もうすぐ終電の時間だったから、バタバタと店じまいをして。
「じゃ、松本くん。またね!」
駅に向かって走って行く彼女を見送った。
タクシーで送るって言ったのに、電車がいいと聞いてくれなかった。
ひとりタクシーに乗り込んで、住所を伝える。
髪からは、整髪料の匂いに混じって、彼女の香水の匂いがした。
この間のキスの理由、聞くの忘れたな・・・。
そっと頬に指を触れさせて、窓の景色を眺めた。
翌日、新しい髪型の事を聞かれたけど。
「気分転換だよ」
と言って、話を反らせた。
ふわふわとした髪のせいで、気持ちもなんだか浮ついてる。
でも、彼女に会う口実がなくなった。
どうやって次の約束をしよう?
携帯を取り出して、トーク画面を出してみるけど。
誘う口実が見当たらない。
笑いながら収録をしても、どこか上の空。
「調子悪いのか?」
心配したメンバーが声をかけてくれる。
「いや、そんなことないよ。ごめん」
謝ったら、大丈夫ならいいって笑ってくれた。
彼女の事は、少し置いておこう。
自分にそう言い聞かせて、次の仕事へ向かう。
移動車の中から彼女の店が見えた。
丁度客を見送る為か、出てきた彼女が見えた。
ニコニコ笑って頭を下げてる。
客の背か見えなくなるまで手を振って、店の中に戻って行く。
近くに居るのに、遠い距離。
ふぅっとため息を吐いたら、震えた携帯。
『30日、昼間にタイムカプセル出すけど、潤は来れそうか?』
友達からの確認メッセージ。
30日は夕方からの仕事だったはず。
彼女に会える口実が、見つかった。