俺は新しくやってきたこの多摩地区という土地が好きではなかったし、今でも好きでは無い。
何か流れる風も人間もノラ猫も相性が良くない。裏を返せば俺が浮いているのだろうか…?ただ部屋に籠っていてもそれはそれで嫌なので、よく詞を考えるときはカフェを利用した。

土地が無駄に余っているお蔭でカフェは空間があり居心地がいい所もあった。煙草を吸うので屋外のテラスの席が定位置だ。

こちらに来て間がないある日、先輩の作曲家との待ち合わせもあり、少し早目にカフェに行き定位置で「しょうなん」という曲の詞を練りながらノートパソコンに向かっていた。二番Aメロが定まっていなかった。そのうち先輩がやってきて、その第一声が…

「すげ~違和感、醸し出してるよ~」 である。

茶髪にジャージ、色付きメガネに袖をついまくり上げ、彫り物がはみ出してしまった右手で打つノートパソコン…

いたって真剣に仕事をしていたが、やはりテーマパークのお膝元のショッピングモールには居てはいけない人間のようであった。

六本木では何でもない風景なんだけどな…

これだ!いただきます。お蔭で二番Aメロが浮かんだ。

♪ 夢に振られた道化師が 膝を抱え苦笑い
迷い込んだパラダイス 道に迷ったふりをする


都落ちしたんだから、ピエロを演じればいい…

ス~と気が楽になった瞬間でもあった。


「しょうなん」
word : Ryousuke Natsuki / music&arrange : Hanako Murasaki
vocal : Daisaku Uruu / piano & chorus : hanako murasaki / bass : i-yamanaka / wood bass : s-hiramatsu /drums : y-tabuchi / sax : kyou / okarina : a-koshiba

しかしピエロを演じるのは口で言うほど簡単ではない…

何せ一番芸達者な人間に割り当てられる事が多い役柄だからな。さらに最もやりたくない役割の一つでもある。

そしてピエロには…もう一つの顔がある…