舞蛙堂本舗リターンズ!~スタジオMダンスアカデミーblog

ダンス(フラ・ベリーダンス他)と読書と旅行とカエル三昧の日々を綴る徒然日記。

シンデレラ、あるいは気高く美しく悲しい継母の物語

2015-05-21 05:14:58 | 徒然話
水曜日はレディースデーという事で、前から観たかった映画『シンデレラ』をようやく観て参りました。


尤も私は本来のシンデレラの物語にはあまり愛着がありません。
幼少の頃から「男性に見初められる事により辛い状況から救い出される」というシチュエーションが好きじゃなかったのだな。アレはどうにも受動的でいかん。
お城に現れたドラゴンなりテロリストなりをヒロインが勇敢にとっちめて、その頼もしさに王子がメロメロになって結婚、というのならいいんだけどね。
そもそも、結婚が「いつまでもしあわせにくらしました」の一言で片付けられるのもよく分らなかった。コレに関しては未だによく分りません(笑)。

そんな私が何故この実写版シンデレラを観ようとしたか…。
それは監督がケネス・ブラナー様だからです。
ケネス・ブラナー様……シェイクスピア演劇をやらせたら当代随一の素晴らしい役者さんです。
彼がハムレットなどを演じると、それはもう格調高くゴージャスでほんとにウットリしてしまいます。なんかシェイクスピアというか当時の演劇界はもっと大衆的なものだったんじゃないかと思えなくもないんだけど、ケネス様の荘厳なシェイクスピアこそが正義です。それでいいのです。

そのケネス様が監督を務めたのなら、間違いなく私好みのゴージャスな作品になっているに違いない。
こう確信した私は、観に行ける機会を虎視眈々と狙っていたのであります。
幸い、ディズニープリンセスに毛ほどの興味も示さない四代目も、なぜかこの実写シンデレラには興味を持ってくれた為、無事行けることと相成りました。


シンデレラの前にはFrozenの続編短編である"Frozen Fever"(邦題:エルサのサプライズ)が上映されました。
エルサ可愛いよエルサ。夏服もたまりません。
出来ればオリジナル音声で観たかったなあ。子供が日本語版にしろと言ったのでどうしようもないとはいえそこが残念でした。
アナ役の神田サヤカちゃんはちょっと可愛すぎるんですよね。元々のアナはもっと腹の底から大声を出したりする娘さんで、それを忠実に再現して欲しかったんですけど、日本だと年頃のお嬢さん、それもああいう可愛らしい容姿の女の子はあまりそういう声を出さない事になっていますから仕方がないんでしょうか。
トイストーリーのジェシーの声も然りです。日本語版の声優さん、可愛くて好きなんだけど可愛すぎるらしく、ジェシーがすげえ雄叫びを上げて周りのオモチャがビクッとするシーンなんかが活きて来ないのが残念です。


まあ、今日の本題はシンデレラですのでそちらに移りましょう。

ちなみにミもフタもない事を申しますと、描かれる物語は基本的にディズニーアニメと同じです。
マレフィセントのようなドンデン返しはありません。
しかし決定的に違う部分が一つあり、それがこの実写版の印象をアニメ版とは全く異なるものにしています。

それは「意地悪な継母」トレメイン夫人の描写です。

トレメイン夫人の初登場シーンからさほど経たないうちに、彼女こそがこの映画の影の(そしておそらく真の)ヒロインではないかと思うようになりました。
実際、エンドロールではシンデレラよりも先に一番目にトレメイン夫人の名が流れますから、あながち間違っていないんじゃないかと思います。




こちらが初登場時のトレメイン夫人。
えっらいゴージャスです

まずその出で立ちのゴージャスさに私は心を奪われましたね。
シンデレラの家は邸宅とはいえ緑ゆたかな場所なんですが(ありていに言えば田舎)、そののどかな風景から浮きに浮きまくる都会的なゴージャスファッション!!
特にアシンメトリーながら調和の取れた帽子なりヘッドドレスと完璧にセットされたヘアスタイルにやられました。




実の娘に自分の似顔絵を描かせているところ。娘が描いてる絵は酷いですが(笑)、ご本人は途方も無い美しさです。創刊当時のVOGUEの表紙を飾ってそう。




シンデレラと王子の運命の舞台である舞踏会でのドレスもこれまた美しい。
この日の為に設えたドレスは、やはりアシンメトリーで斬新な印象を与えつつ、クラシカルなお城の内装ともマッチしています。羽のヘッドドレスも好みですねえ!


これらの画像をご覧いただけば分るように、トレメイン夫人の美しさは作り上げられた美です。
もちろん演じるケイト・ブランシェット様も元から美しいんですけれど、ここでは生まれつきの美しさよりも、ゴージャスな装いを凝らし、入念にメイクアップする(あの瞼のダブルライン真似したい!!)事で作り上げられた美しさの方が前面に打ち出されている。
そして、私にはこれが彼女の生き様そのものを表しているように思えてならないのです。

トレメイン夫人はつねに美しく、気高く、強い女性であろうとしています。
あらゆるものを自分の力でコントロールしたい、私にはそうするだけの価値(権利)がある、と自分でも固く信じている印象を受けます。

おそらく生来プライドの高い女性だったのであろうと想像出来る上に、彼女の境遇を考えると、余計そうならざるを得なかったのではないでしょうか。
「夫人」という呼び名どおり、彼女は元々トレメイン氏(有力な商人だったらしい)の妻であり、娘も二人いるのですが、夫であるトレメイン氏が亡くなってしまった。
残念ながら当時は女性が一人で生計を立てられる時代ではなかった。そこで、同じく伴侶を亡くしたシンデレラの父と再婚する事にし、娘を連れてシンデレラの家へとやって来たのです。

元々プライドの高い女性であれば、こういう辛い状況下におかれた時こそ、尚更プライドを保たねばならない、安んじられてはたまるものかと考えるであろう事が容易に想像出来ます。
だからこそ隙のないゴージャスなドレスとメイクで「武装」してシンデレラの家に乗り込んで来たのではないでしょうか。


ところが、初めて会ったシンデレラを見て彼女は動揺します。
何しろシンデレラは美しいのですから。
しかも「作り上げられた美しさ」ではなく「生まれ持っての美しさ」をシンデレラは持っています。
あのねえ、私みたいに厚化粧で10年も生きていると身にしみて分るけど、製作した顔でしか人前に出られない類の女にとって、スッピン美人というのは果てしない絶望を感じさせる存在なのだよ。
それでも流石トレメイン夫人、新たな夫となったシンデレラの父に「娘さんがあんなに綺麗だなんて知らなかったわ」などと発言して余裕のある風を装っています。


それに加えて、再婚相手の家での生活を始めて程なくして、トレメイン夫人は見てしまうのです。
シンデレラと父親の固い絆、そして未だ薄れない実母(前妻)への思慕を。
もうこうなると太刀打ち出来ないよね。
生まれ持っての美しさ、そして父親(トレメイン夫人にとっては夫)からの掛け値無しの愛情。
トレメイン夫人がどれほど完璧に装い、完璧に振る舞っても、決して敵わないシンデレラという存在。
嫉妬から憎しみが生まれるのは当然の成り行きであったと言えましょう。


まあ、だからといってイジメていいってことにはならないけどね。
シンデレラの父が仕事のため旅に出るなり、トレメイン夫人は我が物顔に振る舞い始めます。
シンデレラから自室を取り上げ、自分の娘達に与えたうえで、シンデレラは屋根裏部屋に追いやる始末。




ちなみにこちらがトレメイン夫人の実の娘達です。
母上と違って知性を感じさせないっつーか実際かなりおバカです(笑)。
まあ私は嫌いじゃないんだけどな。可愛いんだけどちょっと毒々しいファッションセンスがベッツィ・ジョンソンっぽいです。


旅先でシンデレラの父があっけなく亡くなってからは、シンデレラの境遇はさらに酷くなっていき、一人でありとあらゆる雑用をさせられるようになってしまいます。
ここ、シンデレラへの同情ポイントですね。
それでも思いやりを失わず、ささやかな事に喜びを見出そうと努力するシンデレラの姿は本当にいじらしく、観客は皆彼女に感情移入しまくりだった事でしょう。


しかしどうしてもトレメイン夫人への同情がやめられない私。

いえ、虐めるのは悪い事ですよ、私もイジメは大っ嫌いです、しかし、トレメイン夫人の状況もよくよく考えるとなかなかに悲惨です。
だって生活の為に再婚したのに、その相手にまた先立たれてしまったんですよ。
「生活の為に再婚」とか言うと悪い事のようですけど、さっき書いたように当時の時代背景を考えると、子供を抱えた女性にはどうしようもない選択肢だったと思うんです。
生活の当ては無いし、娘も養わなければならない、ただでさえ大変なのにあの憎たらしいシンデレラの面倒も見なくちゃいけないなんてホント苛立たしい!などという思いから、イジメがエスカレートしていったんでしょうね(だからそれは悪い事ではあるのですが)。


過酷な生活に耐えきれなくなったシンデレラは、馬に乗って家から逃げ出し、森の中で運命の王子と出会います。
このくだりはアニメには無い部分ですね。
いつも舞踏会で数時間踊っただけで結婚とか有り得ないと思っていたので、こういうシーンを差し挟んだのは良かったと言えましょう。


そこから先はまあ、元々の物語どおりです。
王子の結婚相手を決める為の舞踏会が開かれる事になり、王子に見初められるべく張り切るトレメイン夫人とおバカ姉妹。
シンデレラもお母さんのドレスを着て一緒に行こうとしますが、継母と姉達にドレスを無惨に引き裂かれ、絶望して泣いているところにフェアリー・ゴッドマザーが現れます。




フェアリー・ゴッドマザーを演じたのがヘレナ・ボナム・カーターさんです。
ケネス様の元カノですね。
最新のパートナーはティム・バートンさんで(もう別れたようです)、要するに映画界の才能あふれる男性達をメロメロにさせてるわけですが、私もこのお方が大好きなので彼らの気持は分ります。
ハリポタのベラトリックスさんも彼女が演じてますね。ホント好きです。
今回のフェアリー・ゴッドマザーも、何とも可愛くて不思議で現実離れしてる魅力的なキャラクターでした。


フェアリー・ゴッドマザーの魔法で無事に舞踏会へ行く事が出来たシンデレラ。
美しいドレスをまとってお城に到着し、王子とも再会して、12時の鐘が鳴るまで夢のようなひとときを過ごしました(分かりきった話なのでメッチャ端折ってます)。

ちなみにアニメ同様実写でもこの王子はシンデレラをひと気の無い暗がりへと誘います。アンタ何か下心でもあるのか。
しかしそこはディズニー映画、彼にもし下心があったとしても、何も起きないうちに12時が来て二人はまた離ればなれになりました。


シンデレラは何事も無かったかのように召使いのような暮らしに戻りました。
しかしトレメイン夫人は、彼女のただならぬ様子から「舞踏会に現れた謎のプリンセス」が他ならぬシンデレラであると見抜きました。
シンデレラに対する嫉妬と憎しみがさらに燃え上がるトレメイン夫人。取り上げたガラスの靴を打ち砕いてしまいます。

継母の意地悪ここに極まれり、という感じですが、きっと自分が望んでも得られない(得られなかった)ものをみな持っている上、「我が子と王子との結婚」という最後の望みの一つまで奪い取られた気がして(まあそこはハッキリ言って逆恨みなんですけど)、憎しみがピークに達したのでしょう。


トレメイン夫人は何とかしてシンデレラと王子を引き合わせないよう、悪代官…じゃなかった悪太閤と共謀しましたが、シンデレラの友達である小鳥やネズミ達の活躍により、王子は無事シンデレラを見つけ出す事が出来ました。

王子と手に手を取って家を後にするシンデレラを、後ろの階段の上から呆然と見下ろすトレメイン夫人。
シンデレラはそんな彼女に振り返って一言「あなたを許します」と告げました。
圧倒的な敗北感からかその場に座り込んでしまうトレメイン夫人。
「その後、夫人と二人の娘は太閤とともに国を去り、二度と戻る事はありませんでした」というナレーションで、トレメイン夫人は舞台から退場します。


この(トレメイン夫人にとっての)ラストシーン…。
腑に落ちないのは私だけでしょうか。
あんなに酷い目に遭わされたのに「許します」と言ったシンデレラはやっぱり素晴らしい子だわ、という美談なんでしょうけど、トレメイン夫人の心情を思うとどうにもやりきれない。
彼女は彼女なりに苦しみ、嫉妬や憎しみといった醜い感情に身を焦がし、それでも強く気高くあろうとしていたのに。

一方のシンデレラは、確かにどんな境遇にあっても優しい心を失わず、清く正しく生きて来たのは素晴らしい事です。
でも彼女は何しろ生まれつきあれだけ美しいし、親御さんの愛情をたっぷりと受けて育ったし、さらには王子からも愛される事になった。
それは彼女が清く正しく生きて来たからこそだ、と考える事も出来るんですが、果たして彼女がトレメイン夫人と同じ状況下におかれたとしてもその生き方を貫けたのか?などと考えてしまうのは、やはり私がひねくれているからでしょうか。


まあ、「どれほど同情すべき点があろうとイジメは絶対悪だよ」という教訓だと考えて、何とか納得しました。
私はトレメイン夫人を見習ってどんな時もプライドを持って生きていたいけど、彼女のように誰かをいじめるのは絶対にやめようと思いました。と学校の読書感想文に書いたら合格を貰えるのかな。貰えないだろうな。





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