桜田美津夫「物語 オランダの歴史」 | 世界文学登攀行

世界文学登攀行

世界文学の最高峰を登攀したいという気概でこんなブログのタイトルにしましたが、最近、本当の壁ものぼるようになりました。

物語 オランダの歴史
――大航海時代から「寛容」国家の現代まで


今回はオランダの歴史である。
16世紀、ハプスブルク家からの独立闘争が物語のはじまりである。


他国の歴史の本を読むといつも思う。
人名や地名がほとんど聞いたことのないものばかりで読むのに骨が折れる。
今回も、オランイェ公ウィレムくらいはなんか聞いたことあるなあというくらいで、要はオランダに対する予備知識などほとんどなかった。


カルヴァン派とカトリックの闘争。
16世紀後半から17世紀にかけて、スペイン・ポルトガルに次いで、小国ながら世界の大航海へと飛び出した栄光の時代。
4度に及ぶ、イギリスとの英蘭戦争。
あのナポレオン帝国には併合され、ナチスドイツの占領により国力は疲弊した。


まさにオランダの歴史とは、激動のヨーロッパの歴史の縮図なのである。


僕にとっては16世紀以降のヨーロッパの歴史とは、野蛮な侵略の歴史である、と決めつけていたが、それも一面的な偏った見方なのだと痛感する。
歴史を俯瞰する立場から、そういう高みに立脚するのもいいのかもしれないが、渦中の当事者にとっては、瞬間瞬間に重要な決断を要求され、また何もあずかり知らぬところで起こった事件に巻き込まれて翻弄される格闘の歴史なのである。
オランダ本国はヨーロッパの大国に阻まれて、経済的衰退を余儀なくされるが、植民地経営を通じた利益を上げることに成功する。
しかし、そのために植民地に対してオランダがとった行動は、非常に冷酷で暴君的なものであり、ここでもヨーロッパ的な表情が見えてくるようだ。


一方、オランダという国は、日本とも実はつながりが深い。
江戸時代は、長崎の出島に駐留させたオランダ人を通じて、ヨーロッパの文明を吸収していた。
「蘭学」という言葉に表されるように、長年オランダは、日本からヨーロッパ社会に通じる窓口であった。
しかし、両国の間には、悲しい時代もあった。
第二次世界大戦中には、オランダの植民地であるインドネシアに日本軍が侵攻したために、両国は敵同士であった。


日本は敗戦国として、原爆投下、大空襲など、日本本土への攻撃をクローズアップされることも多いが、アジア諸国への侵略については、ほとんど言及されない。他国の歴史を通じて自国のことを知る、というのもうかつな話ではあるが、まだまだ知らねばならないことが多いことを痛感する。


最後に、こういう他国の本を書く人というのは、好きだから研究している、あるいは研究しているうちに好きになるのだろうが、あとがきを読んで少し苦笑いをしてしまった。
「本書を読み、オランダの歴史・文化・社会に少しでも興味を持たれた方は、ぜひオランダ語の学習にも挑戦していただきたい」(P304)
ハードルが高いよ。
ちょっと興味がわいただけでそんな図々しいこと言ってくるんだなあというのが苦笑いの原因だが、この本の著者はそのあと、辞書をボロボロになるまで使って勉強した話しを載せている。
こういう情熱を持った真摯な学者がいるからこそ、僕らは日本にいてオランダの歴史を学ぶことができる。
それはありがたい話しだなあと改めて思った。



物語 オランダの歴史 - 大航海時代から「寛容」国家の現代まで (中公新書)/中央公論新社
¥972
Amazon.co.jp