「砂の器」
風に倒れて朝を迎えた自転車は、雨に打たれて錆び続けてしまうんだ、
綻び続ける古い毛布は風のなか、昨日よりも色褪せている、
犬が吠えたら南へ歩け、その足跡はコヨーテたちが過ぎた跡、
名前のない湖に、真新しい季節を冠した名前をつけて、
水際には細く長いシルエット、優しいふたりが並んで見えた、
それはたぶんいつかの幻影、通り過ぎてしまった「いつか」、
砂の器を持ち寄って、透き通る水を掬う、
消えて溶けてゆくのを見てた、それでいいって彼女笑った、
ほとりにチェーンの錆びたブランコが、春待つ柔らかい風に揺れてる、
名もない湖の水は空に溶けてふたりの姿を映し続ける、
砂の器をふたつ合わせて、持ち寄るための水を掬う、
それはあまりに澄み渡り、冷えゆく指が不思議なくらい、
歩けば先に何か見えると希望をひとつ飲み込んで、
水に浮かべた砂の器が沈んでゆくのをただ見てた、
歓びもなく哀しみもなく、過ぎる時間として見てた、
見果てる向こうに花が咲く、
新たな奇跡が広がりますよう願い託した砂の器は水深にて星粒に、
溶けて散らばり消えてしまった、なぜかその一粒ずつに光が映る、
そんなふうに見えたのは、そう見ようとしただけか、
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