鈴木紀之「すごい進化」 | 世界文学登攀行

世界文学登攀行

世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

すごい進化
――「一見すると不合理」の謎を解く


若い学者が書いた、進化生物学の本。


生き物は、厳しい自然淘汰を経て、その環境に適応できたものだけが次代へと遺されていく。
しかし、自然淘汰による適応は万能ではない。なんらかの原因により、適応が妨げられることがあり、それを制約という。
今、目の前にいる生き物の生態は、「適応」により最適化され、勝ち得たものなのか、それとも「制約」により、発展途上、あるいは改善が必要なものなのか。
進化の研究は、解釈の問題でもあり、哲学的な議論になりやすいとまで、著者は指摘する。


本書は、この「適応」と「制約」という両極にあるとらえ方の中で、「適応」側に重心をおくスタンスで論を進める。
すなわち、一見「制約」により、不合理な性質が保持されているような生き物を具体的に取り上げ、これは「適応」による進化の結果なのではないかと語られていく。
あくまで仮定の話しであり、それが正解とは限らない。
しかし、学者らしい、丹念なデータの積み重ね、客観的な検証などを経て、既存の学説への挑戦も含めた、非常に読み応えのある一冊となっている。
研究の最先端を体感させられる、非常に刺激的な読書体験となった。
交尾をしても子供ができない異種のメスにもオスが求愛してしまうという求愛のエラー、つかまえにくく栄養的にも「おいしくない」エサをつかまえることに特化したスペシャリスト、など、人間の目から見たら合理的ではないものを、下等な生き物の限界と切り捨てるのではなく、自然界の神秘としてとらえていく研究者の目線を通じて、進化生物学の面白さを感じることができた。


前に、同じ中公新書の「ウニはすごい バッタもすごい 」という本を読んだ時に、進化のプロセスは、プログラミングとか、シュミレーションゲームを見ているようだと感想を書いたが、今回も同じような感想を持った。
コンピューターのような精緻で大胆で容赦のない自然界の法則。
僕ら人間も、この法則の下で、目に見えない選択を迫られながら生きているのかもしれないとそんなことを思った。



すごい進化 - 「一見すると不合理」の謎を解く (中公新書)/中央公論新社
¥929
Amazon.co.jp