと、握り締めた拳から血が滲み出てきそうな
程握り締めてるのを見た時、思わず私はその手を開いて、自分の指に絡ませた。
ウヒョンが私を見る・・・。
二度・・・軽く頷くウヒョン。
それはまるで”大丈夫・・・大丈夫だから・・・”って
言ってるようで、たまらず抱きしめたくなるの。
オーナー:「それからね・・・本当に二人は壮絶な戦いをして、天国に行くんだけど・・・
でも、その間に君が生まれた。私達はね・・・最期の願いを聞いたんだよ。
ウヒョンを頼むって。子供のいない夫婦のところへと養子に出して欲しいって。
まだ、赤ちゃんだったウヒョンを連れて福祉に相談したんだ。」
マリー:「そうだったのね・・・・・。」
ウヒョン:「俺・・・今の両親が本当の両親だと思ってます。
今、その事実を受け入れるってのはなんか違うかもしれないけど、
率直に”分かりました”っていう感想しかなくて・・・・。」
オーナー:「うん・・・そうだよな。それでいいと思うよ。でも、ウヒョン君を生んだ
オンマが死の直前まで、君を愛していたことは事実だから・・・。」
ウヒョン:「はい・・・分かってます。この写真・・・・貰ってもいいですか?」
オーナー:「もちろんだよ。その為に私がいるのだからね・・・・。」
マリー:「それで・・・オーナーと私のアッパがウヒョンを養子に・・・?」
オーナー:「うん・・・・辛い選択だったよ・・・出来るなら私らのどちらかが引き取りたかった。
でも、それはしないで欲しいって、言ったんだよ。」
マリー:「どうして?」
その間にも・・・・私の指先から時々ウヒョンの感情が伝わって来てた。
力が入ったり・・・緩んだり・・・多分、無意識だとは思うけど、でもそれは
ウヒョンの中で起こってる葛藤が渦巻いてるって感じたから、私は話しながら
ウヒョンよりもさらに強く手を握り返したの。
オーナー:「私たち3人が親友だったからさ・・・。だから、3人の子供は他人として
また繋がって欲しいっていう願いがあったみたいなんだ。そんな話も含めて
たくさんの時間をかけて、養子になってくれた今のウヒョン君の御両親にも
全てを話して了解してもらったんだ。」
マリー:「そうだったんだ・・・・。」
オーナー:「それで・・・ここはね?いつかウヒョン君がマリーと出会い、
それを伝えるために生前作った場所だったんだ。ここはマリーの家だけど、
3人の約束の部屋でもあるから・・・・。」
マリー:「約束の・・・部屋・・・・。」
オーナー:「そう・・・約束の部屋。3人と・・・そして、今のウヒョン君のご両親も
加わっていると言ってもいいかな。4人・・・だね。そして、ウヒョン君の生みの両親と
育ての両親、それから私達で思い出話しがいつか出来たらって大事にしてた。
君たちが大人になって夢を叶える頃に・・・ね。」
マリー:「でも、その夢は叶わなかったのね・・・・。」
今度は私の手が緩んだ・・・・
ウヒョンが私の横顔を、まるで自分の事のように辛そうに眺めているのが分かる。
それから、ウヒョンが私の手をぎゅっとするのも感じられた。
オーナー:「・・・・・・今度は・・・今度は・・・。」
マリー:「オーナー・・・・ごめんなさい・・・ごめっ・・さいっ・・・・。」
オーナーの目に光るそれは、私と同じ色をしているようだった。
私は恥ずかしくなった。
自分だけが辛いと思い込んでいたあの日々・・・・・・・
本当に辛かったのは誰なのだろう?
ふさぎこんでいる間に、私は何を忘れてしまっていたのだろうか?
まるで我が子のように、こんなにも私を愛してくれて、
ずっと傍に置いて見守ってくれていたオーナー。
何をしていたのか・・・・私は・・・何を・・・・?
オーナー:「いいんだよ。マリー泣かなくていいんだ・・・私がしたくてやっていただけだから。
君が生きていてくれて本当に良かったと思ってるよ?
お前の両親が、事故で亡くなった時、本当に私は呪われているんじゃないかって
自分を責めた事もあったが、そうじゃない・・・・
私はね・・・・子供がいない。知ってるだろう?でも、このアロマの香りを嗅ぐと
子供が笑ってるように感じるんだよ。君がうちに来てくれた時、私は心底嬉しかった。
私達の親友の忘れ形見・・・・君が幸せになることだけを考えてきた。」
マリー:「オーナーッ!!」
飛び込んだオーナーの胸はとても暖かく、まるでアッパに抱きしめられているかのようだ。
こんな風に抱きついたのも、そして強く抱きしめられることなんて1度もなかったけど・・・・
もしも・・・・もしもアッパが生きていたらこんな感じなんだろうって思えたの。
ううん・・・きっとオーナーの中にいるアッパが私を一緒に抱きしめてくれてるのね。
なんだか・・・そんな風に思えたの。
たくさん、泣いた。
時が止まっていたあの時の分までってくらいにね。
止まらない涙が、オーナーの白いシャツを濡らしてビショビショになっていく・・・
それでも私の涙は乾くことを知らなくて。
そしたら・・・ウヒョンが横からオーナーごと私を抱きしめてくれて、
3人で団子みたいに丸くなって一緒に泣き喚いた。
オーナー・・・・オーナーも苦しかったのね・・・・
親友を二人も失って・・・・辛かったんだね?
私は喉まで出かかっていたのに、その喉と胸が焼けるように熱くなって
声を出すことが出来ずに苦しかった。