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 その28



コーヒーの缶くらいの大きさのペニスだった。勃起しているわけではない。ただ力なくぶらさがっているだけなのに、それほどの大きさだったのだ。16歳のものとは思えない。

舞は開いた口がふさがらなかった。

「うわっ!」

普段は高校生らしからぬ落ち着きをみせる龍も動揺したらしかった。ドアを慌てて閉めて、ややあってからワイシャツと学生ズボンという普段のいでたちで風呂場から出てきた。

舞は龍の股間をチラリと盗み見てみたが、黒い学生ズボンの上からでは、その存在はよくわからなかった。2人の間に、気まずい空気が流れる。

「学生服が乾くまで、テレビでも見ててね」

舞は龍にそう言い残し、風呂に入った。

さっきまでここに佐々木龍が、あの巨根がシャワーを浴びていたのだ。シャワーの湯にあたりながら、龍のペニスのことばかり考えていた。

私、どうしたのかしら。

先日201号室で久米に犯されたとき、確かに舞は快感を覚えていた。今度また脅されたり、言い寄られたりしたときに、断りきれるだろうか。それとも体は求めてしまうのだろうか。

私ってこんなに淫らだったのかしら。それにしても大きなペニスだった。もし勃起すると、どれほどの大きさになるのだろう。結局は龍のペニスへと、思考は戻っていた。

体がかなり温まったので、シャワーを止めてバスタオルで体を拭く。

「しまったっ!」

パンツをはいてから、舞は気づいた。ブラジャーを準備し忘れたのだ。龍の巨大なペニスに気を取られていたのかもしれない。

雨に濡れて湿ったブラジャーなら目の前にあるのだが、それをつけるわけにもいかない。舞はそのままジーンズをはき、トレーナーを着た。この少し厚めのトレーナーなら、乳首は目立たないだろうと思い直したのだ。

風呂場から出ると、龍はこたつに入ってテレビを見ていた。舞は冷たい麦茶をグラスに注ぎ、龍の前に差し出した。舞もこたつに入ってテレビを見る。

沈黙。

テレビでは、お笑い芸人が下町の食卓にお邪魔し、夕飯を分けてもらっている。

テレビの内容が頭に入ってこなかった。今このこたつの中には、あの巨根が居座っているのだ。

「舞さんはデートだったんですか?」

「え?」

「彼氏さんとデートだったんですか?」

「ああ、ただの女子会よ。加奈子さんと同じこと言うのね」

舞は思わず笑った。

「母もそんなこと言ったんですか?」

「今朝、出かけるときにね。『もしかして男?』だって」

龍は気まずそうに頭をかいた。

「加奈子さんはお仕事みたいね。日曜日に開いてる耳鼻科ってあるのね」

「……患者は男ばかりだけどね」

龍は小声で言ったので、舞にはよく聞こえなかった。

「え?」

と聞き返したところで、突然悲鳴が聞こえた。

「ああああっ! いつもより気持ちいいいっ!」

隣の203号室の中嶋ららの声だった。